表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鋼師  作者: 宰相トマワ
4/27

大相撲初場所 前編

「998...999...1000、よし。」

僕はゆっくりと四股を踏み終わった。

「小春、落ち着いて行きなさいよ。あんたはアタシの跡を継げる器なんだから。」

横綱が言った。横綱の名は桂大錦(かつらおおにしき)と言い、身長、体重、優勝回数全てにおいて角界最大の大横綱だ。そして僕は内弟子の桂小春(かつらこはる)だ。体重は僅か109kgと幕内最軽量だが、横綱の指導の元なんとか大関にまで上がることができた。

「ごっつぁんです。」

僕は言った。明日から初場所だ。横綱はここ数年膝の状況が悪く、休場が増えている。そして今場所も休場だ。ここは部屋頭として、そして償いの為、負けて帰るわけにはいかない。俺は明日からの15日間に備え寝た。

 「ひが〜し〜ぜんしゅ〜ど〜にし〜かつらこ〜は〜る〜」

呼び出しが呼んだ。初日の対戦相手は京畿府出身の六甲湖部屋、前頭3枚目の全州道だ。身長187cm体重161kgというごく一般的な幕内力士の体格だ。得意手は突き。だが速度はさほど速くなく廻しを取られたら何もできない。僕は低い立ち会いから一気に回しを取って寄り切った。

 「ひが〜し〜ごくお〜んで〜ん〜にし〜かつらこ〜は〜る〜」

呼び出しが呼んだ。二日目の対戦相手は福岡県出身の川瀬部屋、前頭8枚目の獄恩殿だ。38歳という高齢の為平幕にいるが187cm174kgの恵体を持つ元大関だ。侮ることはできない。僕は喉輪を狙って猛スピードで突っ張った。獄恩殿の足が揃ったようだ。僕は引いた。しかしギリギリのところで獄恩殿は耐えてしまった。しかし依然僕が有利だ。僕は背後に周りその巨体を吊って外に出した。

 「ひが〜し〜ふじ〜し〜ま〜にし〜かつらこ〜は〜る〜」

呼び出しが呼んだ。三日目の対戦相手は愛知県出身の佐山峰部屋、前頭5枚目の藤島だ。身長184cm体重155kgの比較的小柄な体格で僕と同じ速度と技術を持ち味としている。しかし速度とパワーは僕の方が上だ。技をかけさせる間もなく一気に下手を取ってがっぷり四つに組んだあと、下手を引き寄り切った。

 「ひが〜し〜はい〜りゅ〜にし〜かつらこ〜は〜る〜」

呼び出しが呼んだ。四日目の対戦相手は臺北県出身の志摩ノ浜部屋、前頭7枚目の灰龍だ。身長178cm体重137kgの小兵であり、身長に至っては僕より低い。しかしおっつけはとんでもなく強烈で僕くらいなら簡単に浮いてしまうだろう。僕はなるべく低く当たった。しかしそれでも体は捲り上がり、土俵際まで押し込まれた。だがそれだけで僕は負けない。僕は強引に前みつを取ると、灰龍に足をかけながら体を捻り、うっちゃりを決めた。

 「ひが〜し〜えん〜かぁい〜にし〜かつらこ〜は〜る〜」

呼び出しが呼んだ。五日目の対戦相手は北海道出身の倉津風部屋、小結の炎海だ。身長173cm体重115kgという超小兵力士であり、「技のデパート」と言われるほどに技術力が高い。常に集中し続けないと勝てないだろう。取り組みが始まると真っ先に炎海は変化して横にずれた。そこは想定通りではあったが炎海の速度は想定外の速さだった。あっという間に懐に潜り込まれ内掛けをかけられた。しかし僕は腕を巻き替え内側から炎海の上手を外し、その勢いで炎海の体を僕の下に突き落とすことでなんとか浴びせ倒しを決めることができた。

 「ひが〜し〜はく〜け〜い〜ほう〜にし〜かつらこ〜は〜る〜」

呼び出しが呼んだ。六日目の対戦相手は兵庫県出身の三子羽部屋、関脇の伯景峰だ。身長175cm体重162kgという横に長い体型でつき押し一本である。それで長らく大関に君臨していた程には強く組みにくいが、組めば問題ない。僕は速攻で潜り込み廻しを取って寄り切った。

 「ひが〜し〜やす〜しげ〜み〜ね〜にし〜かつらこ〜は〜る〜」

呼び出しが呼んだ。七日目の対戦相手はベトナム帝國出身の湊川部屋、

前頭筆頭、安重峰だ。身長192cm体重226kgのうちの横綱に次ぐ超重量級である。連合稽古などで強かった印象は無いが、本場所には強いようだ。しかし足腰の状況が相当悪いようだ。喉輪を突けば動きは止まるだろう。僕は立ち会いすぐに喉輪を突きまくり、足が揃ったところで全力で叩き込んだ。

 「ひが〜し〜あま〜き〜ふ〜じ〜にし〜かつらこ〜は〜る〜」

呼び出しが呼んだ。中日の相手はエチオピア帝國出身の志摩ノ浜部屋、前頭4枚目、天城富士だ。身長199cm体重178kgと超巨体でうちの横綱に次ぎ、大関琴ノ心と並ぶ怪力の持ち主だ。僕より一歳だけ上で、今後ずっと戦い続けるライバルになりそうだ。僕は速攻で左下手を取った。体を捻らせ右上手を取らせず、おっつけで左上手も取らせないようにした。しかし、それでも吹き飛ばそうとした。実際に、大概の相手では飛ばされていただろう。しかし僕は動いた勢いを元に左下手を吊り上げて下手投げを決めた。

 こうして僕は自己初の中日勝ち越しを決めた。

「強いぞ桂小春、初優勝あるか!?」

ネット記事にはそう書かれた。

「あんた、本当に強くなったわね。相撲が本当に多彩になった。アタシとの稽古も実ってきたかしら。」

横綱がそう言った。最強の力士と稽古をし続けたお陰だ。しかし横綱はこうとも言った。

「でもまだ今のあんたではアタシには勝てないわ。」

そんなことは分かりきっている。どれだけ大きく強い相手にも、どれだけ技術力があってスピードがある相手にも多かれ少なかれ勝っている姿は想像できる。しかし72代横綱の桂大錦と73代横綱の天馬(てんま)の二人だけにはどうしても勝った姿も想像できない。これが神の依代と強い力士の違いなのだろう。

 しかしだからと言って僕は止まることはできない。一刻も早く横綱になって恩返しをしなければならない。現在全勝は僕の他に大関の千風(せんふう)、前頭6枚目の(ともしび)がいる。1、2敗力士はもっといるが、この八日間を見る感じ、最後まで優勝争いに絡むのはこの3人だろう。直感ではあるが、そう思える。僕は残りの1週間に備えた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ