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悪役令嬢はカウント4で両手をあげる

作者: 香月 しを

今までで一番ふざけて書きました。

さすがに恋愛ジャンルではないなと思って、コメディジャンル。

申し訳ありませんが、貴族ってこういうものという知識があるしそれを逸脱したものは許せない、そんな方々は、お読みにならないでください。ギャグです。ラブ入ってますけど、ギャグでございます。



「リンドシー・バーンズ! 貴様との婚約を破棄する!」


 いやいや、何言っちゃってんの、この人。


 ひとの家に朝っぱらから徒党を組んで乗り込んできて、高らかに婚約破棄を宣言するとかないわ。非常識。明日に卒業パーティーを控えて、今日は休みを満喫しようと思って起きたら、朝早くからこの仕打ちとかないわ。可哀想な私。


 見てみなさいよ、周りを。家令から何から、普段は取り澄ましている使用人一同、ぽかんとして口開きっぱなしになってるじゃないのよ。

 そして私の両親、バーンズ侯爵夫妻は、アレだ。むっちゃ笑顔。笑顔なのにこめかみに青筋たててぴっきぴき。腐っても侯爵家だから我が家。いや、腐ってないか。我が国一番の穀倉地帯をおさめる領主だったわ。税金むっちゃ納めてる。父の従弟の国王は、お前の領地にゃ足を向けて寝られないぜってワイルドに言って笑ってたな。


「お前……婚約を破棄されるとか……何やったんだよマジで」


 たまたま遊びに来ていた王太子殿下が、私の横に立って囁いてくる。キラキラモードを封印して使用人のふりをして遊んでいたところだったので、元?婚約者たちには正体はバレていない。

 そうね、ビックリしすぎて、婚約破棄の理由を聞くのを忘れていたわ。どうせくだらない理由でしょうけど。


「婚約破棄ですか。アーネスト様、理由をお聞かせ願えますか?」

「もう婚約者ではない! 名前を呼ぶことを許した覚えはないぞ! リンドシー・バーンズ!」

「はぁ、では貴方様と同じようにさせていただきますわね。アーネスト・フォックス、婚約破棄の理由を説明しなさい」

「な…………ッ」


 アーネスト・フォックスは、フォックス伯爵家の嫡男である。いわば格下。そこまで身分に煩い世界ではないが、婚約破棄をするならば、今までのような無礼な態度は許さない。身分に煩い世界ではないからこそ、対応に個人差が出る。私は気に食わない人間の礼儀には煩いのだ。


 アーネスト・フォックスが連れてきたご友人達を見渡すと、伯爵令息が一人、子爵令息が二人、それに男爵令息が二人。あら、その後ろでチラチラ見え隠れしているのは、最近学園を騒がせている男爵令嬢じゃないかしら? ふわふわピンク頭に、毛穴なんてひとつも見えない化粧品を塗りたくった顔、黒目をでっかくする為に入れられた、ビー玉みたいなカラコン。


 それを見た瞬間、新しい記憶が、頭の中に一気に流れ込んできた。


 悪役令嬢、ヒロイン、断罪、婚約破棄、ざまぁ……幾多の物語を読みまくり、ニヤニヤしていた日々。イケメン、美少女、魔法使い、イケおじ……つまらない日常に色をつけてくれた素晴らしき物語の数々!

 驚くことに、まったく動揺していない。少しはショックを受けたらいいのに、私。令嬢にいきなり平民が入り込んだようなものなのよ。少しぐらい動揺してもいいと思うの。頭に浮かぶ言葉も今までと全く違和感ないし。いや、元々、生粋の令嬢であった私も、あんまり令嬢らしくない性格と話し方だった。この世界、特にこの国は、貴族らしい貴族がいない。常に無礼講な世界だ。王様も、貴族も、平民も、そんなに身分制度が厳しくない。(ただし対応に個人差が……以下省略)


 名前、顔、背景。見たことある、聞いたことある。この声、あの台詞。そうだ。これぞ、私が前世で憧れていた世界。死んだらもしかしたらワンチャンあるんじゃねぇかと転生なんて考えていた世界。なんだったかしら、ゲーム、アニメ、漫画か小説か。声に聞き覚えがあるならば、漫画や小説ではないわね。


 あのヒロイン氏、みたことあるわ。最終的に、殿下氏と結ばれる運命の聖女的な女じゃなかったかしら? あッ、いけない。前世の口癖が出てしまった。会社でも、課長達にふざけて氏をつけて、課長氏だの部長氏だの呼んでいたので。社員全員が。社員全員が不敬な会社。


 口に手をあてて笑いそうになっていると、フォックス氏の後ろからヒロイン氏が飛び出してきた。やばい、氏付けがやめられない。覚えたての言葉を使いたいさかりの子供みたいになってしまった。


「リンドシー様! もういい加減、罪を認めてください!」

「は?」

「私、知っているんです。貴女が私に意地悪をしていたこと!」

「意地悪って……」

 小学生かな? 意地悪。私はいったい彼女に何をしたんだろうか。前世の記憶が戻ったとしても今世の記憶が消えたわけではないので、記憶を辿っても何もしていないのは明らかなのだけれど。

「ロッカーに生ごみが放り込まれていました!」

「それは大変ね」

「鞄の中に、ねずみの死骸が放り込まれていました!」

「あらあら大変だわ」

「机の中に、カビのはえたパンが放り込まれていました!」

「いや、放り込まれ人生かよ」

「ぶはッ、ちょ……やめろ」

 思わず突っ込んだら、隣に立っていた王太子殿下が噴き出してしまった。ちょっと、煽るのやめてよ。その怒りが全部私に集中しちゃうんだから。見て、あのヒロイン氏の顔。真っ赤になって怒ってるから。


「おい、貴様! 卒業パーティーのような晴れ舞台で断罪するのは可哀想だとアイラが言うからわざわざ別の日に婚約破棄しに来てやったというのに、なんだその態度は!」


 なるほど。アイラとはヒロイン氏の名前かしら。彼女が誘導して、前日に断罪をしに来た、と。馬鹿じゃないかしら。のこのこと口車に乗って。ヒロイン氏は、保険をかけたってところね。彼女、転生ヒロインなんだと思う。本来なら、隣で爆笑している王太子殿下に気に入られて、卒業パーティーでは殿下氏の婚約者を断罪する話よ。ところが、彼女の隣には、私の元婚約者である伯爵令息。少しのズレを修正できずに、どんどん予想進路が変わってしまっていったのね、台風と一緒で、予報円は段々大きくなるものよ。このままでは卒業パーティーでの断罪もうまくいかないかもしれない。そう考えて、今日、この時間に、わざわざ何人も連れてきたのだわ。


「そうよそうよ! 悪役令嬢なんだから、おとなしく断罪されるべきだわ!」

「悪役令嬢! 私が?」


 大げさに驚いてみせる。隣で笑っていた殿下氏は急に真顔になり、後ろに並んでいた使用人達からは殺気が漏れ出した。両親は、まあ、笑っている。高笑いをしつつ、目が笑っていない。恐ろしい。


 しかし、そんなことは些細なこと。そうよ、私は悪役なのよ。スーパーヒール。なんて素敵なのかしら。どんなに悪いことをしたって、許されちゃうのよ。だって悪役なんだもの。そういう生き物なんだもの。これはもう、華々しく自分をアピールしなければならないわ。

 そうと決まったら、こんなくだらないことに割く時間はない。とっととお帰りいただこう。


「とりあえず婚約破棄は喜んで承りました。婚約破棄の手続きはこちらでもすすめておきますわ、ねッ、お父様!」

 こくこくと父が頷いている。サムズアップしながら不敵に笑っているわ。伯爵家からはとにかくふんだくることね。別にお金に困っているわけではないけれど、貰えるものは貰っておかないと。

「私が責任もってフォックス家に話をつけに行こう。そこの洟垂れ小僧は、首を洗って待っているがいい」

「なぁッ!?」

「空気が淀んでいるわ。さあ、皆様、さっさと出て行ってくださいな! ほら、ほら、ほらあ!」

 どすんどすんと手の平でお馬鹿さん達をエントランスから押し出す。どうかしら私の突っ張り。技能賞とかもらえないかしら。進もうとしないヒロイン氏がわざと膝をおり、その場に蹲った。ああ、被害者面してるわ。本当に図々しい。

「アイラ、大丈夫か! 貴様ぁあああ!!」

「あら」

 フォックス氏が鬼のような形相で私に向かってくる。使用人達の悲鳴があがった。

 私はフォックス氏をヒラリと避けて、その背後についた。左足を外側から素早く絡め、フォックス氏の右腕の下に潜り込み、体勢を整えて素早く強く体を捻る。

「いだだだだだだ!! ひいいいいい!」

「いーやーあー! 避けようとしただけなのにー。体が絡まってしまって、抜けないわー。誰かー」

 超棒読みになってしまったが、私は一応被害者である。何故かコブラツイストが決まってしまったけれど。何故か、自然に。意図して動いだわけではないのに。どんどんギチギチに絞まっていくのは、何故かわからないから、仕方ないことだ。

「嘘つけ」

 心の声を聞いた殿下氏が、すぐ傍まできて私を助けだしてくれた。余計なことすんな。もう少し痛め付けさせろ。


 その日のうちに、アーネスト・フォックス有責で、婚約破棄が受理された。明日の卒業パーティーを終えたらすぐさま婚約破棄の事実のお知らせと、慰謝料の請求をすることになっている。もうボロ儲け。そもそも、なんで私、あんなのと婚約していたのかしら。不思議。

「なんであいつと婚約してたの?」

 殿下氏が眉間に皺を寄せながら聞いてきたけれど、こちらが聞きたいと言ったら、呆れた様子で頭を撫でて帰っていった。それが夕方の話。


  * * *


 夜には、殿下氏と陛下氏が突然晩餐に現れて、私と王太子殿下の婚約パーティーをしようなどとはっちゃけていた。王妃氏もちゃっかりついてきて、母と抱き合って喜んでいる。

「えッ? 私と殿下氏が婚約?」

「…………」

 隣の席についていた王太子殿下を見る。何故か顔を赤くしていた。しかも使用人モードをやめて、キラキラ王子様モードに戻っている。

「ちょっと? 殿下氏?」

「だから、なんだよその殿下氏ってのは!」

「いや、あのね、急展開すぎなんだけど?」

「急展開ではない。さっき両親から聞いたが、元々、俺とお前は婚姻を結ぶ予定だった」

「はぁ?」

「幼い頃から決まっていたのに、婚約する直前に、何故かお前とあいつの婚約証明が、神殿に受理されていた」

「え、なんで?」

「伯爵の詐欺だ!」


 和気藹藹と食事をしている親達に目を向ける。気が付いた父が、急に眉をさげて泣きだした。呆れたようにそれを見ている母の視線が冷たい。国王陛下も王妃殿下も困ったように笑っている。


 曰く、私と殿下の婚約書類を持って王城へと出発した当時の父は、偶然出会ったフォックス伯爵にうまいこと騙されて食事をしているうちに睡眠薬で眠らされた。私を息子の嫁にと考えていた伯爵は父が持っていた書類を盗み出し、あとは国王のサインをもらうだけになっていたそれに自らサインをして、勝手に私と息子の婚約を捏造して神殿に申請してしまったというのだ。

 後からそれを知った父も国王も、伯爵を訴えた。だが、王家と神殿は対等である。いくら事情を訴えても、書類を書き直している部分があることを指摘しても、神殿側がミスを認めたくないという理由だけで、受理の取消はされなかった。酷い話である。私の将来がかかっているというのに。競争相手がいないからと腐敗した神殿め、私が王太子妃となった暁には、見てろ。宗教の自由を訴えて、信者をじわじわと減らしてやるわ。実は各地から神殿への不満があがってるの、知ってるんだから。


「あいつがクズでよかった。新しい婚約者があいつよりマシな人間でよかった」

「おい待て、なんだその言い草は」

「うん? なんかまずかった?」

「俺の評価は、その程度なのか? あれだけしょっちゅう遊んでいたのに、俺への好意はまったくないと?」

「いや、子供っぽい遊びばっかりだったから、殿下氏のことはずっと友達みたいに思ってたし」

「まあそうなんだけど!」

 あら、もしかして殿下って私のことが好きだったりするのかしら? 頬を染めたりして。私よりも色気振り撒いてるけども。まあ、殿下はイケメンだし? 頭も悪くないし? 話も合うし? 結婚するのは吝かでは無いわね。うん、ありです。

「そうね、その柔らかそうな唇にキスしてみたいっちゃみたいかも?」

「なんだ急に! やめろ! からかうな!」

「からかってないよ~。どう? してみる?」


「きみたち、親の前でそういうイチャイチャは、やめておこうか?」


 居た堪れない気持ちになるからという理由で、ダイニングを追い出された私達は、サロンで二人、お茶を飲んだ。

「なんで卒業パーティーが終わるまで婚約破棄の事実を報せないんだ?」

「やりたいことがあるからよ」

「やりたいこと?」

「あのヒロイン氏を、ギャフンと言わせたいのよね~」

「お前…………悪い顔をして笑うよな……」

「だって私、悪役だもの! ねえ、ヒース、明日の卒業パーティーは手伝ってね」

 殿下氏の名前は、ヒース。ヒース・アップデンだ。アップデン王国の王太子殿下は、眉間に皺を寄せて唸った。


「嫌な予感しかしない…………」


  * * *


 バン! と大きな音をたてて大きな扉を開くと、その向こうには全校生徒が集められていた。


「きゃああああああ!!」


 私とヒースに気付いた女子生徒が悲鳴をあげる。

 ちょうど檀上にあがっていたヒロインが、私達の登場を唖然とした顔で見つめている。

 直前まで優雅な曲を奏でていた楽団が、私の登場と同時に血沸き肉躍る曲を奏で始めた。指揮者は髪を振り乱して躍動的に動いている。パーティーの二時間前に打ち合わせ済だ。

「きええええ!」

 私は奇声を発して手に持っていたサーベルを高らかにあげた。振り向いた生徒達が、口々に何か叫んで逃げ惑っているが、これも仕込み済。今日は色々と演出がありますのでそれに合わせて演じてくださいと言ってある。そうじゃないとトラウマになっちゃうからね。悪役も色々と気を使う世の中なのよ。

 後ろを見る。恥ずかしそうな顔をしたヒースが、木刀を上に掲げた。いや、なんで恥ずかしがってるの? ヒースの好きな『ごっこ』遊びじゃない。悪役ごっこ。楽しんで楽しんで。

 ガシャガシャと音を鳴らしながら生徒が退いてくれる。立食形式なので、会場にはテーブルがいくつか並んでおり、上には飲み物や軽食が乗っていた。

 騎士科の連中が私に向かってくる。サーベルを振りかざすと、怯えながら逃げて行く。え、それで騎士科って大丈夫? 誰を守るつもり? そんな中、何人かは私の近くまで辿り着いたので、サーベルの柄で殴ってあげた。突き刺さないだけありがたいと思って欲しいわ。

 後ろを守るのはヒースよ。木刀で、怪我をしない程度に卒業生達を牽制してくれている。ふふんと笑いながらテーブルを薙ぎ倒した。狙うは檀上のヒロイン氏。

 悪役令嬢らしく、高笑いをする。一般人に危害を加える様子がないのをわかってくれたのか、逃げ惑っていた生徒達は、壁に沿って立ちながら私達を眺めることにしたみたい。生徒の皆さん、一般人役お疲れ様です。


 檀上にあがった。真っ青な顔をしたヒロイン氏と対峙する。彼女達には演出であるというお知らせはしていない。いつものわざとらしい怯え方じゃなくて、心底怯えているようね。膝がガクガクしているわ。私はニヤリと笑って奥歯を噛みしめた。そして霧吹きのように口から緑の液体をヒロイン氏に向かって浴びせる。


「ぎゃああああああ!! 毒!? いやッ! 死んじゃう!」


 顔にかかった液体を狂ったように拭うヒロイン氏。ふふふ。死ぬわけないじゃない?


「安心してください。青汁です」

「はあああ!? ふざっけんなよ!」

「あら。すごい言葉使いですこと」

「はッ、な、なんでこんな意地悪をするんですかぁ? 婚約破棄された腹いせに、まだ私を苛めるなんて……クスン」

「いえ、なんだか私が貴女をいじめたと冤罪をかけられたので、本当にいじめてやろうかと思いまして。だって私、悪役なんですよね? どんな風に苛められたいんですか? 教えてくださいよ、泣き真似なんてやめて」

「ば、馬鹿じゃないの!?」

 顔を歪めて怒り出したヒロイン氏の後ろから、例の取り巻き連中が現れた。中には、かつての婚約者、フォックス氏もいる。彼らも、これが演出だとは知らされていない。

「貴様あああああ! まさか俺との婚約を破棄するのが嫌で乗り込んできたのか? その、そのサーベルを棄てろ!」

「あら、何故かしら?」

「何故もなにもあるかあああああ!!」

 令息の一人が向かってくる。後ろからヒースが木刀で打ち付けて、彼はその場に倒れてしまった。そこへすかさず近付いて、ドレスのポケットから先程テーブルの上から失敬したフォークを取り出し、令息のお腹の辺りをぐさぐさと突いてやる。刺さってはいない。そんな鋭利なものでもないので。だが、ひたすらお腹をぐさぐさやられるのは恐怖なのでしょうね。ぎゃーぎゃー叫んでいる。

「1、2、3、4!」

 事前にヒースに頼んでおいたカウントが、4まで行くとポケットにフォークをしまって両手をあげる。『ワタシフォークデナンテコウゲキシテイマセンヨ』の意だ。いや、攻撃はしてるんだけど。カウント4までなら反則にはならないの。そういうルールなの。

 ぐったりしてしまった令息から離れ、他の令息達に目をむける。ビクリと体を跳ねさせた彼らは、明らかに怯えていた。

 一人、二人、恐怖で身体が上手く動かない令息達に技をかけていく。ドロップキック、ラリアット、4の字固め。さすがに、ブレーンバスターやらタイガードライバーやらはかけられなかったわ。残念。

 ニコニコしながら、残ったフォックス氏に近付いて行く。私の攻撃なんてそんなに強くないので、立ち上がってこちらに向かってくる令息達は、ヒースの木刀の餌食になってもらったの。

「な……クソ……ッ、この、暴力女が!」

「違うわよ、私は悪役の令嬢。貴方達が言ったんじゃない」

「こんなことが許されるわけがな……うッ!」

「カウント5で反則負けになっちゃうルールだけど、特別に反則にならない技があるのよね、これがそのコブラクロー」

「ぐうッ……は……な……」

 フォックス氏の頸動脈を片手でぐっとおさえる。苦しそうな顔をして抵抗をしていたが、ふっと力が抜けた。落ちたらしい。


「やったー! 勝利だわ! 反則だけど! 反則じゃなかった! 反則だけど! 反則じゃなかった!」


 馴染み深いアニメの台詞をもじって大騒ぎしながら、小躍りする私。白目をむいて倒れそうになっているヒロイン氏。


「いや、反則だから」


 ペチリとヒースに後ろから頭を叩かれた。やり過ぎたみたい。でもスッキリしたわ。


  * * *


 後日、各家に、今回の騒動の説明と、私が冤罪をかけられた話、元々の婚約が犯罪絡みだった話、腐敗した神殿の話など、色々と盛り込んだ文書が届けられた。本当は、卒業パーティーのあのタイミングで会場の皆様に報告しようとしていたんだけど、悪役にすっかり興奮した私はそんなことを忘れて暴れてしまった。あとで関係者からおおいに怒られた。意に沿わない婚約をさせられていた私に、世間は同情的。幼い頃からの恋を成就させたという噂の私とヒースは、国内でも有数のラブラブカップルとして人気が出てしまった。フォックス伯爵家は没落したそうだ。


 その後も、妬まれたり逆恨みをされたりしているが、常に撃退している。

 サーベルを銜えながらパイプ椅子の角で悪漢を退治したり、その辺においてある硬いものを手にして悪党どもを攻撃したり、悪役ごっこは今も続いている。


「リンドシー! カウント4だぞ!」

「あらいけない」


 愛する婚約者ヒースのカウント4で凶器をしまって両手をあげて、何も持っていないアピールをする。


 悪役令嬢は、今のところ負けなしである。






大丈夫でしたでしょうか?

最後まで読んでくださってありがとうございました。

そしてあわよくば良い評価などもいただけると大変励みになります。

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