おともだち
「彼は君のルームメイトだ。仲良くするように。」
そう言って鄭団長が連れてきたのは昔の桜狼を彷彿とさせる俺の肩ほどの背丈もない、華奢な少年だった。この子が特高警察に目をつけられたのか...?その弱気な瞳からは想像もつかなかった。
「初めまして。俺は夏殿虎涼だ。よろしく。」
俺はそう言い手を差し出した。その子は恐る恐る手を出し
「よろしくね...虎涼くん。僕は稲森葵だ。」
葵くんはそう言い少し微笑んだ。俺はその顔が可愛いと思ってしまった。
「それじゃあ、君達にこのスマホを渡しておく。飛行機内で伝えた機密事項に触れない範囲で自由に使って良いぞ。」
鄭団長は軽く頷いた後そう言い俺達にスマホを渡した。そして
「3時になったら行きに入った門の前に集まるように。以上だ。」
と続けた。そして扉を閉じて何処かへと行った。俺達は2人っきりになった。流石に気まずいので俺は声を掛けた。
「どこから来たの?」
「ひゃい!!」
葵くんは間抜けた返事をした。本当にこの調子でやっていけるのだろうか...出会う前とは別の不安が過った。
「僕は豊原出身だ。でも学校は...農業高専に通ってるんだ。」
葵くんが続けた。豊原は樺太の道庁所在地だ。俺でも知っている。でも農業高専は聞いたことがなかった。
「農業高専?聞いたことないな...」
俺は言った。すると葵くんが
「あっ、ごめんね知らないよね...農業高専っていうのは旭川にある日本で唯一の農業を専門とした高専なんだ。あっ...高専って分かる...かな?」
と言った。流石に高専くらいは知ってる。言い草に少しむっとしたが会話を続けた。
「へえ、そんな学校があるんだ。高専って難しいところなんでしょ?俺は大阪出身だけど今は東京に住んでる。訛ってる?」
俺は今頑張って標準語で話しているが喋り慣れない為に違和感が凄い。長期の共同生活だから開き直って関西弁に戻すべきだろうか...
「ううん、普通だよ。寧ろ僕の方が変な話し方してるんじゃないかな?」
葵くんが言った。あまりに覇気がないが、変ではない。
「大丈夫だ。そう言えばここで何するんだろうな。俺はやらかしたみたいだからここに連れてこられたみたいだけど!」
俺ははっはーと少しおどけた感じで笑った。すると葵くんは俯いて
「絶対笑わずに聞いてくれる?」
と言った。
「ああ。」
俺は言った。俺の経歴も覚醒した力で無双したなんて厨ニ病の妄想みたいな話なので人のことを笑えない。そもそも恐らく特高警察に目つけられていることは確定してるのだから何を言われても驚かない。
「実は僕ね、不思議な力を使えるんだ。力が強くなったり、物を操ったりする力。やっぱりおかしいよね。」
葵くんが言った。少し意外だった。ちょっと考えれば異能が自分だけである理由などどこにも無いから持っていても何らおかしくないことは分かるのに頭にその考えはなかった。
「あれ...笑いも驚きもしないんだね。そんな反応だったの君が2人目だよ。」
葵くんが言った。ん?2人目?理解できる人間がまだいるのか?
「実は俺もそのような力が使えるから分かった。ところで2人目って言ってたけどもう1人いるのか?」
俺は聞いた。すると葵くんが
「うん。アリサって子だよ。ハバロフスクからの留学生なんだ。でもその子はこの能力を使えないよ。ただとっても優しいんだ。」
と言った。異能を使えるわけじゃ無いのか...と少し残念な気持ちになった。
「それでね、この力を使えるようになったのは小学生の時だったんだけど、交通事故で死にかけた時に手に入れたんだ。これも虎涼くんと同じかな?」
葵くんが言った。俺の場合はもっと物騒だけど死にかけて手に入れたことは同じだ。
「うん、そうだな。」
俺は返した。すると葵くんは
「そっか。」
と言った。そして
「この力をクラスの子に話したら馬鹿にされて。そこから虐められるようになったんだ。高専に来てからは内緒にしてたんだけど、そしたら虐められもしなくなったんだけど友達もできなくなっちゃった。」
と続けてふふっと笑った。そして葵くんは更に
「ある時アリサちゃんが階段で転けて、落ちてきちゃったのよね。その時僕はあの子を支える為に咄嗟にその力が出ちゃったんだ。この力は君も知ってる通り強力だからびっくりしちゃったっぽくて。アリサちゃんが驚いた顔をして「スゴイ!アリガトウ!」って大声で言ったのよね。初めて役に立った嬉しさより恥ずかしさが勝っちゃってそのままアリサちゃんの手を取って校舎の裏に行ったんだ。」
と言った。俺は思わず
「大胆だな。」
と言った。こんな弱々しい見た目と裏腹にとんでもない度胸があって羨ましくなった。俺もこのメンタルがあればもうちょっと綾ちゃんに近づけるのかなと思った。葵くんは
「そうだね。」
とクスッと笑った後話を続けた。
「そこでね、僕はこの能力を小学校ぶりに教えたんだ。そしたらアリサちゃん目を輝かしてね...嬉しかったよ。だって初めて友達ができたんだもん!そこから色んなことをしたんだよ。屋上に外から登ったり裏山に穴を開けたり...色々やったんだけど最後にね最後にね...」
そこで声が詰まった。俺は静かに次の言葉を待った。そして葵くんは顔を真っ赤にしながら続けた。
「アリサちゃんの髪を切ってたんだよ。でも間違えて服ごと切っちゃって...アリサちゃんは裸になった。」
「あっちゃー!」
俺は声が出た。酷いっちゃ酷いけど思ったよりは可愛らしい事態で安心した。俺は寧ろ裏山に穴を開けたりした方が俺より上手に思えて驚いた。
「でっ、でもブラは切れてないから...」
葵くんは言った。
「男として恥ずかしいことやっちゃったねぇ!」
俺はニヤニヤして煽った。葵くんは顔を真っ赤にして俯いて黙ってしまった。俺は焦って
「ごめん、言い過ぎたね...」
と言った。すると葵くんはぶんぶんと首を振ってこう言った。
「実は僕...女なんだ...団長も僕を男と思って扱ってたみたいだけど...」
予想もしなかった返事に俺は
「えっ。」
と言った。俺は何か繕わないとまずいと思い
「あの団長も欺けるなんて流石だね!」
と言った。しかし葵さん?は黙ってしまった。沈黙が続き、あまりにも気まずくなって葵さん?が
「もっ、もう時間だし行こっか!」
と言って部屋から逃げ出すように出ていこうとした。俺は思わず
「待って。」
と言って葵さん?の腕を掴んだ。しっとりとした白くて細い腕だった。しかし次の瞬間俺は我に帰り、何をやってるんだ俺!と思いながら手を引っ込めて
「ごめん...」
と言った。また気まずくなった。俺達はそのまま俯いて歩いていった。




