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眠醒パラレル  作者: 安静
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中間試験の対策

 記憶にある限り、初めて夢を見たときから夢だという自覚があった。

 明晰夢と呼ばれる現象だと知ったのは後になってからだが、今までの人生で夢を夢だと気が付かなかったことは一度もない。誰に言われるまでもなく、自分は眠っているのだということを常に認識していた。一般的な夢で存在するらしい突拍子のない展開や、何でも受け入れてしまう主観などは経験したことがなく、僕の夢は現実の延長か少しだけズレた別世界のようなものだった。



***



 教室にいる。

 今までずっといた気もするが、夢の世界の教室に来たのはまさに今だろう。現実の僕はここと同じ教室で同じ古文の授業中に机で熟睡しているはずだ。

 吉田先生が黒板に板書した徒然草の一節の解説を、クラスメイト達がせっせとノートに書き写している。もうすぐ中間試験だからか普段よりは真面目に授業を聞いている子が多い。夢の中でくらい勉強した方がいいんだろうけど、どうせ大学を受ける気もない僕のモチベーションは低い。


(といっても赤点も留年も嫌だし、気は進まないけどやるか)

 椅子から立ち上がり教室を出る。


「おい朝来(あさき)、勝手にどこ行くんだ。授業中だろ」

 吉田先生にもっともな言葉を投げかけられる。同時にクラスメイトも何事かと一斉に振り向いて僕を見やる。何度味わってもこの視線を集中的に浴びる感覚は苦手だ。

「すみません、トイレ行ってきます」

 素っ気なく言って足早に教室を後にした。現実ではこんな態度も行動も絶対に取れないが、情けないことに夢の中でだけは気が大きくなるのだ。


 構造を知り尽くしている学校の廊下を歩いて向かったのは職員室だった。

(人少ないといいけど)

 ガラッと扉を開けるとコーヒーの匂いが漂ってくる。夢の中だから若干薄い。中にいる教員は六人ほどで、いちいち来客に構ってられるかとばかりに事務作業をしている。面子を確認し、申し訳程度に失礼します、と挨拶して部屋に入る。

 まず向かったのは吉田先生のデスクだった。幸い両隣の教員は不在だ。机上の乱雑に重ねられた書類をザっと物色してから、不用心にも施錠されていない引き出しを開ける。二段目の引き出しに目当ての物があった。

 『二年 一学期 中間』と印刷されたテプラが貼られたクリアファイル。中間試験は再来週なのでほぼ完成品で間違いないはずだ。中身の問題用紙を取り出して、とにかく頭に叩き込む。満点を狙ってるわけではないので、追試を回避できるだけ覚えきれれば良い。

 暗記作業が完了すると次のデスクに向かう。化学の町田先生は在席中なので諦め、出払っている数学の五月女先生のデスクに狙いを定めた。

 几帳面なことにに机上は綺麗に片づけられており引き出しには鍵がかかっている。が、PC横にパスワードを書いた付箋が貼ってあるのは甘いと思う。PCにサインインしそれらしいフォルダを発見するまで、そう時間はかからなかった。画面を見つめ、先ほどと同様に問題を記憶する。最低限使う公式だけ覚えておけばいい。

「貴方、何やってるの?さっきから結構な時間うろついてるけどそもそも授業中でしょ?」

 流石に職員室で一生徒がPCをいじっているのは不自然だったようで、眼鏡をかけた年配の教員に咎められた。ここまでのようだ。

「中間試験の問題をカンニングしてました。すみません」

「は?このPCも勝手に見てるの?こっちに来なさい!学年とクラスと名前は!?」

 正直に謝ったが当然の如く激高される。恐らく別学年の担当であろう教員で、名前は分からないが凄く怖い。走って逃げるか?いやそろそろ時間のはず…腕を引っ張られながらそう考えていると、授業終了を告げるチャイムが鳴った。職員室にはいないはずの生徒のザワザワとした声も聞こえ始める。視界が段々とぼやけるも意識が薄れているのではなく、むしろ覚醒していくようないつもの感覚が来る。



***



 顔を上げると教室にいた。

 授業が終わり、吉田先生が出ていくところだ。クラスメイト達も休憩時間に入りザワザワと雑談している。


「朝来ぃ、またよく寝てたな!試験前に度胸あるよな」

 隣の席の折木(おれき)がいつものハイテンションで話しかけてくる。僕の数少ない友人の一人だ。

「うん、吉田先生怒ってた?」

「いやもうお前に関しては諦めてるって感じだったから安心していいぜ!あの人、怒るとめっちゃこえーし居眠りにも厳しいのにスゲーよな!流石は俺の幼馴染の朝来!」

「一応申し訳ないとは思ってる」

「でも毎回寝てても成績が悪くないから先生達もキレる以前に不気味なんだろうな!さっきの夢で試験対策できたのか?」

「二教科だけね。他は自力で勉強する」

「え~また寝ればいくらでもチャンスあるのに真面目だなぁ。つか方法がどうあれお前の能力使って獲得した点数は全部自力と言っていいだろ」

「いや流石にタイミングもあるし…あと今更だけど夢とはいえ怒鳴られるの嫌だし」

「何だよ、怒鳴られてきたのかお疲れさん!誰をキレさせたんだよ?」

 端正な顔で笑いながら聞いてくる折木に、年配で眼鏡をかけた甲高い声の女性、と答えると「それは三年生担当で今どき拳骨食らわしてくるらしい体罰ババアだぜ!」と更に大笑いしながら教えられた。

 あそこでチャイムが鳴ってくれて本当に良かったと思いながら、(あっち)で覚えてきた試験問題をノートに書き留めた。


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