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鋼師  作者: 宰相トマワ
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大相撲初場所 千秋楽

「ひが〜し〜せん〜ふ〜ぅ〜にし〜かつらこ〜は〜る〜」

呼び出しが呼んだ。いよいよ千秋楽がやって来た。今日の結びの一番は僕と大関千風(せんふう)。千風はエチオピア帝國出身の飾磨部屋所属だ。その体格は身長191cm体重132kgという典型的なそっぷ体型で、発達した大胸筋から猛スピードで張り手を繰り出してくる。1発1発の威力はまだ上がいるが、その速度は角界でもダントツである。少しでも隙を作れば対処は厳しいだろう。

 僕たちは仕切った。僕は千風の目を見た。黒い肌から覗く眼光は刃の如く鋭かった。場の空気が変わったことに気づき一気に立ち上がった。僕は張ってくる右手を左手で跳ね除け同時に左手で廻しを取った。廻しを取れば四つに持ち込んで一気に寄り切れる...と思った。しかし今日の千風は違った。土俵に根が生えたが如く動かなかった。そしてそのままがっぷり四つとなった。そして組んだまま二人とも動かなくなった。肩越しに千風の鼓動も聞こえる。どう動くか。考えてるうちに千風が先に動いた。千風は僕を半ば吊り上げる形で土俵際まで寄った。まずい。僕は土俵ギリギリのところで足の指先の力のみで残った。そしてそこが千風の攻勢の限界だったようで逆に僕は千風を押し戻した。客席からは大きな歓声が上がった。そして僕たちは再び土俵の真ん中で組んだ。互いの鼓動の読み合いがまた始まった。

「今だ。」

しばらく経ったタイミングで僕は感じた。僕は千風を吊って土俵際まで寄って行った。しかし千風も土俵際で残った。さっきと逆の立場で再び土俵中央に戻された。僕たちはまた息の読み合いを再開した。しかし最早お互いに決着をつける程のスタミナはすでに残っておらず泥沼化した。

 しばらくすると行事に背中をトントンと叩かれたことに気づいた。あまりにも長く停滞していたので水入りとなったのだ。僕は水を飲み、目を閉じ、そして考えた。どうやれば千風を倒せるか。目を開き千風の足元を見た。あからさまに疲弊して動きが悪い。潜り込めばこの状況をひっくり返せるのでは無いか。

 僕たちは元の位置に戻り、再開した。僕は再開するなり左手を千風の内腿に切り替えた。そして右に身体を思いっきり捻り、決めた。珍技、内無双。歓声が響いてきた。遂に僕は新大関にして悲願の初優勝へ辿り着いた。

 一礼をし花道を歩くと横綱が満遍の笑みで僕を出迎えてくれた。

「あんた良くやったわね‼︎」

横綱はそう言い、僕を抱きしめた。ようやく優勝した実感が湧き、涙が溢れ出した。

 それから優勝インタビューや凱旋パレードは飛ぶように過ぎ気付けば千秋楽パーティ会場に着いた。千秋楽パーティには、林さんと夏殿くん、そしてその妹の木ノ華ちゃんの3人が出迎えてくれた。

「よくやったな桜狼!!」

夏殿くんが嬉しそうに言って僕の手を握った。久しぶりに会った親友に感極まった。しかしすぐに左手の小指が無くなっていることに気づいた。

「どうしたのそれ...」

僕はきいた。すると夏殿くんは固まってしまった。

「まあ色々あったんや、気にすんな。パーティ楽しもうや!」

林さんが言った。大変気になったがこれ以上追及するのも野暮だと思い僕はきかなかった。

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