表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
眠醒パラレル  作者: 安静
5/14

予知が出来たとしても

「お前、予知夢見られるんだってなぁ?」


 昼休みに自席でうとうとしていると小野くんが高圧的に話しかけてきた。決定的な暴力やイジメはしないものの声がデカく自己中なタイプで、たまに掃除当番を押し付けられる。僕のようなスクールカースト底辺にとっては関わりたくない相手だ。


「まさか、そんなの見られないよ」

「嘘つけ、俺の兄貴のダチの妹の彼氏がお前と小学校のとき同じクラスだったんだよ。予知夢が見れるって周囲に言いふらして、実際そうでもなきゃ説明つかねえことまで知ってたらしいじゃねえか」


 又聞きの情報伝達というのは正確性がない。十年近く前のこととなると尚更だ。夢の世界の時間の流れは現実で僕が眠っているリアルタイムであり、未来を知ることなどできない。確かに小学生の頃は考え無しに明晰夢のことを周囲に話してしまっていたが、色々と酷い目に遭い懲りたため、高学年になる頃には「あれは早めの中二病だった、実際は特別な夢など見ていない」と黒歴史として通した。高校生となった今ではこの体質を知る人は非常に限られる。昔の知り合いで覚えている子がいたのは不思議ではないが、まさか回り回って現在のクラスメイトの耳に入ってしまうとは。


「…予知夢とは言ってない。変わった夢を見るという類のことは言ったかもしれない。でもそれも子供特有の誇張で、僕にそういう異能力はない。その子も色々記憶が混ざって勘違いしてるのかと」

「はあ?んだよ使えねーな!たまには役に立つと思って聞いてやったのによ!!つーかホントは予知できるのに俺に嘘ついてんじゃねえだろうな?話聞いた限り兄貴のダチの妹の彼氏はハッキリ覚えてるらしいぞ?」

 簡単には引き下がってくれなかった。彼は兄貴のダチの妹の彼氏の記憶力を信頼し過ぎだと思う。まだ絡んでくる小野くんをどう振り払おうかと考えていると、突然グイッとと目の前にペットボトルの烏龍茶が突き出された。


「朝来!自販機でもう一本当たったからやるよ!それと配信に新しく入った映画、また一緒に観てーんだけどいつが都合いい?俺んちでもお前んちでも…って小野いたんだ。気づかなかったわ悪いな」

「あっ折木、いや…」

 いつのまにか戻って来たらしい隣の席の折木が椅子に座ったまま小野くんを押しのけて割り込んできた。途端に小野くんは縮こまる。


「ま〜気づかなかったってのは嘘だけどな!あんなデケー声で喚き散らしてたからバッチリ存在感あったぜ!ついでに自販機で当たったってのも嘘だ、あの自販機四ケタどころか三ケタも揃ったことねえ。その茶は自然な流れでスマートに会話に加わるために自腹で買ったんだけどさ、よく考えると小野が朝来にウザ絡みしてなきゃ必要ない出費だったわけだしお前に請求してもいいよな?」

 饒舌によく分からない理屈を並べ立てられ小野くんは更に小さくなった。


 折木は彼をいびるのが楽しくて仕方ないという風にニヤニヤしている。意地の悪い笑みなのに嫌悪感を抱かせないのだからイケメンは得だ。高身長で運動神経抜群、その上成績優秀な彼はクラス内での発言力も高く、恋人がいないのが奇跡的なくらいモテる。僕とは正反対の絵に描いたような一軍なのだが、小学校入学時からのよしみでつるむことが多い。僕がクラスで最低限の人権を持っていられるのは間違いなく彼のおかげと言える。


「は、払うよ。ちょっと朝来に聞きたいことがあっただけで折木の用事の邪魔するつもりはなくて…迷惑かけて悪いな、もう行くから」

「待てよ」

 クラス内の立場の差が歴然過ぎる相手に怯みまくり、素直に二百円置いて逃げようとした小野くんの肩に折木の腕が乗せられる。


「朝来が予知夢なんか見れねーってのは幼馴染で大親友の俺が保証する。お前の、えっと…妹のダチの兄貴の彼氏の勘違いだ。朝来にもいい迷惑だし、これ以上変な期待する被害者を増やさないためにも口止めしとけ」

「わ、分かった」

「で、代わりに宙ぶらりんになったお前の悩みは俺が聞いてやる」

「えっ」

「噂で聞いただけのオカルト能力にあんだけ必死になってたんだから、相当予知して欲しいことがあるんだろ?それが気になる、んじゃなくて力になれるかもしれないから俺が相談に乗ってやるよ。代金は烏龍茶のお釣り四十円分でいいぜ」

「え?…いや大したことでは」

「大したことでもないくせに俺の大親友に喚いてたのか?いいからここで白状するかツラ貸すかどっちか選べ」

 彼の奢りの烏龍茶を飲みながら、小野くんを少しだけ気の毒に思った。




「つまんねえなよな~告白の結果が知りたいなんてよぉ。確実にイケる相手にしか告らないとかヘタレもいいとこだぜ」

 二人での帰り道、心底くだらなそうに折木はぼやいた。

 昼休みに小野くんのベタな悩みを無理矢理聞いた彼は、相手がB組の島村さんであることまで聞き出し、その場で簡潔なラブレターを書かせ、俺が届けておいてやると奪い取り、放課後には成果を上げていた。


 「島村が今夜このホテルで待ってるってよ!」とホテルの場所と部屋番号、暗証番号キーが書かれたメモを持って帰ってきた折木に、小野くんはマジ泣きして感謝した。


「けど予知夢ね~。使いようによっちゃ似たようなことできるよな、お前」

「ん、『僕が起きていること』の影響具合による。例えば今回の場合、夢で小野くんの告白結果を隠れて覗き見たとして、その頃現実でも彼は告白しているから意味がないわけだけど。もし夢の中で僕が小野くんに『今すぐ告白しろ!』とゴリ押して実行させれば、実際より告白が早まって結果的に予知できたと言える。現実での同時刻、僕は眠っていてそんな発破かけられないからね。…そもそもそんなことしたら逆ギレされそうだから絶対やらないけど」


 夢の世界は眠った瞬間の現実の続きから始まるが、その先の展開は全く同じとは限らない。僕が眠らなかった場合の世界線、パラレルワールドと言えるのかもしれない。

 逆に言えば僕の覚醒状態とそれによる影響以外は、ほとんど現実世界と等しい。人のリアクションも、カンニングした試験問題も、失くし物の場所も、道路に停まっている車のナンバーも全て同じだ。

 

…ただ一つだけ、とある差異に気付いてはいるけれど。


「いや~、夢の中だろうとアイツに告白する度胸なんかねえだろうよ!しかし俺はもう慣れちまったけど普通にバレたらやべー能力だし、昔馴染みの奴らに口止めしねーとまずいかもな」

「大丈夫だよ。高校生にもなって本気にする子なんてまずいないし、小野くんみたいな藁をも掴むタイプが話半分で聞いてくるくらいさ」

 実際、高校どころか中学の時点で、嘘だと決めつけなかったのは波留のような変人くらいである。

「お前がいいならいいけどよ~。ま、小野ももう絡んでこねえだろうし一件落着かな」

「でも凄いよな。小野くんとその島村さんの関係性は知らないけど、あの短時間であの急進展。折木が仲介したのが効果あったのかな」


「おお、そりゃもう滅茶苦茶あったはずだぜ!島村の目の前でアイツのラブレターを情熱的に読み上げて渡して、『オッケーならすぐにでも一緒に過ごしたいと思うんだけど、家はまずいし校内も最近巡回厳しいし、どこかあるかな…?』って顔赤くして聞いたら、ソッコー自分でホテル予約してくれた。最悪、俺の捨てアドで予約しようと思ってたけど手間が省けたぜ。手書きのメモまでくれてよ、他人の筆跡マネるのは得意だけどやっぱ自筆には敵わねーから助かった。実際、小野に渡したとき筆跡確認してたしな。アイツの好きな相手の書き癖まで把握してる姿勢だけは尊敬するぜ。ラブレターが誰の字かも判断つかなかった島村にも見習って欲しいわ。ま~その好きな女に直接対面して告れねえ癖にホテルの誘いには即飛びつく馬鹿猿には変わりねえけど」

「……」

「アイツのラブレターも内容によっては改竄しなきゃと思ってたけど、急かして書かせただけあってそのまま使えて楽勝過ぎたぜ。ヘタレゆえか俺が伝えてくれると思って人任せだったのかしらねえけど、名前すら書いてなかったしな。好きになった理由もつまらん、二人にしか分からないようなエピソードもない、クソしょぼいラブレター過ぎて読み上げてるとき笑いこらえるのに必死だったぜ。そんなのでも島村は有難がって泣いてオッケーしてたから堪え切れず超いい笑顔見せちゃった」

「…つまり島村さんは今夜お前が来ると思ってホテルの部屋で待ってるわけだけど、そこを小野くんに襲わせて不同意性交で彼を社会的に貶めようって作戦で合ってる?流石に彼女が気の毒なんじゃない?」

「いーんだよ。実はあの女、少し前からしつこく俺に付きまとってきてよ。紳士的にやんわり振ってきたんだけど察し悪くてさ。決定的なのはお前と遊ぶ約束してた日にデート誘われたときかな。勿論それを理由に断ったんだけど、『朝来みたいなのと遊ぶ時間があるなら私を優先してよ』って逆ギレされて、もういいかなって。そしたら今日、ちょうどお前に絡んでた小野が島村に告りたいって言い出したから、天啓ってあるんだなと感動したね」

「…そう。でも小野くんはともかく、島村さんはお前に騙されたって騒ぐんじゃない?」

「嘘は一個もついてねえぜ。『今からお前へのラブレターを読み上げる』って宣言しただけで俺が書いたなんて言ってねえし、気を利かせて小野の心境を推測して代弁してやったらホテル行こうって言い出したのも島村だ。ついでに、二人のチェックイン時刻になったら警察に『白河学園の生徒らしき未成年がホテルに入っていった』って匿名で一本入れておくつもり。その程度で警察が出向くかは知らねえけど、ホテルと学校に連絡くらいはするだろ。今、主任の野木センセがやたらそういうのに厳しくなってるからどうなるかね~」


 心底楽しみだという風に折木は笑った。まあ警察や教師の介入がなかったとしても、あの二人と折木の言い分、どちらが信用されるかは考えるまでもない。注意力が足りなかったとはいえ可哀想な未来が待ち受けている二人に、ホテルへ行かないよう忠告してあげようかとも思ったが、そもそも番号を知らないしそこまでする義理はない。…小野くんが退学にでもなればもう掃除当番押し付けられなくなるし。


「つっても突貫の作戦だからな~。アイツらが性欲より理性が勝って罠だと気付いたら、警察に勘違い通報があった以外は何も起こらず終わる。どこまで上手くいったか、今夜ホテル前まで確認しに行きてえんだけど、妹の宿題見てやる約束あって無理なんだわ。お前、夢の中で見てきてくんね?」

「断る。夢でも僕は夜間に未成年らしからぬ場所へ行きたくない」

 単にホテルの場所が結構自宅から遠く、夢とはいえ瞬間移動できるわけでもないので面倒だっただけではあるが。


「そっか残念。あ、でも案外、小野と島村が相性良くてそのままくっつくかもな?二人ともヤる気満々で行くわけだし、別人が来ても島村が流される可能性は高いぜ。あの女、俺を好きとか言ってたのもどうせ周りに流されてだし。あとは小野次第だなぁ、応援しちゃうぜ俺は。そうなったら恋のキューピッドになっちゃうな~」

 キューピッドなんておこがましい、コイツは絶対に悪魔側の人間だ。でも、僕にとっては頼もしく、明晰夢のことも話せるくらい大切な幼馴染。もう小学生の頃とは違うのだし頼りすぎてはいけないのは分かっている。

 しかし、折木の隣を歩きながら、彼が僕のために手を回してくれることを嬉しく思ってしまった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ