第七話 侍女を口説く
いじけた様子の雫ちゃん。
それは控えめにいって、嫉妬しているように私には見えた。
誰が、誰に?
雫ちゃんが、宮子ちゃんに。
何で?
……彼女が先にベッドに呼ばれたからだ。
「…………っ」
いやまてまてまて。冷静になれ。
まず、理論的に考えよう。嫉妬といっても色々ある。
第一に、彼女達は私に好意の類はもっていない。これはまず間違いないから、そこを勘違いしてはいけない。
何せ、私は彼女達に好かれるような事を何もしてない。メアリに釘を刺されたのもあって、私はあくまで彼女達に侍女として対応し、主人として振舞っている。それはビジネスライクなものであり、恋愛的な意図は含まない。それに出会ってまだ二日だ。それだけで体を重ねるぐらい気持ちを許す方がおかしい。
だから、この場合の嫉妬の理由は……恐らく。
私は宮子ちゃんのモデルのようなスタイルを脳裏に浮かべ、続けて雫ちゃんをみる。成程、確かに……それをどう思うかは、当人次第か。
「……雫ちゃんは。宮子ちゃんの事が嫌い?」
「いえ、嫌悪も好意もありません。知り合ったばかりですので。でも……」
ちらり、と一瞬、確かに雫ちゃんは自分の胸元に視線を落とした。
平ら、という訳ではない。だが慎ましやかな胸。私からすれば形が良いなあ、と思うだけだが……。
「……殿方は、大きな胸がお好きなのでしょう? 存じ上げておりますよ、旦那様も最初にお呼びしたのは宮子さんですものね。私は、宮子さんの代わり、そうでしょう?」
「いや、そんな事はないが」
全く持って心外ではある。だが、言い方を間違えると彼女の機嫌を損ねてしまうだろう。
私は違う解釈をされないように、言葉を選びながら口を開いた。
「正直言うと、昨日は悩んだ。悩んで時間ギリギリになったから、コインで決めたんだ。私からすると、二人とも甲乙つけがたい」
「そ……っ、い、いえ、その様にに取り繕わなくても結構です、旦那様。別に、呼ばれれば応えるだけですので」
うーん。言葉が足りないか。むしろちょっと刺々しい返しを受けてしまう。
いや、言葉だけだから駄目なのか。
「雫ちゃん」
私はじり、と彼女ににじり寄った。近づく男の体に、彼女は一瞬びくり、とするも、それ以上は下がらない。
うつむきがちで垂れた前髪の下から、僅かにおびえを含んだ視線が見返してくる。
「な、なんですか?」
「私は人にはそれぞれ、適したスタイルがあると思っている」
「は、はあ……?」
何言い出したんだろこの人、という視線に、私は力強く頷き返した。こうなったらもうヤケだ、嫌われるかもしれないが正直な事を言おう。
「世の中がどうかは知らないが、大きな胸にはそれに似合った体形が、慎ましい胸にはそれに似合った体形があると思う。宮子ちゃんは確かに、背が高いし脚が長いし胸も大きいし腰もくびれてるし顔もいいし、正直無敵だと思うが……雫ちゃんも、方向性が違うだけで美人だと思う。さっきだって、正直見惚れていた」
「……?! ……っ」
宮子ちゃんのスタイルを褒めている間、どこか嫉妬に瞳に力が入っていた彼女。しかし、突如自分を褒められた事にびっくりしたのか、動揺に視線が揺れている。
今が攻め所だ。
「出会った時から感じていた。まるで強く抱きしめたら骨が折れてしまいそうな儚さ、静とした佇まいに所作。てっきりどこかのお嬢様か、本の妖精がメイド服を着て立っているのかと思ったぐらいだ。そんな娘が、私のベッドに座っているのが正直今でも信じられない。夢を見ているみたいだ」
「え、あ、そ。それは、どうも……??」
とにかく褒めて褒めて褒めたおす。場合によっては本人なりの地雷を踏むかも知れないが、彼女の事をよく知らないのだからもうそこは覚悟して突貫するだけだ。幸い、何かの地雷を踏む事はなかったようで、雫ちゃんは顔を赤くして落ち着かなさそうに視線を彷徨わせるも、まんざらではないように見える。
「そ、そんなに……ですか?」
「うむ」
「そ、そ、そうですか……そう……」
雫ちゃんは胸元に手を当てて、何やら思案している様子。と、彼女はベッドの上でお尻を滑らせて、私との間の僅かな距離を零にした。
こてん、と胸元に頭を預けてくる彼女。
静かな部屋に、そうでなければ聞き落としてしまうような微かな声で、彼女は小さくつぶやいた。
「……だったら、今からそれを証明して、くれます、よね……?」
「勿論」
私は胸に燃え上がるような欲情を覚えつつ、優しく彼女の腰を抱いた。折れそうな細い体にどきどきしながら雫ちゃんを腕の中に引き寄せ、そっとその顎に手をやる。
彼女は静かに目を閉じると、誘うように唇を突き出した。




