入隊
「ブロロロロロ...」
広い輸送機の内部にエンジン音が響く。俺は今ベンガル湾上空にいる。つい昨日はゆっくり大相撲を観戦していたはずだ。そんな俺が何故今こうして異国の上空にいるのか説明しよう。
俺はあの事件の後病院で、尋問を受けた。
「あの時どこに居た?この時何をした?」
というようなものだ。質問の数は多くなかった。そしてあっさりと
「おめでとう。君は無罪だ。」
と言われた。ほっと胸を撫で下ろした矢先、警官の一人が
「君はまだ兵役に就いていないね?」
と聞いてきた。まだ19歳で今つく必要もなく、疑問に思ったが就いていないことは事実だ。俺は正直に
「はい。」
と答えた。すると衝撃の内容を告げられた。
「君は明日から兵役に就いてもらう。いいね?」
待て待て、明日から???何の準備も出来てないぞ。何なら千秋楽すらも見ていない。そもそも、怪我も治っていない。
「えっ、えーっと...?」
俺は戸惑った。すると警官はにじり寄り
「いいね???」
と詰めてきた。俺は思わず
「は...はい。」
と答えた。
「無理を言ってるのは十も承知だ。でも君は特殊だ。今の困難に打ち勝つ要因になるかもしれない。よろしく頼む。それにもし断れば、君の無罪が無罪で無くなるかもしれない。」
と言ってきた。かなり嫌な予感がする。しかしこれが俺が俺であるための最後のチャンスである気がするのでやめる気はなかった。
そして警官は最後に、行き先を言った。
「明日の午後3時に仁川空港に荷物を纏めて来て欲しい。そこからハイデラバード王国の帝国軍基地に行ってもらう。」
いきなり外国???俺は狼狽えた。
まあそんなんで俺はハイデラバード首都圏郊外にある帝国軍基地に降り立った。ちなみに今の時点で「今の困難」が何なのか、「君は特殊」が何なのかは教えられていない。俺を励ますだけのハッタリだろうか...
宿舎の方に歩くと、猛暑日にも関わらずマントを被ってる軍人が出迎えに来た。深く被った帽子の影からうっすら見える右目を縦に走った傷が不気味さをより増しているような気がした。
「初めまして夏殿。私は大日本帝国亜細亜軍第六師団団長の鄭だ。よろしく頼む。」
低い声でゆっくりといった。背丈は俺より10cm以上は低かったが桂大錦を除いて初めて絶対に勝てない人間だと思った。
「初めまして。夏殿虎涼と申します。これから何卒よろしくお願いします。」
俺は深く礼をした。何があるか分からないので心象だけでもよくしておきたかった。鄭団長は俺の眼を見た後振り返り、
「ついて来い。案内する。」
と言った。俺以外に入隊する人は見かけなかった。鄭団長の秘書らしき人もいなかった。その上、案内するのは上官も上官の師団長である鄭団長だ。やはり本当に特殊なのだろうか。モヤモヤしているうちに3階の北側通路の突き当たりに案内された。
「君の部屋はここだ。」
師団長は戸を開いた。
「鄭団長、質問よろしいでしょうか。」
俺は恐る恐る聞いた。
「よろしい。なんだね?」
鄭団長が言った。俺は
「昨日、特高警察の方々が「君は特殊だ。今の困難に打ち勝つ要因になるかもしれない。」と仰っていたのですが、こちらではどういったことを致すのですか?」
と聞いた。すると鄭団長は
「ああ、それか。それに関しては後で説明する。君はここで待て。この部屋は二人部屋だ。君と、後もう一人入隊するから仲良くするように。今から私はその子を連れてくるから。それでは。」
と言った。俺の入隊理由はもうすぐ説明されそうだからいいとしてもう一人は誰なんだ。特別警察に目をつけられ師団長直々に案内されるやべー奴がまだ居るのか。俺は仲良くできる自信はあまり無かった。
しばらく部屋で待っているとノックが聞こえた。俺は慌てて扉から出た。
「彼は君のルームメイトだ。仲良くするように。」
鄭団長が言った。ルームメイトの姿に俺は目を疑った。




