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鋼師  作者: 宰相トマワ
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安息

「どうした。いきなり喧嘩か?」

鄭団長が言った。広場についても俺達は黙ったままだ。鄭団長はそんな俺達を見ながら溜め息をついて

「明日までに仲直りするように。いいね?」

と言った。俺達は

「はい。」

と返事した。声が綺麗に重なってしまった。凄く恥ずかしくなった。鄭団長はその強面を初めて歪めて

「なんだ、仲良いじゃないか。」

と笑った。まだ恥ずかしい。そして鄭団長は続けた。

「まあいい。今から君達をここに呼んだ理由を説明する。君達は普通の人には使えない特別な力を持っている。そうだね?」

「はい。」

俺達は返事した。来る前から薄々感じてはいたけどやっぱりこれなんだ。

「その力を我々は生力(しょうりょく)と呼んでいる。生力はまだまだ謎が多い。というか全く分からない。何故なら君達以外使い手が居ないからな。現代では。」

鄭団長は言った。現代では?つまり昔はいたということなのか?

「昔は居たのですか?」

俺は聞いた。すると鄭団長は頷いて続けた。

「その通りだ。生力を使っていなければ説明できない事象が古代にはたくさんあった。しかし今から1900年くらい前を境に消えたんだ。そこから程なくして漢やローマなどの古代の大帝国が崩壊していった。」

昔と言ってもそんな何千年も昔だとは思わなかった。俺のイメージでは幕末の武士か何かだと思っていたので想像以上に縁遠い話だと思った。もっとも、かつての使用者が誰であろうと今使えるのは俺達2人だけなので何も変わらないのだけれど。

「そんな生力だけれど1900年の時を経て君達が使えるようになったんだ。それでだな、さっき何もわかっていないと言ったが唯一関連性が疑われていることがあってだな...実はその古代にあったとされる災いに似た事象がここハイデラバードに発生したんだ。それは黒い闇が人々を消すというものだ。初めは月に一度も無くて怪談の類いだったのだがここ最近は国内のあちこちで、しかも数人まとめて消える事態が発生したんだ。更には一昨日、ついに国境を超えて隣国マイソールでも発生したんだ。両国ともに我が国の同盟国であるし、そもそも我が国にも被害が及ぶ可能性がある。そこでだ。私も実物を見たことがないので何とも言えないがそれでも君達にはそれを『戻して』欲しい。当然危険を伴う可能性は高い。なので我々皇軍は全力で君達をサポートするからどうか安心して欲しい。」

と言った。子供向けアニメのようなストーリーだ。しかしこれは現実の、しかもどこまでも不確かな任務だ。それでも俺はここで立ち向かいたいと思った。どうせこのままダラダラ生きても林さんや桜狼にも木ノ華にも迷惑をかけるだけだ。

「任せてください!」

俺は自信満々に言った。葵さんは目をまん丸にして俺を見て

「ぼ、僕も頑張ります!」

と言った。鄭団長は驚いたように俺を見て

「夏殿くんは私が思った以上に無鉄砲な人間なんだなぁ。それじゃあしっかり頑張ってくれよ。」

と言った。これは呆れられてると捉えるべきか。

「とは言っても、その対象物がいつ何処に現れるのか分からない。一応ここは軍隊なのである程度訓練には参加して貰うが基本的に自由にしてもらっていい。基地を離れて街に出てもいいぞ。ただし対象物が発生した時は即時に出動しないといけないから基地からあまり離れ過ぎないように。あと電話は必ず出るように。それでは、解散!」

と言った。俺達はひとまず部屋に戻った。部屋に戻ると俺は

「自由にしていいって言ってたけど、どうする?」

と葵さんに聞いた。葵さんは

「お散歩する?」

と言った。俺は

「そうだな。ここのこともまだよく知らないしな。」

と言った。俺達は基地を回って一日を過ごした。街にも少し出た。ハイデラバードは大都会だ。展望台から夜景も見た。異国の摩天楼は壮大で美しかった。街の光はそれぞれ命の燈だと思うと俺達が今から為すことの重要さが痛い程よく分かった。夜市も歩いた。屋台のおっちゃんは日本語が流暢で俺達にも良くしてくれた。葵さんはそのおっちゃんの奥さんに

「あおちゃん」

と呼ばれ俺も便乗して呼んだ結果その呼び方が定着したりした。一日で俺はこの街が大好きになった。俺達は充実した一日を過ごした。

 翌日から午前は軍事訓練をした。元から体力があった俺はなんとかついていけたが、あおちゃんはすぐに救護室に運ばれた。急に酷なことやらせるなぁなんてぼんやり思った。午後は自由時間で街中に出向いた。新鮮で、なんだかんだで楽しかった。軍人達とも仲良くなった。ただ、肝心の要請は一向に来ず、団長も

「おかしいな。」

とぼやいたりしていた。

 以降も同じように繰り返しハイデラバードに来て5日目の昼下がり、あおちゃんと2人で基地を出ると木ノ華と林さんが門の前で待っていた。

「元気にしとったか夏殿のあんちゃん。」

「お兄、日ぃ焼けたか!」

それぞれ言って駆け寄ってきた。あおちゃんはまた人見知りを拗らせて俺の耳元で

「誰...」

と言ってきた。すると林さんが

「そこの子はあんたの友達か。ようこんな早うに友達作るな。」

と言った。俺があおちゃんの方を見るとしょうがないな...という風に俺を見た後頭を下げて

「稲森葵です。よろしくお願いします。」

と言った。すると木ノ華が

「夏殿木ノ華です。こいつの妹です。」

と言った。そして林さんが

「俺は林豊将(りんほうしょう)や。こいつの...上司みたいなもんや。」

と続けた。上司“みたいなもの”と言っていたが今では実際に上司なのである。確かに今までの関係は本当に言葉で言い表しにくかったが。

「いやーにしても夏殿のあんちゃん、急やったなほんま。なんかあるんちゃうか思って心配したわ。」

と林さんが言った。すると木ノ華がニヤけながら

「そういや綾ちゃん誘ったんやけどさぁ...」

と言った。すると林さんが

「こら、辞めなさい木ノ華ちゃん。言っていいこと悪いことあるやろ。」

と叱った。俺は大体察してしまった。

「あんちゃんもまあね...きっといい人見つかるよ。」

と俺の様子を察した林さんが言った。俺は余計に落ち込んだ。林さんは慌てて話題を切り替えた。

「あっそうそう、新横綱もここに来てるよ〜?」

「は!?」

俺は思わず叫んだ。林さんと木ノ華も驚いたが、完全に想定外という訳ではなかった。しかし桜狼は新横綱。忙しいなんてどころの話では無いはずだ。

「師弟でゆっくりしたいんやって。でもあんたがここに居るなら会いたいやってよ。千秋楽もおらんかったしな。今は暇か?」

林さんは聞いてきた。俺は

「はい!!」

と二つ返事で向かった。

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