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鋼師  作者: 宰相トマワ
10/27

気になるあの娘

俺は林さんの会社で働くことに決まった。そもそも反社で生きたい訳ではないので堅気になれるに越したことはないから嬉しかった。

 林さんの会社の店は良く栄えてる。年々羽振りが良くなってきた理由がよく分かる。俺はポストに謎の札束を入れられたりしたがそれなりに充実した生活を送っていた。

 そんな俺には最近気になる娘が出来た。その娘は1週間に1回か2回1人で店にやってきて俺でも食べきれないほど大量の料理を食べ切って帰っていた。レジの時も喋ることはない程無口だった。そして会計をしている時おっとりとした眼差しで見つめてくる。そして何と言ってもその胸だ。2月の寒くジャンバーなど厚着をしていてもなおその膨らみがよく分かる。

 しかし所詮は客と店員の関係だ。業務中に私語をする訳にいかないし、業務が終わったからと言って跡を追えばそれはストーカーだ。俺は悶々とした気持ちでそんな日々を過ごしていた。

 ある日、特にすることもなかったので倉山浜部屋で稽古をボーッと見ていた。すると林さんがやって来て

「夏殿のあんちゃんなんや、綾ちゃんと知り合いかいな。」

と言った。

「へっ?」

俺は誰のことか分からず間の抜けた返事をした。すると隣にあの意中の娘が座っていた。

「なんや知り合いちゃうんか。ぴったり座っとるから、知り合いか思ったわ。でもよう似合っとるで。」

林さんがそう言うとその綾ちゃんは俯いた。かっ、可愛い...

「こいつぁなぁ、夏殿虎涼言うんや。うちの店で働いとるねん。あんま笑わんくて怖いかも知れんけど絶対人を裏切らんええ男や。あとなぁ、ここの大関の親友や。」

林さんが綾ちゃんに俺を説明した。すると綾ちゃんが小声で

「存じてます。」

と言った。えっ、なんで知ってるの?ねえどうして??

「ほいでこの娘は西宮綾言うんや。まだ大学生や言うのにここのタニマチになってなぁ。滅多に喋らんけどよう気の利く優しい子やで。あとここの横綱の大ファンや。」

林さんが俺に言い終わるより先に綾ちゃんが

「あっ、桂大錦関はですね、なんといってもあのあんこが...」

とマシンガントークでプレゼンし始めた。勢いに押されて半分くらいしか聞き取れなかったがここまで愛される桂大錦が少し羨ましかった。でも凄く納得もした。何故なら俺もかっこいいと思うから。平成・令和の大横綱桂大錦。俺と一緒にいる時は挙動不審で少し怖いまであるけれど土俵に立てばまるで鬼神、神の依代としか言いようがなかった。史上最多の40回の優勝を記録し全盛期には猛スピードで動き回る210cmの超巨体の怪力力士に誰も勝つことができず双葉山の69連勝を大きく上回り不滅の112連勝を叩き出した。ここ数年は大怪我の影響で休場続きだがそれでも出場すれば優勝どころか大抵全勝してしまう程怪物っぷりも健在だ。それでいながら美形で誰にでも優しく朗らかな人格者で本当に隙がない。あの桜狼も師として氏として仰ぎ強く育つわけだ。

「...って言うことですよ!!ハァハァ...」

ぶっ続けでマシンガントークを繰り出し続けた綾ちゃんは勢いに任せて喋り過ぎたせいで息切れをしていた。

「...綾さん、よろしくお願いします。」

俺はそんな言葉を口にした。しまった。最初から下の名前で呼ぶなど図々しいにも程がある。恥ずかしい。

「こちらこそよろしくお願いします、虎涼くん。」

綾ちゃんがはにかみながら言った。

ああああああああああああああああああああ!!!!!

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