表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鋼師  作者: 宰相トマワ
9/27

生き様

桜狼は九日目に燈に土を付けられたが、それでも止まることなく勝ち進んだ。千秋楽にはエチオピア出身の先輩大関の千風と当たっていた。力士らしからぬ筋骨隆々の肉体を持つ2人の青年から発される熱は国技館全体を覆った。しかも速攻型の二人にしては意外でしかない水入りの四つの大相撲。見応え十分だった。最後に遂に桜狼が優勝を迎えた時、俺の涙腺は堪えきれず人目を憚らず号泣した。桜狼の功労でしか無いのだが何故か俺も赦されたような気がした。

 俺は林さんに連れられて千秋楽パーティへと向かった。パーティには横綱の桂大錦関が居た。力士ではないとはいえ、一番の内弟子の桂小春こと桜狼と仲のいい俺は同様に可愛がってもらったことがあるが、身長210cm体重300kgを超える超巨体は今でも慣れることができない。

 やがてパーティ会場に主役である桜狼が入ってきた。入ってくるなり桂大錦関は桜狼を抱きしめた。強力な師弟愛を間近で見て羨ましく思った。そしてその後桜狼が俺に気づいて駆け寄ってきたので

「よくやったな桜狼!!」

と言って桜狼の手を取った。小指のことを訊いてきたが林さんがフォローを入れてくれたので有耶無耶にできた。

「あらあら良いオトコじゃなぁい♡」

桂大錦関が俺の存在に気づいて言った。こんな巨大なオネェを目の前にしたらいまだに怖い。桂大錦関の鼻息が荒くなっていると

「ちょっとあんた、この子困ってるじゃない。ごめんね。虎涼くん。」

と喝を入れながら桂大錦関の妻の藍良さんがやってきた。藍良さんはプリモルスキー大公國出身の背の高い美人だ。帰化前の名前はヴェラと言い元々その名前で呼んでいたがあまり良く思わないらしく、こっちの名前では呼んでいない。また、今は五つ子を身籠っているらしい。

「おい...あの鬼嫁...‼︎」

タニマチが藍良さんを見てどよめいた。というのは、藍良さんが初めての妊娠をしていた時、広墨会の組員のタニマチが酔っ払って藍良さんと桂大錦関を見比べて

「どっちが横綱か分かんねえな!!」

と叫び、それに怒った藍良さんがその組員をぶん殴って1発KOを決めたらしい。部屋の師匠と桂大錦関が組に謝罪をしたことで落ち着いたらしいが、歳の行ったタニマチや協会からは危険人物扱いされている。とはいえ、怒って至極当然の内容だったし、普通に接せれば優しい性格なので桜狼や俺のような若い衆や関係者には慕われている。

「・・・ふん。」

藍良さんが周りの反応見て少し拗ねた。俺たちはえへへ〜と誤魔化すしかなかった。

「桜狼はおめでとう。立場が上になってきたら色々言われると思うけど、あんまり気にしちゃダメよ。君は君らしい相撲をこれからも取りなさい。」

藍良さんが言った。桜狼は嬉しそうに一言

「はい!!」

と言った。

 それから楽しい時間は続き、俺は少し用を足しに行った。その時、桂大錦関が俺の隣に来た。

「やっぱあんた、良いオトコねぇ!」

桂大錦関が言った。俺は何も言い返せず固まった。しかし桂大錦関は続けた。

「んふふ、可愛いわよ〜!だからね、自分のことは大事にしないといけないわよ。」

意外なことを言われ思わず俺は

「え?」

と声を漏らした。

「これだけ長いこと横綱張ってたら分かるのよ、あんた、命を削ってるでしょ。それは多分だけど桜狼の為でしょ?ならあの子が何が一番悲しいか、考えてちょうだい。」

桂大錦関はそう言うと、トイレから出て行った。命を削ること...分かりきったことではあったが、改めて考えると恐ろしかった。しかし桂大錦関のモヤも少なかった。桂大錦関こそ自分を大事にして欲しいと思った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ