お花見
二十年以上前、開腹手術のために二週間ほど入院した時の話。
当時は病院の裏庭兼駐車場で何本もの桜が満開で、今年は花見どころじゃなくなっちゃったな、とその桜を病室から眺めていた。
手術は午前中に行われ、寝台に寝かされたまま、昼前に病室に戻って来た。
手術が終わってしばらく後、麻酔が切れ出したぼんやりとした頭でうとうととしていた。
ふと気付くと。
目の前に満開の桜が広がっていた。
綺麗だなと思った。
しかし。
桜?
目の前に?
いやちがう。
自分はついさっき手術を受けて、今ベッドの上でへたばってるところだが?
と気付いた。
私は自分が今どこにいるのだろうと桜の中からあたりを見回した。
花波の間から、下の方にフェンスとコンクリートに黄色いペンキで描かれた線と"11"という番号、その近くには消火栓の赤い金属の箱が見えた。
ここは、と思っていると目が開いて、自分はやはりベッドの上でへたばっていた。
あちこち管だらけのなさけない格好で。
目の前に満開の桜。
綺麗だった。
臨死体験で見るお花畑というものは、あんなものなのかもしれない。
しかしあれだけ間近に桜を見るには、梯子にでも登って花の中に頭を突っ込まなければ無理?
手術してから数日後、歩ける様になってから裏庭の桜の下に行ってみた。
桜と病院の隣りの敷地の間は、フェンスで仕切られていた。
赤い消火栓の箱もあった。
駐車場になっている場所には、コンクリートに黄色いペンキで駐車枠の線と番号が描かれていた。
消火栓の箱近くの番号は
11だった。
その番号を見て、私はへぇぇ、とすでに花の大方が散ってしまった桜を見上げた。
真昼の桜の花波の中を、ふらふらとしている私の生霊だかを見た人はいるのだろうか。




