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ラブホテル

作者: 白遠

 大学生のころのこと。


 その時の恋人の実家が遠方にあり、そこが有名な観光地でもあったので、長い夏休み期間のうちの数日、恋人の実家近くに旅行に行った。その旅行中、まだまだ付き合いたてだったこともあって、ちょっと山のほうにある結構大きくて小綺麗なラブホテルに泊まることにした。事前に2人で情報サイトで近隣のラブホテルを調べた中でもいろんな設備が付いていて新しくて値段も手頃だったからだ。


 部屋の中に入ってみると、確かにものすごく綺麗で充実していた。


 お風呂は広くてジャグジー付だし、60インチくらいの壁掛けテレビがあって、PS2といくつかのディスクが備え付けられていた。カラオケもできるしAVも見放題だし映画のDVDも無料で借りることができた。ラインナップも悪くない。小さなボックスタイプの自販機があって、大人のおもちゃまで部屋の中で買えた。買わなかったけど。


 それで2人でそれなりにやることをやり、フカフカの広くて豪華なダブルベッドで眠りについた。観光疲れも相まって、寝付きはかなり良かった。


 が、深夜、ふと目が覚めた。人の気配がしたからだ。ベッドはソファやローテーブルが置かれた広間の中心からやや窓側にあり、窓側からもベッドに上がれるように1メートルほどの隙間があった。その隙間に恋人が立って、眠っている自分を見下ろしている。ラブホテルによくある、パネルで窓の大部分が透過しなくなっているつくりのために、恋人の姿はその輪郭しかわからないが、それでも圧力を感じるレベルの強い視線だった。


 どうしたんだろう?


 トイレにでも行って、自分を起こさないようにどうベッドに上がったらいいのか考えているのか? 何か思うところがあって見つめているのか? 全くわからない。でも自分を起こさずベッドに入りたいなら、向こう側から入ればいいのだ。むしろ向こうのほうがトイレに繋がる広間に面していて入りやすいはずだ。寝ぼけているのかな? 自宅と間違えているのかもしれない。


 今、声をかけたら、恋人はきっと自分を起こしてしまったと気にするだろうと思って、暫くそのまま寝たふりをしていた。それにしても恋人は微動だにしない。もしかしてトイレに1人で行けないと声を掛けたくてためらっているのだろうか。試しに少し身じろぎをしてみるが、やはり何も言わない。


 こちらから声を掛けるタイミングも逸して、仕方なく寝たふりを続行した。相変わらずちりちりと体を縛り付けるような、重いくらいの視線を感じる。今何時くらいだろうか? 窓側ではない方のサイドボードに時計があったことを思い出して、寝返りを打つふりをしてそちらに身を返した。こっそり開けた目の先に、なだらかに隆起した布団が見えた。


 ん?


 布団の抜け殻にしては、かなりしっかりと人の形をしている。闇に慣れた目を凝らすと、恋人が着ているパジャマのはしが見えた。寝息も聞こえる。恋人は、広いダブルベッドの反対側ですやすやと眠っていた。


 じゃあ、この、今自分が背を向けている、この痛いほどの視線の主は誰?


 


 そのままもう一度そちらを振り向く勇気は無かった。誰かが部屋の中に入り込んでいるとしたら、確実にろくなやつではない。ゆっくり、ゆっくりと充電中の自分の携帯電話に手を伸ばして、音を立てないように手繰り寄せると、携帯のライトごと窓側を振り返った。


 

 はたして、そこには誰もいなかった。




 暗く、向こう側の見えない窓だけがあった。でも油断できない。侵入者が静かに隣の広間かどこかに移動した可能性がある。恋人を起こさないように、携帯のライトを頼りにベッドの下から広間、洗面所、バスルームを一通り確認したが、誰もいない。ドアが開いた形跡もなかった。


 結局、それでその後眠れなくて、音量を最小にしてでかいモニタで「みんごる2」を朝まで1人でやった。

 




 

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