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廻るメリーゴーラウンド

作者: 霊闇レアン

この世には噂が溢れている。


群衆が囁き合って生み出される虚構。

発信者と受信者の間で歪み、時を経るごとに膨らんでいくもの。

やがて都市伝説と呼ばれるものにまで成長することもある。


しかし、何事にもきっかけはあるものだ。

火の無い所に煙は立たない。

ただ、煙の元で灰になっているものがなんなのかは想像に任せられる。


そして、世界中で噂の火種は燻っている。

例えば此処、廃園になった遊園地など格好の的だ。


中でもメリーゴーラウンドの管制室には当時の裏金が保管されているという噂はその界隈で有名な話。


大規模な遊園地だったからか、昔は黒い噂が絶えなかったそうだ。建設時に何人も事故で死んでいる、多額の賄賂が絡んでいる、従業員が失踪する、など。


特に興味深いのは従業員の失踪だ。当時の大手企業が手掛けた遊園地であり、アトラクションの従業員といえども給与の水準が高く、採用された若者や転勤した人たちは随分と喜んだようだ。


従業員には併設された豪華な社宅が宛がわれた。必要なものは申請すると会社がすぐに用意し、食事も食堂で食べ放題だった。

代わりに長期休暇以外で外に出ることは禁じられていた。企業秘密の保持が目的だったからだ。

送り出した親の大半は外出禁止や仕送り額に驚きつつも、待遇がいいのなら、と納得していたらしい。


しかし、開園から一年も経った頃に従業員失踪の噂が流れる。

手紙の返信が途絶えたことを不審に思った家族が会社に確認すると、そのような従業員は働いておりません、と突っ返されたことがきっかけだという。

仕送りは止まっていないから、勤め先に聞けば連絡がつくだろうと思っていた家族は仕送りの出所の謎と消息不明が重なり大混乱。

息子の友人を訪ねても入社前の様子しか知らないと言う。深まる猜疑と世間の興味が、次第に噂を膨らませていった。


今や街の名物と化した廃園だが、その魅力の大半がこうした噂によるものである。


何処から漏れ聞いたか噂に魅かれた人々が廃園に訪れる。

様々なアトラクションにそれぞれの曰くがあるものだから、話題には事欠かなかった。

時折、廃園を訪れたきり失踪してしまう事件や、怪我人が出るくらいでは不思議に思う人も少なくなっていた。

山を拓いて建設したものだから、遭難したか、崖に転落したか、あるいは祟られたか、そんな噂が一つ増えるだけなのである。


ここ最近で注目されている噂といえば、メリーゴーラウンドが夜な夜な稼働している、というもの。

眩し過ぎるほど煌びやかなライトに照らされた白馬が音楽に合わせて廻るんだとか。



某日零時。

噂を確かめるべくして二人組の男が廃園に踏み込んだ。

彼らは手元のライトを左右に振りながら歩いている。錆びついたアトラクションに近付いては離れることを繰り返す。


何度目かの散策で目当てのものを見つけたのか、背の高い男が相方に向けてライトを振った。

小太りの男と傾いたアトラクションが照らされる。

一瞬、アトラクションの陰に倒れた看板が光に晒されたが、彼らは気が付かなかった。


『ようこそ永遠の街へ』


何頭も欠けた遊具を丹念に調べる二人。

頭部が落ちていたり、支えの棒が外れていたり。


ぐるりと一周見回った彼らは目的の第一歩を見つける。

メリーゴーラウンドの床に設置された扉が開かれた。

鉄錆の軋みと興奮した二人の息遣いとが混ざり合った。


「............が......くな......。......き......けろ......」


微かに男の声が響く。壁に沿って這っているのか、彼らの動きは鈍い。


「......なに............くても......いい............か」


コンクリート製の螺旋階段が一定の間隔で踏まれる。その度に鈍く響き、進むほどに大きくなる。半ばまで来ると、突然ネオンライトが点滅した。


「なん.....に.......え......ぞ......」


二人はやや狼狽えたが、すぐに降り始める。

数段いくとネオン管が光を放ち、消える。

次第に二人も慣れたのか気にする様子はなくなった。


「やっと......った。なんだ、まだ......あるじゃないか」


長い下降を終えた二人が見たものはネオンの点滅する廊下。太い声が先を見つけたのか、片割れに進むよう声を掛けている。


「これだけ深く......来たんだ、もう......だろう」


呟かれた言葉は自身へのものだろうか。

太い声を追うようにして片割れの足音が響く。

二人が歩き始めるとガコン、と地面が揺れたが、螺旋階段を降り続けた足では気付くこともないようだった。

相変わらずネオンは規則的に点滅を繰り返す。


暫くもしないうちに片方が足を緩めながら口を開いた。


「何か音がしないか?」


「そりゃあするだろう。電気も......、俺たちの足音も響く、きっと機械が稼働してる音だ。......は近いぞ」


太い声が得意げに返す。男の言う通り、地下には機械音や足音など複数の音が反響し続けている。


十数分も経った頃、二人は複数の扉を見つけた。


「ここは......着いたのか。他に道もなかった。恐らく従業員が詰めていた場所だ」


「それなら管制室もこの中のどれかだな」


「左右でわけて手分けしよう。管制室以外にも何かあるかもしれない」


「了解」


二人は頷くと足早に別々の部屋へと進んだ。

二人が進んだ部屋は殆ど同じ構造になっていた。

奥行きのある縦長の間取り。点滅するネオンと整頓された家具。

何より特徴的なのは四方の壁が全てスクリーン。

一定周期で繰り返される映像と音楽が彼らを迎え入れた。



三日もすると彼らは慣れる。

決まった時間に奥の広間で仕事をこなし、睡眠をとってまた働く。

スクリーンで好きな映画や動画を流してやれば暴れることもない。

調子が悪い時は大抵、壊れた社員をあてがえばまた元気に働き出す。


今日も元気に働こう。

夜な夜な廻るメリーゴーラウンドの噂を流そう。

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