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役立たずスキル《返品》を押し付けられて追放された俺、実は世界すら返品できる最強能力でした  作者: 久遠


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第三章 返品不可の絶望、あるいは真実の片鱗

 『帰還の勇者』としての名声が最高潮に達した頃、俺は王都で行われる祝賀会に招かれていた。かつて俺を追い出した国王やクラスメイトたちが、今では媚びを売るような視線を送ってくる。滑稽なものだ。


 だが、その宴は、一瞬にして地獄へと変わった。


――ドォォォォォォンッ!!!


 王宮の巨大な尖塔が、上空から降り注いだ黒い雷によって粉砕された。轟音と悲鳴。瓦礫が降り注ぐ中、空に浮かぶ一人の男が現れた。

 漆黒の鎧に身を包み、背中には禍々しいコウモリのような翼。溢れ出る魔力だけで、周囲の空間が歪んで見える。


「人間ども、興が乗った。この国の『希望』とやらを、今ここで摘み取ってやろう」


 魔王軍十二幹部の一人、冥府将軍ザルガス。伝説級の魔物が、予告もなく現れたのだ。


「ひ、ひいいっ! 勇者! 聖剣の勇者はどこだ!」


 国王が取り乱して叫ぶ。クラスメイトの『聖剣術』持ちがガチガチと震えながら前に出たが、ザルガスが指先一つで放った魔弾一発で、聖剣ごと壁に叩きつけられた。

 チート能力を持ったクラスメイトたちが、手も足も出ない。圧倒的な、力の差。


「やれやれ、仕方ないな」


 俺は溜息をつきながら、優雅に瓦礫の山を歩いた。周囲の視線が俺に集まる。


「おい、あれは『帰還の勇者』だ!」


「彼なら……彼ならなんとかしてくれる!」


 期待の眼差し。いい気なものだ。前まで俺を蔑んでいたくせに。まあいい。こいつを「返品」すれば、俺の評価はさらに揺るがないものになる。


 俺はザルガスの直下まで歩みを進め、挑発的に手招きをした。


「おい、そこのでかいカラス。あんた、ちょっと場所を間違えてるぜ。お家に帰してやるから、降りてきな」


「ほう……。我にその口を利くか、虫ケラが」


 ザルガスが音もなく俺の目の前に着地した。好都合だ。射程内。

 俺は全神経を集中させ、最速の踏み込みで、ザルガスの胸甲に掌を叩きつけた。


「《返品ヘッピン》ッ!!!!」


 勝った。

 これまで、このスキルから逃れた者はいなかった。たとえ魔王軍の幹部といえど、本来あるべき場所――魔王城の玉座の前にでも戻るがいい。


 ……しかし。


「…………え?」


 視界は変わらない。目の前には、依然としてザルガスが、不気味な笑みを浮かべて立っていた。


 スキルは、発動した。確かに魔力を消費した感覚はある。なのに、こいつは消えない。


「……何をした? 今、妙な力が我の体に触れたようだが」


 ザルガスは、蚊に刺された跡を見るような目で俺を見下ろした。


「馬鹿な……。なぜ、返品されない……!」


「返品?くくく……、なるほど。貴様が噂の『帰還の勇者』か。触れたものを元の場所に戻す、奇妙な権能の使い手」


 ザルガスは俺の胸ぐらを掴み、片手で軽々と吊り上げた。


「無駄だ。人間の小僧」


「が……はっ……!」


「我々魔族は、この世界の淀みから生まれた正真正銘の『この世界の住人』だ」


 ザルガスの顔が、至近距離まで近づく。その瞳には深い嘲笑が宿っていた。


「我々に『戻る場所(外の世界)』など、どこにもないのだよ」


 その言葉を聞いた瞬間。俺の脳裏に雷が落ちたような衝撃が走った。


 ——《返品ヘッピン》のスキルの説明は、たった一行。『所有したものを元の場所に戻す』


 俺はこれまで、それを「武器屋」や「ダンジョン」といった、この世界の中での定位置だと思い込んでいた。だが、ザルガスの言葉が真実なら、このスキルの言う『元の場所』とは、もっと根本的な……


『存在の発生源(世界)』を指しているのではないか?


 魔族はこの世界の住人だから、この世界からは返品できない。賊や魔物は、この世界の中での帰属意識が強い場所へ戻っただけ。

 なら……。異世界から召還された、俺たち「勇者候補」は?


 俺たちの『元の場所』は、この世界じゃない。 あの退屈で平和だった、元の日本せかいだ。


「まさか……」


 掴まれた首筋から、血の気が引いていく。このスキルは、俺が思っていたような便利なチートじゃない。これは、俺自身を……俺たち召還者を、強制的に元の世界へ連れ戻すための……

脱出エラーチェック」のスキルだったんだ。


 俺がその真実に気付いた時、ザルガスの爪が、俺の心臓を貫こうと振り上げられた。


「さようなら、異邦の勇者。貴様の『返品』とやら、我が冥土への土産にしてやろう」


 絶体絶命。だが、俺の心は、恐怖ではなく、ある一つの「確信」に支配されていた。


(……待てよ。この世界の住人は返品できない。でも、この世界そのものは?)


 俺は、薄れゆく意識の中で、最後の賭けに出る準備を始めた。

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