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「今晩はいかがなさいますか?」と侍女は囁く  作者: SIS
第一部 欲望の館

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第八話 及第点


 そして、朝が来た。


 傍らには小さく寝息を立てる雫ちゃん。彼女の胸元が露になりそうなのを見て、私はシーツを肩まで引き上げた。


 小柄な彼女は、どこか気まぐれな猫がベッドに寝ているようにも思える。


「…………」


 なかなか情熱的な夜だった。


 とりあえず雫ちゃんも初めてだったようだ。色々な反応を見ても、男性経験が無かったのは間違いない。


 まあ彼女の雰囲気で、実はバリバリ経験があります、とかだと別の意味で衝撃的過ぎて心が折れるが。


 それはそれとして、意外な事に雫ちゃんは積極的だった。


 比較するのはなんだか悪いが、終始、苦しませないように気を使う必要があった宮子ちゃんと比べると、彼女は慣れるのがかなり早かった。


 正直、私は多少乱暴だったと思うのだが、彼女は特段苦痛に感じていなかったように見える。むしろ、そっちの方が反応が良かったような……。


「いかんいかん」


 頭を振って邪な考えを振り払う。


 このままでは朝から第二ラウンドを始めてしまいそうだ。メアリは咎めはしないと思うが、流石に雫ちゃんが持たない。


 深い眠りに落ちている彼女を起こさないように、そっとベッドから出て服に袖を通す。


 ついでに床に転がっているメイド服も、軽く畳んで並べておく。


「……ボタンが取れてるな……。あとちょっとここ、破れてる……」


 そのさなかで、思っていた以上に昨晩の自分が冷静ではなかった事を思い知らされて、ちょっと凹む。やはり自認ほど当てにならないものはない。


「さて、シャワーを浴びてくるか……」


 誰に聞かせるでもない独り言をつぶやき、部屋を出た瞬間。


「旦那様」


「うわぉう!?」


 気が付けば背後に侍女の姿。びっくりして竦み上がる私に、首無しメイドは静かに佇んでいる。


 気のせいか。


 なんか、機嫌が悪い……?


「お、おはよう、メアリ。……その、何か、やらかした? 私」


「やらかしてはいませんが……まあギリギリ及第点といいますか」


 歯に物が挟まったような言いようで、メアリは私に辛口採点を下した。


「私は、侍女を道具として使うように、とお願いしたはずです。なのに口説いてどうするんですか。侍女を愛人にでもするおつもりですか?」


「……やっぱ不味かった?」


「不味くはありませんが……」


 困ったように、彼女はこれみよがしに溜息をついた。すいません。


「雫さんがこの一回で調子に乗るとは思いませんが、似たような事を繰り返すと彼女達が勘違いして増長するかもしれません。あまり甘やかさないように」


「はい……すいません」


「ほら、そこでまた間違えてます。ここは、『侍女長風情が主人のベッドに口を突っ込むとはよい度胸だ。庭で薪でも割ってこい』って言うんですよ」


 そういえばそうだった。恥の上塗りにしょんぼりとなる。


 なんかもう口を開かないほうがよさそうだ。


 しょんぼりしたまま踵を返してシャワー室に向かおうとすると、完全に背を向けた私にメアリは少しだけ優しい口調で言葉をつづけた。


「まあでも、侍女の指導としては悪くありませんでした。今後も、人心掌握に努めるよう頑張ってください」


「え?」


 思わぬ誉め言葉に振り返るが、そこにはもう首無しメイドの姿はなかった。


 私はしばし茫然とした後、キツネにつままれたような気分で浴室に向かったのだった。






 が、昨日と違って、道中で思わぬ人物と遭遇した。


 宮子ちゃんである。廊下の掃除をしていたらしい彼女は、私の姿を目の当たりにするとモップを壁に立てかけ、慌てて頭を下げた。


「お、おはようございます、旦那様」


「う、うむ、おはよう」


 昨晩の事が頭によぎり、気まずい返事をする私。だが、宮子ちゃんは大して気にしている様子もないようだ。さっぱりしたものである。


 あるいは、顔に出さないように振舞っているのか。


 ……佇まいにも違和感はない。体にも異常はないようだ。


「?」


「い、いや、何でもないよ」


 しかしやはり女子としては背が高い、160cmは超えてるんじゃないか?


 そして足が長い。野暮ったいクラシカルメイドの衣装の上からでも、メリハリのあるスタイルが透けて見える。


 こんな美女と一夜を共にしたなんていまだに信じられない。


 ちょっとぼーっとしていると、彼女がおずおずと、探るように尋ねてくる。


「ところで……雫さんは?」


「ああ、そうだ。部屋で寝てる。疲れたみたいでぐっすりだから、後で起こしに行ってあげて」


「わかりました。そ、そうですよね、疲れて……ぐっすり……」


 恐らく自分の時の事を思い出したのだろう。彼女は顔を赤らめて、そっと視線をずらす。


 私も連想して一昨日の事を思い出しそうになって、慌てて話題を逸らした。


「じゃ、じゃあ、私はシャワー浴びてくるから……」


「は、はい、ごゆっくり~」


 宮子さんに見送られて、私は早足でその場を後にした。






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