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一人百物語

お花見

作者: 犬猫夜行
掲載日:2026/07/18


二十年以上前、開腹手術のために二週間ほど入院した時の話。

当時は病院の裏庭兼駐車場で何本もの桜が満開で、今年は花見どころじゃなくなっちゃったな、とその桜を病室から眺めていた。

手術は午前中に行われ、寝台に寝かされたまま、昼前に病室に戻って来た。

手術が終わってしばらく後、麻酔が切れ出したぼんやりとした頭でうとうととしていた。

ふと気付くと。

目の前に満開の桜が広がっていた。

綺麗だなと思った。

しかし。

桜?

目の前に?

いやちがう。

自分はついさっき手術を受けて、今ベッドの上でへたばってるところだが?

と気付いた。

私は自分が今どこにいるのだろうと桜の中からあたりを見回した。

花波の間から、下の方にフェンスとコンクリートに黄色いペンキで描かれた線と"11"という番号、その近くには消火栓の赤い金属の箱が見えた。

ここは、と思っていると目が開いて、自分はやはりベッドの上でへたばっていた。

あちこち管だらけのなさけない格好で。


目の前に満開の桜。

綺麗だった。

臨死体験で見るお花畑というものは、あんなものなのかもしれない。

しかしあれだけ間近に桜を見るには、梯子にでも登って花の中に頭を突っ込まなければ無理?


手術してから数日後、歩ける様になってから裏庭の桜の下に行ってみた。

桜と病院の隣りの敷地の間は、フェンスで仕切られていた。

赤い消火栓の箱もあった。

駐車場になっている場所には、コンクリートに黄色いペンキで駐車枠の線と番号が描かれていた。

消火栓の箱近くの番号は

11だった。

その番号を見て、私はへぇぇ、とすでに花の大方が散ってしまった桜を見上げた。


真昼の桜の花波の中を、ふらふらとしている私の生霊だかを見た人はいるのだろうか。




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