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鋼師  作者: 宰相トマワ
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前哨戦

いつもは千秋楽に桜狼が出る取組あたりのみ観ていたので朝から夕方までずっと生で観るのは新鮮だった。序の口でまだあどけない表情が残る俺よりも若く細い力士がぶよぶよに肥った力士を豪快に投げ飛ばしても客が少なく疎らで勿体ないなと思った。

 幕内では、桜狼が破竹の勢いで星を伸ばして行った。俺と同い年、二十歳に迫る桜狼だが今になってようやく成長期に突入している。毎場所見る度に明らかに背丈が変わっている。つい数年前まで俺より顔一つ分は小さかったのにこのままいけば追い抜きそうな勢いだ。それに伴って加速度的に番付も駆け上がっている。かつては弱々しい少年だったのが嘘のように筋骨隆々の新鋭力士へと様変わりした。今の俺には眩しくてしょうがなかった。

 15日間平和に活躍を見ていたかったがそうはいかなかった。3日目の午後3時頃、八星会の輩が乗り込んできたのだ。俺は当然身構えたが俺のことは目もくれずに近くの溜席に座った。妾が居なかったから気づかなかったのだろうか。何かやるかな?と思ったがゲラゲラと酒を飲みながらふんぞり返っているくらいで特に何も無かった。結びの一番が終わるとさっさと帰っていったが出る際一番偉そうな奴に睨まれた。度肝を抜かれた。その俺の様子を見てニヤッと笑い去って行った。嫌な予感がした。

「お兄どこ行くの?」

木ノ華が言った。しかし俺は止まることなく倉山浜部屋へと走って行った。

「思ったより早う来たな。」

倉山浜部屋の前で俺を睨んだ奴が両手を広げて言った。組員は百人は居そうだ。部屋には下位力士が居そうだが部屋の電気は消えていた。身を潜めているのだろう。

「助けなんかおらへん。残念やったなここがお前の墓場や。」

俺を睨んだ奴がそう言うと組員が銃を取り出した。しかし次の瞬間には俺は妾を殴り飛ばしていた。自分でも何が起こったか分からなかった。足は遅くないが2、30mをこんな銃を打つ直前の刹那に詰め寄ることなんかできない。やっぱり何かがおかしくなっている。でも好都合だ。今ならこの人数の組員を同時に対応できる気がする。俺は妾の首を掴み暴れ回った。SFの主人公みたいだ。恐怖はいつの間にか快楽へと変わっていった。

 しかし重大な事実にも気づいてしまった。目に見えて俺の黒いモヤが減っていってるのだ。そして恐ろしい事実にも気づいた。動かなくなった組員からモヤがカスほどになったのだ。これは明確に俺が自らの生命を消耗していることを示している。しかし興奮した俺はそんなことでは止まらなかった。

 時間はかかったが全員を殲滅し、俺の命も半減し流石にヘトヘトになった。戦い終わって冷静になると急に罪悪感に見舞われた。組員全員の命が残り僅かだ。逆によく殺さなかったなと思った。しかしそれでも何故か怖くて居た堪れなくなった。俺は思わずその場から逃げてしまった。

 翌朝ニュースに載っていた。襲撃した133人の組員全員が無事ではあったらしい。しかし俺が来る前に全てのカメラが破壊されていた上、単独で殲滅したとは思われず俺は疑われもしなかったようだ。しかし林さんはお見通しのようでニュースを見る俺の頭を叩いて

「無茶しよって。」

と言った。ここからしばらくは安心して相撲を見れると思った。


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