第二章 お家に帰りなさい、悪党の皆様
それから一ヶ月。俺、高杉カイトの置かれた状況は一変していた。
城下町から少し離れた宿場町。俺は今、ギルドの依頼で商隊の護衛に就いている。
「おい、カイト。本当に大丈夫なんだろうな? お前の武器、相変わらずその『なまくら剣』一本だぞ」
雇い主の商人、ガリウスが不安そうに俺を見る。
「問題ありませんよ。俺の戦い方は、ちょっと特殊なだけですから」
俺は笑って答える。
あの後、俺は《返品》の検証を重ねた。このスキルの真髄は、『所有権』の定義の広さにある。
例えば、俺に向かって振り下ろされた剣。俺がその刃を指先で弾けば、その瞬間、物理的な干渉によって「俺の処理対象(=一時的な所有物)」として認識される。そうなれば、あとは念じるだけだ。
「――出たぞ! 街道荒らしの『黒風団』だ!」
ガリウスの悲鳴が上がる。
森の影から、見るからに質の悪い武装をした男たちが二十人ほど飛び出してきた。
「へへっ、いいカモだ。命が惜しければ荷物を置いて……」
「悪いけど、あんたらに構ってる暇はないんだ」
俺は一歩前に出る。賊の頭目がイラついたように、俺の胸ぐらを掴もうと手を伸ばしてきた。
「ガキが、なめてんのか!」
その手が、俺の肩に触れた瞬間。俺は静かに呟いた。
「《返品》」
シュンッ!
「…………な?」
残された賊たちが、目を見開いて固まる。たった今、俺の目の前にいたはずの頭目が、煙のように消え失せたからだ。
「お、おい! 頭をどこへやった!」
「どこって……『元いた場所』ですよ。彼には立派な犯罪歴があるみたいだし」
数秒後。
遠く離れた王都の『大監獄・特別独房』にて——
突如として空間から現れた頭目が、壁に激突して気絶し、看守に囲まれることになるのを、この場にいる誰も知らない。
「次、来たい人は?」
俺が手招きすると、賊たちは恐怖に顔を歪ませて一斉に襲いかかってきた。
ある者は剣を振り回し、ある者は魔法を放つ。だが、無駄だ。飛んできた火球を掌で叩けば、それは『放たれた魔法陣の中』へと返品され、術者の手元で大爆発を起こす。斬りかかってくる剣を指で弾けば、賊たちは『自分のアジトのベッドの上』へと強制送還される。
「ひ、ひいいいっ! バケモノだ!」
「消えた! みんな消えちまった!」
わずか数分。二十人の賊は、一人残らずこの場から「返品」された。静寂が戻った街道に、俺の足音だけが響く。
「……ふぅ。これで片付きましたね、ガリウスさん」
「あ、ああ……。君、やっぱりただ者じゃないな……」
ガリウスは震える手で俺に金貨の袋を差し出した。
この一件を境に、俺の名は冒険者の間で急速に広まっていった。どんな凶悪な魔物も、どんな冷酷な犯罪者も、俺が触れれば一瞬で「本来あるべき場所」へ消えてしまう。
死体も残らない。血も流れない。だが、確実に排除する。
いつしか俺は、畏怖を込めてこう呼ばれるようになった。『帰還の勇者』
あの時、俺をゴミのように捨てた王室やクラスメイトたちが、魔王軍の侵攻に手を焼いているという噂を耳にするたび、俺は皮肉な笑みを浮かべる。
「返品不可なんて、言ってないからな」
だが、この時の俺はまだ知らなかった。この《返品》というスキルが持つ、『真の恐ろしさ』と『世界の理』を。
運命の時は、すぐそこまで迫っていた。




