割り切ってる同類
夢の中で自分と同じくその世界が夢であると認識している人に会うことがある。
この体質の者同士が同時刻に眠っていると起きる現象のようで、会えばなんとなく同類だと認識できる。夢世界の住人との違いは上手く説明できず、本当になんとなく、しかし確信できるのだ。
その日出会った人は四十代くらいの男性で、深夜のコンビニで女性を強姦している最中だった。店内には客や店員と思わしき男性達が血まみれで倒れていて、近くに凶器であろう果物ナイフが落ちている。
「こんばんは」
「あ?…ああ、お前同類か。こんにちはでいいだろ、どうせ寝ている間だけの世界なんだ」
せっかくなので話しかけてみると、行為中にもかかわらず律儀に答えてくれた。
「僕は朝昼晩問わず寝てしまうので」
「じゃあ俺より重症か、苦労してんな。俺も相当睡眠時間は長い方だが何とか寝るのは夜だけで済んでる。まあだからこの世界にいるのも夜ばかりで、あんまり道を歩いてる女に会えねえ。鍵かかってる家に押し入るのも面倒だし、手っ取り早くこういう二十四時間営業の店にでもくれば大体ヤれるからいいけどよ」
「この世界に来るようになって長いんですか?」
「二十年くらいだ。ある日突然、ハッキリした現実の続きみてえな夢を見るようになった。フツーあり得ねえしただのリアルな夢だと思ったが、眠った時点の俺が知り得ないことまで現実と同じように再現されていたから、マジでここは俺たちの世界と変わらねんだと確信した。理屈は分からねえが考えても仕方ねえしな、こうなったら楽しんだもん勝ちだぜ」
そう言いながら彼は下に組み敷いている女性を揺さぶる。
「ここでは好き放題やっても現実には何の影響もないし、最近はもっぱらこうして発散してる。この夢を見るようになってからやたら眠気に襲われるようになって、馬鹿にされてストレス溜まってるからな。若い頃は高いもん食ったり、ムカつく奴殺したりして遊んでたが、味も匂いも感じづらいせいで大して美味くねえわ起きたらぶっ殺したはずの奴と顔合わせなきゃいけねえわで却って虚しくなってよ。…お前はいつからこの世界に来てるんだ?」
「物心ついたときからなので二歳くらいですかね。もしかすると赤ん坊の頃から来ていたのかもしれませんが流石に記憶にないもので」
「生まれてからずっとか!しかもそれで一日中寝ちまうとかご愁傷さんだな。たまにお前みたいな同類に会うが、後天性の奴が大半で生まれつきは珍しいぜ」
「このあたりって他にも同類はいるんでしょうか?」
「さあな、俺も気晴らしに色々場所変えてるだけでこの辺に住んでるわけじゃねえしな。もしいたとしても活動範囲や寝てる時間帯が違えば会わねえだろ。ああでも隣町でなら、何年か前に会った奴はいたな。ソイツも後天性で、この世界に来たばっかで戸惑ってたから色々教えてやってよ。最初は楽しそうにしてたな。毎晩集まって二人で飲んだりもした。だが、過眠のせいで仕事もろくにできず実生活がどんどん荒れてったらしい。段々と目に見えて精神的に追い込まれていって、ある日から見かけなくなっちまった」
彼は息を吐いて、掴んでいた女性の腰を離した。気が済んだのかと思いきや体位を変えてまだ続けるようだ。
「馬鹿正直に自己紹介してくる奴だったからな、お悔み欄で確認したら死んでたよ。もう少し親身になって相談に乗ってやれば、なんて今更ウダウダ言っても仕方ねえが」
「そうですか。辛いことお話しさせてすみませんでした」
「別に飲み仲間がいなくなったってだけで大して辛くねえよ。所詮は現実で一度も会ってねえ奴だ。しかもアイツは真面目過ぎて、夢とはいえ犯罪行為はできないとか抜かしてやがった。そんなんだから発散できずに死ぬほど病むんだ。俺みたいに割り切ってこの能力と付き合わねえと」
そう言って既に意識が朦朧としている様子の女性の頬を叩く。
「やっぱこの世界だといまいち締まりを感じねえんだよな…味覚や嗅覚と同じく感覚が鈍い。たまに現実で同じように女押し倒して無理矢理犯したくなるぜ、邪魔な男どもはぶっ殺してよ。しかし俺は自制心のある大人だ。これもどういう理屈か知らねえが、こっちだといくら逮捕されようが一度起きて次来たときには無かったことになってる。だがあっちで捕まったらリセットは聞かねえ。だからこの中途半端な刺激で我慢してやってる」
「割り切ってるんですね」
「ああ。これはあくまでこっちの世界での楽しみ方だ。現実の俺は今日も、上司から辞めて欲しそうな目、同僚から嘲笑の目、後輩から軽蔑の目を向けられながら睡魔に耐えて働く。家に帰ったらすぐに倒れ込むように寝床に入る。完全な負け組だよ。それでも、快感のためなんかで捕まってたまるか」
彼はふと顔を上げて、僕のことを品定めするような目つきで見た。
「あっちではそんなことしねえけど、同類相手だったらこの世界でももっと感じられるのかと思ったりするんだよな。少なくとも夢世界のNPCとヤるよりは…ってそんな顔するなよ。お前は到底好みじゃねえというか論外だよ」
「分かってますよ。もうおいとましますね、お邪魔しました」
「おう、同類と会うのは数年ぶりだから話せて良かったぜ。もしまたこっちであったら声掛けろ、ないとは思うが現実で会ったらスルーしろ」
了承してコンビニの出口に向かう。後ろでは意識が戻ってきたらしい女性の泣く声が聞こえる。
(夢世界のNPCか…自我があるのかは置いといて、少なくとも性格も感情も肉体も現実のその人と同じはず)
現実で法を犯さない彼は立派なのは分かっている。分かってはいるが。
(…せめて、もし胸が大きな女性の同類に会ったら彼に気をつけるよう忠告してあげよう)
彼に言わせると僕も割り切れてないんだろうな、と思いながら店を出た。




