表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鋼師  作者: 宰相トマワ
27/27

鋼師

令和25年7月場所

「横綱・大嶺鵬(たいれいほう)を寄り切り桂小春‼︎3場所連続休場からの奇跡の全勝優勝です‼︎これで桂小春は78回目の優勝、大横綱が意地を見せました‼︎」

私はこの場所を最後に土俵を去った。横綱在位109場所、幕内優勝回数78回、通算勝利数1625勝...様々な記録に於いて横綱・桂大錦を超えた。横綱として立った18年は私をさらに大きく変えた。横綱昇進した頃の180cm台半ば、120kgの体は196cm160kgまでに成長した。小技を使う小兵力士の取り口から全てを受け止める横綱相撲に変化し、後の先の習得も成された...と思っている。

 しかしそれでもいつだって打ち破って横綱に駆け上がるライバルは現われるものだ。私が横綱に駆け上がった頃の横綱・天馬は17回目の優勝の後不慮の事故で突然命が絶たれた。しかし直ぐに同世代の燈が駆け上がってきた。その後も天城富士、大嶺鵬、そして桂大錦さんの息子であり弟弟子の桂大濱の横綱昇進に立ち会った。

 そんな私でも限界は近づいていた。休場がここ数年増え直近の3場所は全休をしていた。それでも私の双子の息子である桂大夏、桂大冬の新入幕の場所くらいはせめて父として、横綱として威厳を見せたいと思った。

 そして全勝優勝である。私は思いを堪え切れることができなかった。鬼の形相としてニュースに載った。

 翌日からは桂小春親方となった。親バカなのだろうか、双子の成長が特に眩く見える。それでも私は稽古場で圧倒し続けた。元横綱・燈の中ノ関親方は私を見て

「アラフォーだというのにまだムキムキだな。こりゃ鋼師だよ。鋼の師匠。」

と言った。私は

「なぁに、引退したばっかだからさ。君こそ、まだやれたんじゃないか?」

と言った。中ノ関は

「勘弁してくれよ。俺はもう動けないデブなんだから序二段に胸出すので精一杯だわ。」

と笑いながら言った。私は

「でもさぁ、健康には気をつけてくれよ。」

と言った。中ノ関は

「はいはい。」

と言いながら立ち去った。本当である。もうこれ以上早逝なんか見たくないからだ。

 それから半年経った。雪の降る帝都で私は引退相撲を行った。

「よいしょー‼︎」

「日本一‼︎」

「横綱ー‼︎」

色んな歓声が聞こえる。もうこうして雲龍型の土俵入りをすることもそうないのだろうなと思うと感慨深かった。

 引退相撲の対戦相手は私の双子の息子だ。桂大濱でも良かったのだが、引退したばかりの時に桂大濱に

「引退相撲の対戦相手は双子にして欲しいです。お願いします。」

と願い込まれた。私は予想外の申し出にびっくりしたがそれを承諾した。そしてその後双子に引退相撲に出るように言ったのだが、その時に

「引退相撲だからって花相撲だと思うな。私を倒してみろ。」

と発破をかけた。せっかくなら本気で楽しみたいと思ったからだ。とはいえ、未だ稽古場で私を倒したことのない双子に倒されることはないと鼻を括っていた。

 初戦は桂大夏だ。私は桂大夏の全力のぶちかましを受け止め脇に差した手で引き上げようとした。しかし桂大夏は素早く巻き替え潜り込んだ。しかし私は捻り圧力をかけて桂大夏を土俵際まで押し込んだ。その時、桂大夏は体を捻りながら右の下手を引っ張った。私の体は右に傾き外に出された。決まり手はうっちゃり。私は初めて桂大夏に負けた。会場はどよめいた。しかし私は思いがけない成長に感無量だった。

 2戦目の桂大冬はもっと凄かった。両手でおっつけるという想定外のことをしたと思えばそのまま寄り切った。私は2連敗をした。しかし悔しさはどこにもなかった。

 そして二人はその後私に満面の笑みで花束を渡してきた。その花束には

「僕達の“鋼師”は不滅です‼︎」

と書いてあった。私は笑いながら土俵を下りた。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

俺は林さんの店を受け継いだ。林さんの方針を受け継いだだけのつもりだったが八星会の介入も無くなったことで想像以上に順調に行った。しかしそれでも俺は運営が得意だとは思わなかった。寧ろ俺はただの神輿として運用されていた。どれだけ必死に勉強してもまるで追いつかなかった。勿論、だけだと言って林さんが窓際だったとは思わない。それどころか創業者であり初代社長の林さんがたった一代でトップ不在でも成り立つ組織にまで作り上げたことに驚いた。しかし俺はダラダラとこの地位を続けたいとも思えなくなっていた。俺は料理の腕を磨き、地域の人と絡みたかった。そこで俺は俺の代わりになりそうな、大人しそうな奴を後任にしその座を降りた。

 俺はそれから平壌に定住した。平壌にした理由は特にないが、今まで関わりが深かった地域以外でやってみたくなったのだ。そんな訳で俺はこの平壌の地にフランチャイズの店を開いたのだが上手く行った。

 弟子が出来るまでに至り繁忙を極めていたある日、一人の男が店にやってきた。男は無言で座ると何かに火をつけそれを吸いだした。嗅いだことのない匂いだったがそれが法外なものであると直感で分かった。俺は通報するようにとガタイのいい男子高校生のバイトに言うと

「俺、腕っぷしだけはあるんで大丈夫っすよ‼︎任せてください‼︎」

と言って行ってしまった。俺は引き留めようとしたがまああの体格なら押さえられるか...と思い俺は通報した。

 しかし通報し終わった後に事件は起きた。厨房裏から悲鳴が聞こえたのだ。俺は急いで声の方に向かった。そこでは勝手口は破壊され4人の強盗グループが侵入していた。俺はしまったと思った。さっきのは屈強な店員を別の場所に誘き出して楽に強盗しようとする陽動作戦のようだった。おまけに強欲なことに男たちは女子大生のバイトも攫おうとしているようだった。

「お前らやるんか?」

と俺は言った。しかし相手は反応がなかった。どうやら外国人のようだ。しかし全員覆面で人相は分からない。だがそんなことはどうってことはない。4人とも押さえてしまえば良いだけの話である。

 男のうち一人が俺を刺そうとした。しかし俺の筋肉質な腹には通らなかった。ただし服は破け、戦いの狼煙となった。

 俺は毎日ジムに行ってるとはいえまともな戦闘など20年近くしていなかった。しかしそんな懐かしい思い出が頭をよぎった時にはもう決着はついていた。想定外に手応えがなかった。昔戦った八星会の老人どもの方がまだ強いんじゃないか?

 ただし俺の服は引き裂かれ上体が露わになっていた。囚われかけていた女子大生のバイトは

「店長‼︎ありがとうございます‼︎」

と目をキラキラさせながら言った。警察に男を突き出した男子高校生のバイトも

「店長には敵わないっす‼︎」

とこっちも目をキラキラさせてお腹を触り言った。他の店員も拍手をしていた。俺は恥ずかしくてこの場を逃げ出したくなった。良い歳こいたおっさんが魅せつけてるみたいじゃないか。

カウンター越しに覗き込んだ老人の常連客二人組の片方が

「店長さんえらいムキムキの体してんなぁ。そこの坊やも店長さんみたいになるんやで。」

と笑いながら言った。するともう一人も

「鋼の体のお師匠さん、鋼師やな。」

と言った。それを聞いた男子高校生のバイトが

「鋼師てんちょー‼︎」

と言った。俺は小突いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ