物語の終わり
俺はあの日保護されて軍用機で日本に帰ってきた。俺の10年分の年収にもなる100万円を貰ったが、そんな大金を持って家に帰っても木ノ華の声は聞こえない。店に行っても林さんの声も聞こえない。翌日も、その次の日も。でも案外俺は立ち直るのが早かった。テレビをつけると同じ状況の桜狼が頑張っていたからだ。俺はとりあえず林さんの遺品の整理から開始した。
片付け始めると小さな金庫を見つけた。林さんの家の鍵と一緒についていた用途不明だった謎の鍵を挿すと開いた。中には手紙があった。俺はその手紙を読むと最後に驚くべきことが書いてあった。
「私が没した後、初めてこの文書を手にした者に全ての財産を譲渡する。」
間違いなく遺書にある該当者は俺だ。財産の相続も確かにあり得るとは思わなかった。この場合どうすれば良いんだ?どこへ駆け込めば良いんだ?19歳の青年に分かるはずも無かった。とりあえず俺はインターネットの検索で一番上に出てきた弁護士に電話をかけた。弁護士は明日、その文書と他の林さんの筆跡が分かるものを持ってくるようにと言った。
流石に相続が確定している訳ではない今何かを持って帰るのもまずいと思い遺書と筆跡が分かるノートを持って家に帰ろうとした。林さんの家を出ると不審な車が停まっていることに気づいた。俺が避けるように出ていくと車も去っていった。
家に帰ると同じ車が停まっていた。相続関係で狙っている人だろうか?変な嫌がらせをされるのも御免だ。俺は車を覗き込み、ドアをコンコンとノックした。すると覆面の男達がゾロゾロと降りてきた。俺はすっと少し後ろに下がった。すると男達が一斉に襲いかかってきた。俺は迎え撃った。格闘している時に俺は違和感に気づいた。彼らは俺に暴行を振るおうとしている訳ではなく、俺ごとトランクに入れて誘拐しようとしているようだった。体勢を崩される前に全員撃破しておいて良かったと思った。幾ら俺でも引き摺り出せば反撃はできない。彼らが逃げていく様を見届けた後、さっさと寝た。
翌日、弁護士に見てもらった。それが林さん本人のものであることが分かった。役所に問い合わせるため預かって貰った。
それから何日かして家庭裁判所から手紙が届いた。裁判?とは思ったが俺は出頭した。裁判所で対峙する人物に俺は目を疑った。
「ご機嫌よう、夏殿虎涼くん...いや、初めましてだね。」
その男は画面越しでしか見たことのなかった八星会No.2でありながら実権を握っているとされる林正峰だった。今まで考えたこともなかったが姓が同じだ。当然親戚の可能性だってある訳だ。俺は身構える考えが頭によぎったがあまり考えないことにした。何故ならここは法廷だからである。ここでは言論で挑まないとならないと思ったからだ。
「それでは大日本帝國云々...」
と裁判官が喋り出し調停が始まった。そして林正峰側の弁護士が証言した。
「まず最初にこちらをご覧ください。これは京城の林豊将さんの家にあった遺書です。こちらには甥に資産は全て譲渡すると記されています。林豊将さんの甥に当たる人物は正峰さんただ一人となります。議論の余地なく資産は全て正峰さんのものでしょう。裁判官、こちらをどうぞ。」
裁判長は無言で受け取った。本当に遺書なのだろうか?恐らく偽物だろうが本物だったらどうしようか一抹の不安がよぎった。
そして次に俺たちのターンとなった。
「こちらにも遺書があります。こちらの遺書には“私が没した後、初めてこの文書を手にした者に全ての財産を譲渡する”と記されています。こちらの遺書の第一発見者は夏殿虎涼さんです。即ち資産を受け継ぐ資格があるのは夏殿さんであると言えるでしょう。」
俺側の弁護士が言うと林正峰は
「ふっ、なんだそれ。そんなふざけた偽文書よく書けたな。」
と言った。すると裁判官は
「静粛に。」
と言った。その後裁判官は
「双方、反論はないか。」
と言った。どちらもそれぞれ異なる“遺書”を提出した以上反論しようもない。両陣営とも何も言わなかった。
「実は京城市が自筆証書遺言書保管制度に則って林豊将の遺書を預かっているのだが、そちらにも“東京の別宅にある遺書を初めて見つけた者に財産を全て譲る”と明記されてある。」
と裁判官が言った。林正峰は目を見開いた。
「それでは判決に移らせてもらう。夏殿虎涼の提出した遺書は預かっていた遺書の内容に即しており、筆跡も一致、押印、署名、作成年月日の明記も認められる。一方で林正峰のものにこれらは見受けられず、認められない。よって林豊将の資産は全て夏殿虎涼に全て譲渡するものとする。」
裁判官は言い切った。すると林正峰は
「なんで部外者の貴様が全部受け取れるんだよ‼︎うちの車も壊すような奴がだろ‼︎」
と叫び写真を出した。俺は
「お前が勝手にストーカーやって勝手に壊したんだろ。」
とだけ呟いて睨んだ。裁判官は
「静粛に。本件に関係ない事案に関する発言はご遠慮願いたい。」
と言った。しかし林正峰は止まらず
「あぁ、そうだよなぁ⁉︎内地の司法は狂ってるもんなあ‼︎やっちまえ‼︎」
と叫んだ。やっちまえ?誰に...と思った次の瞬間裁判官は射殺された。射線を振り返ると大量の武装したテロリストがいた。数が多すぎる上に武装までしている。流石に俺でも対処できそうにない。
「お前はずっと俺らの邪魔をしてきたよなぁ、夏殿。元はといえば倉山浜のガキがうちの金をくすねたんが悪いんだろうが。なーに広墨の連中に頼って落とし前つけれた気持ちになってんだお前ら全員死ね‼︎俺たちから全部奪い取る気か‼︎」
林豊将はヒステリックになっている。こんなんでよくあの組織の頂点に立てれたなと呆れた。そして無駄に声が良すぎる。それが余計に滑稽だ。
そして叫び終わって銃を構えた林豊将に俺側の弁護士が一発ぶった。
「お前調子乗んなよ‼︎誇りとかないんか‼︎」
そういえば弁護士の名は李だった。俺は弁護士の先生と呼んでいた為名前の記憶が頭から抜け落ちていた。
「俺だって内地は嫌いだ。大っ嫌いだ。だからってなぁ、暴力に訴えても何にもならんだろうが‼︎」
李弁護士は言った。なんでその割にはずっと日本語で喋ってるんだろうなとか余計なことがぼんやりと頭を掠めた。
「権力の犬がああああ‼︎カタギでぬくぬく良い思いしてる分際でよ‼︎」
林豊将は言った。すると李弁護士は
「何のための頭だ‼︎暴力に訴えても蔑まれて支持されないって何故わからない‼︎お前は阿呆だ‼︎」
と叫んだ。その時外からすごい銃声が聞こえガンガンテロリストが倒れていく。李弁護士は
「チッ」
と舌打ちをするとどこかに消えてしまった。そして特高警察が現れ
「動くな‼︎」
と林豊将陣営と俺にいった。俺は大人しく手を挙げた。しかし林豊将陣営は
「うがああああああ‼︎」
と叫び特高警察に突っ込んでいくと、その場で射殺された。
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「そして俺はその後無事釈放されて今こうしておるんや。」
俺は言い終わると桜狼は
「ふぇえ...良かったやん...もう一杯...」
と机に突っ伏しながら言った。俺はまだ酒を飲んだことがないが桜狼が下戸なことだけは分かった。俺は部屋にこいつを運んだ。




