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シューティングゲーム部の終わる日

作者: 雄野ひよこ

 明るく照らされたUFOキャッチャーコーナーの影、仄暗(ほのぐら)くなってるゲームセンターの片隅で、無機質な電子音が響き渡る。

 そこに置かれていたアーケードのビデオゲームの筐体(きょうたい)、その画面から発する光に吸い寄せられた虫が如く張り付いている二人の男女。

 筐体の前の椅子に座り、レバーを握りボタンを叩く、妖艶(ようえん)な微笑みをたたえた黒髪ロングの美少女は先輩。一方後ろで仁王立ちで見守っている冴えない男子が俺だった。

 俺はじっと画面を見つめていた。ドットで描かれた戦闘機が先輩に操られて自由自在に飛び回り、敵の弾を避け、逆に敵を自機のショットで撃ち抜いていく様を。

 シューティングゲーム。スペースインベーダーを祖とし、かつて世間を席巻(せっけん)したことのあるゲームジャンルだ。今となってはその隆盛の見る影もない、一部の好事家にのみ遊ばれているゲームだが……その好事家の代表例が先輩だろう。なにしろシューティングゲーム部なんて部活を立ち上げたのだから。

 シューティングゲーム部は我が名門私立進学校・葉桜塚高校の中でも最も珍妙な部活と言ってもいいだろう――放課後最寄りのゲーセンに寄ってシューティングゲームをするだけという活動内容はさておいても、部員が俺と先輩の二人しかいないのに部活動として認可されている。それには先輩が生徒会長とのコネを持っているという裏があるかららしいのだが……

 俺は遊んでいられる楽な部活そうという理由でこの部に飛び込んだのだが、その実とんでもないところだった。何故俺以外の誰も部員にならないのか、それは先輩のあまりにもストイックさとマニアックさについていけないからであった。

 ともかくこれは真剣な部活動であり遊びのつもりはなかった。もっとも先輩にとってシューティングゲームはいつだって遊びではない。スポーツのように己を高めるもの、らしい。

 そんな彼女が今向き合っているのは、横スクロールシューティングゲームの金字塔、R-TYPEだ。攻防一体の兵器フォースと威力の高い溜め撃ちの波動砲を駆使して攻略する、戦略性が高く覚え要素が強いのが特徴だが、流石に先輩はやりこんでいる。今は六面まで順調に進めていた。


「あっ」


 しかし目の前で戦闘機R-9が爆散した。ひっきりなしにやってくる輸送コンテナドップに追い詰められ、地形に激突した事故死だった。先輩らしからぬミスだったから思わず声に出てしまった。


「先輩が事故るだなんて、悪いものでも食べたんですか?」

「あら、典明(のりあき)君。ミスしない人間なんてこの世に存在しないわ。でもそこから立て直せるか、リカバリーできるかでその人の実力は決まる」


 先輩は冷静に、汗一つかかず、(さと)すように言った。もう一つ言っておくことがあるわ、と彼女はこれに付け足す。


「R=TYPEは復活が華よ」


 そして再びR-9は発進する。シューティングゲームはミスした際特定の地点まで戻される戻り復活とそのまま再開するその場復活の二種類あるが、R-TYPEは前者だった。しかも取ったパワーアップアイテムも全てなくなり初期状態に戻される。これでは復活なんて無理じゃないか、と思われるが……先輩は波動砲などを使いつつ華麗に敵を(さば)いて切り抜けていった。六面をクリアし七面に進む。すると途中で大体装備が整ってきて、復活成功だ。


「フンフン」


 先輩はゲームのBGMに合わせて鼻歌を歌い始める。出た、ゴキゲンモードだ。こうなると先輩は強い。七面ボスは安置(安全地帯の略、入って動かなければ攻撃をやり過ごせる場所)に入ってタイムオーバーでクリア、七面ボスが落としたアイテムの中にビットがあったのでそれを取得してR-9の上下に敵弾を防ぐ球状のビットが付いた。こうなれば最後の八面は安置に入って楽勝である。もっとも先輩の腕ならビットがなくてもクリアできるだろうが。

 そのままラスボスも安置に入って倒し、ウイニングランを決めた先輩。俺はパチパチと拍手する。いつものことながら。

 R-TYPEはラスボスを倒せば終わりではない、エンディングの後すぐ二周目が始まる。俺は二周目も観戦しようとしていると、先輩に(にら)まれた。


「いつまで見ているだけなのかしら、典明君は。こんなのいつも通りのプレイじゃない、ハイスコアを更新したわけじゃあるまいし」


 それは暗にお前もシューティングゲーム部の部員ならゲームをやれという部長命令を示していた。なので、俺はこのゲーセンにあるもう一つのシューティングゲームの筐体の前に座った。

 怒首領蜂(どどんぱち)大往生。弾幕系縦スクロールシューティングゲームの傑作の一つだ。弾幕系とはその名の通り敵弾が大量に撃たれるが、自機の当たり判定が小さく意外と避けやすくなっているというバランス調整がなされたシューティングゲームの中のジャンルだ。俺は弾幕に魅せられた男と言っても過言ではなかった。吸い込まれるようにコイン投入口に百円玉を滑らせる。

 自機の選択画面で俺はB機体のエクスイを選ぶ。サポートキャラであるエレメントドール、エクスイは通常ショットとレーザーの両方を強化してくれるが使えるボムの数が少ない玄人(くろうと)向けなのだが、先輩曰く初心者でもエクスイがオススメ、とのことで俺は選んでいる。

 自機の選択が終わると一面の月面都市に投げ出される。BGMがシームレスにセレクト画面の曲から一面の曲に切り替わるのが俺は好きだった。東亞(とうあ)――名曲だ。

 弾幕系と言っても一面はまだそんなに攻撃は激しくない。なので俺でも難なくクリアする。だが次の二面からちょっと怪しくなってくる――二面ボスの百虎(びゃっこ)相手にはなけなしのボムも使ってしまう。ボムによる弾消しがないと弾幕を(しの)げない。

 そして問題は三面だ。俺は大抵三面で立て続けにミスしゲームオーバーになってしまう。今日も三面中ボスで一ミスしてしまった。俺は焦る。だが先輩の言葉を思い出す――ミスした後立て直せるかが肝心と。

 俺はなんとか冷静さを保ってパターン通りに敵を倒していく。危ういところでボムを使い、ギリギリ一ミスだけで三面ボスに辿り着く。この三面ボス厳武(げんぶ)がまた強敵なのだが……

 ふと視線を感じ、俺は振り返る。するとゲームオーバーになってプレイを終えたのか、先輩が背後に立って画面を見ていた。


「こら典明、よそ見しない」


 先輩に叱られ俺は再び画面を注視すると、かなり危ないところまで敵弾が迫っていた。俺は慌ててかわす。先輩が見ているのなら、いいところを見せないと――しかしその後すぐ被弾し残機が減る。じわじわ追い詰められていく。


「クソ、早く死ね!」


 俺は思わず呪詛(じゅそ)を吐きながら厳武を睨んだ。体力が減るにつれて敵の攻撃も激しくなる。それをボムで相殺(そうさい)して撃ち込み――ようやく仕留めた。三面突破。珍しいことだ、初心者の俺にとっては。

 しかしそこで緊張の糸が切れて、四面に入るとすぐやられてしまった。そんな俺のプレイを見て先輩は感想を述べた。


「今日は調子いいみたいね。でも典明君、最後はちょっと力抜けてたわね。今の自分で満足してたら駄目よ、もっと上を目指さないとね」


 先輩は褒めてくれることもあるが決して甘やかしてはくれない。シューティングゲーム部の部長としてはそれで正しいのだろうが……


「それとさっきの暴言は良くないわ」

「えっ?」

「早く死ねって懇願(こんがん)するんじゃなくて、ぶっ殺すって心意気を持たないと、シューターとしてはやっていけないわ。ううん、ぶっ殺すでも足りない……ぶっ殺した、なら言っていいわ」


 そんな物騒なことを先輩は躊躇(ためら)いなく言ってのける。ギラギラとした殺意を俺ではなくゲーム筐体に向けていた。かと思えばくすくすと笑ってみせる。


「今のは心構えの話だからね。それより典明君、一クレでいいの?」

「いいや、もうちょっとやってみますよ」


 先輩に促されて俺はまた百円玉を筐体に入れる。コンティニューではなく最初から怒首領蜂大往生をやり直す。シューティングゲーム部ではコンティニューはご法度(はっと)だった。先輩曰く、ノーコンティニューでどこまで行けるかが真の自分の実力であり、それこそがアーケードゲームとの向き合い方だという。

 しかし結局その日は四面以上先に進めることはなかった。ここら辺が今の自分の限界だと感じていた。しかし先輩はこう言った。


「限界なんてない。自分を信じ磨き続ければ、いつかはどんな壁だって乗り越えられる。この世には二種類の人間がいるわ。それは続ける人間と諦める人間。シューターって生き物はすべからく前者なのよ」


 俺は感心しながらも、俺が先輩のレベルに達することはないんだろうなとも感じていた。聞けば彼女は幼い頃からシューティングゲームの鍛錬を積んできたのである。入部してから一年も経たない俺には到底敵わないなと思う。

 それでも俺は上達しようと努力を続けてきたのは、ひとえに先輩が魅力的だったからだ。先輩を失望させたくなかったので、宿題と称して家に帰ってもシューティングゲームをやれと言われても素直にそうしてきたし、その成果を部活動で見せてきた。勿論シューティングゲーム自体好きになっていった部分もある。だがやはり先輩が俺の中では一番だ。

 しかし同じ時間を過ごせば過ごすほど先輩の立つ地平に届かないことを思い知らされる。俺には高嶺(たかね)の花なのだ。好きで好きで仕方ないのに、いまだに告白する勇気を持てない。告白なんてしてしまったらこの部活が終わってしまいそうで――


「どうしたのかな典明君。集中力散漫。これじゃかわせる弾もかわせないよ」


 そんなことを考えながらボーっとしていると、先輩からお叱りを受けた。


「今日は引き上げましょうか」


 先輩の号令で俺達は仄暗いゲーセンを後にした。

 冷房の効いていたゲーセンでは感覚が鈍っていたが、外は真夏日、ちょっと歩くだけでも汗がダラダラ流れる。俺は先輩に連れられて駅前のゲーセンからすぐ近くのコンビニへと向かった。ここ最近は部活の後にアイスを買って駅前で食べながら解散、という形が多かった。今日も俺は小豆バーを買う。


「典明君、ホントそれ好きね。たまにはソーダ味の方がいいと思うんだけど」

「いや、俺は断然小豆派です」


 そんなやりとりも昨日と同じようにした。コンビニを出て、俺と先輩はそれぞれ買ったアイスを口にしながら駅へと足を運びつつ駄弁る。


「私、実は斑鳩(いかるが)苦手なのよね」

「先輩が? 意外ですね。斑鳩みたいにパターン組んだらいけるタイプのシューティングはむしろ得意だと思ってましたが」

「そうなんだけど、いざプレイしてみると白だっけ、黒だっけって頭が混乱してるうちにやられてしまうの。勿論、音楽や演出は好きだけどね」


 相変わらず口を開けばシューティングゲームのことばかりな先輩。だがこの時は少し違っていた。ふと彼女は話を切り出す。


「私が卒業したら廃部かしらね。典明君にはかわいそうだけど」

「そんな、部員のことなら新入部員獲得してみせますよ! 先輩がいなくてもやっていけますって」


 俺は先輩を安心させようと心にもないことを言う。本当は先輩がいなくなった後のことなんて全く考えてなかった。


「でもシューティングゲーム部なんて(かなえ)が生徒会長だから通ったまでだし、私も叶も三年だからね。永遠に続くものではないわ」


 前に先輩が言っていたことでは、生徒会長とは幼馴染――先輩的には奇妙な宿縁――らしく、彼女の振る舞いを大目に見てもらっているそうだ。そんな生徒会長もいなくなれば一見お遊びに見えるシューティングゲーム部なんて取り潰しの目に遭うかもしれない、成程。

 だが俺はそれでも構わないという気がしていた。先輩と一緒にいられることにこの部活の意義があると思っているからだ。先輩が卒業してしまえば廃部もやむなしか。そもそもシューティングゲームは独りでやるものだしな。


「典明君は本気でこの部活を続けたい?」

「俺は……」


 正直に答えてしまっていいものか、俺は悩み口籠る。それほど意欲的でないと知ったら先輩は失望してしまうだろうか? それは怖い。

 だが返答する前に俺達は駅に着いてしまっていた。


「今日はここまでね……また明日ね典明君」


 先程の会話を打ち切って先輩は別れの挨拶をする。


「帰ったら何をやる?」

沙羅曼蛇(さらまんだ)……かな。もう少しでコツ掴めそうだし」

「その意気よ典明君。じゃあね」


 先輩は手を振りながら改札を通って駅のホームへと消えていった。

 夕暮れ時の、いつものやりとり。

 まさか、それが最後になるなんて。この時の俺には思いもしなかった。




 次の日、約束の時間を過ぎても先輩はゲーセンに姿を現さなかった。

 最初はよくある気まぐれだと思った。先輩のことだ、俺をからかっているに違いないと。

 しかしその次の日も先輩は現れなかった。

 俺は何か先輩に試されているのかと思った。あるいは部活に来たくなくなるくらい嫌われてしまったか。後者でないことを祈りつつ、一人で帰った。

 流石に三日続けてとなると、何かおかしいのではと疑う。

 俺はまず先輩が学校に来ているのかも知らない。先輩が三年生であることまではわかっているがクラスまではわからない。俺は先輩の安否を確かめるべく、ゲーセンから一旦高校に戻って生徒会室に向かった。


「失礼します!」


 入室するとちょうど生徒会長の白石叶が一人で書類の整理をしていた。


「どなた? 何か用?」

「二年の佐藤典明です」

「ああ、君が典明君? 沙也華(さやか)から話は聞いてるわ」


 どうやら生徒会長は先輩づてに俺のことを知っているらしい。それなら話は早い。単刀直入に話を切り出す。


「松風先輩知りませんか? 部活にも来てないんですけど」

「ああ、沙也華なら学校来てないわよ。入院してるから」

「入院? 先輩が?」


 俺は驚いて思わずオウム返ししてしまう。


「なんで入院なんか……」

「さぁ、どこか悪いから入院してるんでしょうね。私も詳しいことはよく知らないけど。でもお見舞いに行ったけど病人とはとても思えないほど元気だったわよ」

「そう、なんですか?」

「そう。だからその内復活するわ。あいつのことだもの」

「その、よければですけど病院の場所とか教えてもらってもいいですか? 俺もお見舞い、行きたいので……」


 心配ないという風な生徒会長の言葉を聞いてもなお不安で俺は入院先を聞き出そうとする。生徒会長はいいわよと承諾して病院の住所と先輩の部屋番号を教えてくれた。


「ありがとうございました!」


 俺は一礼して足早と生徒会室を去る。病院の場所はおそらく先輩の地元で俺の家からは遠く離れていたため気軽に行ける距離ではなかった。今日はもう遅いし明日はちょうど土曜日だ、明日お見舞いに行こうと俺は決意する。

 じとり、絡みつくような暑さの夏の日。それでも帰りの電車の中で汗をかいているのは夏の暑さだけが原因ではなかった。




 翌日、俺は朝一番に出かけた。電車を数本乗り継いで降りた駅から徒歩十五分程度のところにその病院はあった。立派な大学病院である。そびえたつ白い建物に俺は圧倒された。こういうところに来るのは初めてだ。病院に行ったことがないわけではないがもっと小さなところしか行ったことがない。だけに不安になった。こんな仰々しいところに入院するだなんて先輩……

 俺は病院の一階で軽く面会の手続きを済ませ、先輩が入院している305号室に向かう。扉の前で深呼吸する。駅から病院まで歩いている間に汗だくになっていたが冷房の効いた病院内でなお汗が首筋を伝う。俺はもう一回深呼吸してから扉を開けた。


「お邪魔します……先輩、ご無事ですか!」

「典明君?」


 ベッドの上で目を丸くしている先輩がいた。見た感じではいつもと変わりない。脚を骨折しているだとか目立った外傷は見当たらない。では内臓とかが悪いのだろうか?

 先輩の横には年齢を感じさせるが先輩に負けず劣らずの美人がいた。茶色い髪がウェーブがかっている髪型だが顔の感じは先輩によく似ていた。先輩のご家族だろうか……と考えているとその人から声を掛けられた。


「あなたが典明君ね。娘がいつもお世話になっています。私、沙也華の母です」


 先輩のお母さんはそう言って微笑んだ。俺はどうもこちらこそと返す。その間先輩は少しバツが悪そうにしていた。


「私はお邪魔かしらね。外で待ってるわ。後はお若い二人でゆっくり話していってね」


 おばさんはそそくさと立ち去ってしまい、部屋には俺と先輩の二人が取り残される。するといの一番に先輩は責めた。


「典明君がどうしてここに来たのかな? 私何も言ってないはずなんだけど」

「あっそれは……生徒会長から聞いて」

「叶の奴め、口が軽いんだから全く。で、何しに来たの典明君」

「そりゃお見舞いに……先輩が無事かどうか、心配で……」


 俺はつい正直に口を滑らしてしまう。言ってからしまった、と思った。先輩のことだ、からかうに決まってるぞ。


「そんなに私のことが心配なんだ典明君は。私のことで頭一杯?」

「その、部活とかも先輩がいないとだし、それに……」


 俺は慌てて言い訳を始めるが先輩はクスクス笑う。


「そんなにたいしたことじゃあないわ。検査でしばらく入院ってだけだし、それが終わればすぐ退院できると思うから。全然無事よ。良かったわね」


 それを聞いて俺は素直に良かったと思えた。てっきり大事になっていたと思っていたから、本人が否定してくれて有難かった。

 先輩は掛け布団をどかしてベッドの(ふち)に腰かける。俺と話をしようという気満々だった。


「それで私のいない間も鍛錬を怠っていなかったのでしょうね」

「ああ、うん、そこそこやってます」


 最近は先輩のことが気掛かりであまり集中できていなかったが、シューティングゲームをやるという習慣はできていた。


「大往生は」

「まだ四面……いや三面を中々抜けられず……」

「頑張りが足りないわ」

「仰る通りで。でも沙羅曼蛇は六面まで行けたのでもう少しでクリアできる……かもです」

「よしよし、四面ボスの安置をちゃんと使えているようね。その調子よ典明君」


 そこからいつものシューティングトークが始まる。こうなると部活の時間と変わりなかった。そう、今日は久々に部活をやっているようなものであった。

 楽しい時間はあっという間に過ぎていく。ひとしきり話した後俺はいつまでもおばさんを待たせているのは悪いと思って、話を切り上げ退散することにした。


「それにしても良かった。先輩がいつも通り元気で」

「だから言ったでしょ、たいしたことないって。大袈裟(おおげさ)なのよ、みんな。でもこうしてお見舞いに来てくれるならたまには病人も悪くないのかもね」


 そう言いながら先輩はどこか遠くを見つめていた。

 それから来週には学校へ行くからとゲーセンで会おうと約束をして、俺達は別れた。先輩の部屋を出て、外で待っていたおばさんに挨拶をしてから帰途につく。

 帰り道、蝉が(うるさ)く鳴いていた。そんな夏の日のこと――

 一週間も経てばあれだけ煩かった蝉も多くは息絶えてしまっていた。俺はまた駅から病院まで歩いてきていた。

 結局あれから先輩が部活に顔を出すことはなかった。まだ入院しているのだろう先輩は。だからまたお見舞いにやってきたのである。今度はお見舞いの品、りんごを(たずさ)えて。


「こんにちは典明君。あら、お見舞いの品を? 見て沙也華、典明君がりんご持ってきてくれたわ。()いてあげるからちょっと待っててね」


 おばさんは俺のりんごを受け取ると席を外し、今回も二人きりになる。先輩はいの一番に申し訳なさそうに手を合わせた。


「ごめん、典明君。約束破っちゃって」

「ああ、気にしてないからいいよ。こうして今先輩に会えたんだし」

「典明君、よくもそんな臭い台詞が吐けるわね」

「えっ」


 ああ、先輩がからかいモードに入ってしまった。俺は話題を逸らそうとシューティングゲーム絡みの報告をする。


「そうそう、沙羅曼蛇だけどクリアできました」

「あら、それは良かったわね。おめでとう典明君。これで脱初心者と言ってもいいわ」

「先輩の助言あってこそですよ」


 それは半分本当だが、正確には途中までの話だ。最終面に関してはネットで攻略を見て自主的に勉強した。その甲斐あってクリアできたと言える。

 だが俺の本命は依然として怒首領蜂大往生で、そっちはあまり進展がなかった。沙羅曼蛇とは比べ物にならないほど難易度が高いせいもあるが……頑張りたいところだ。

 それからいつものシューティングトークになる。


「典明君、次に攻略するタイトルって決めてる?」

「いや……大往生に絞りたい気持ちもあるけど、何かちょうど良さそうなのがあれば……」

「ファンタジーゾーンとかどう? 典明君の今の実力ならクリアできると思うけど……でもそういえば典明君、セガサターン版レイディアントシルバーガン手に入れたとか前に言ってなかったっけ」

「あああのめっちゃプレミアの高い奴、でも俺にはちょっと難しすぎて……武器が多すぎてわけわからんというか」

「あら、シルバーガンはどこでどの武器を使うか決まっていてパターン化すれば意外と難しくないゲームなのよ。今度私が教え……ってしばらくは……」

「りんご、用意できたわよ」


 会話を遮るようにおばさんが戻ってきた。定番のうさぎ風に皮が付いたりんごが皿の上に並べられている。それを一つ取って先輩は口に放り込む。俺も自分が持ってきたりんごだし遠慮なくいただくことにする。

 うさぎのりんごを食べ尽くすと、空になった皿を洗いにまたおばさんが退出したタイミングで、先輩はぽつりと呟いた。


「私、卒業どころか退学になるかもしれないわ」

「えっ、先輩が退学?」

「もしくは留年。出席日数が足りなくなって」


 それは暗に入院が長期化することを示していた。しかし重苦しい雰囲気になるのを嫌って俺は冗談めかして言う。


「じゃあ来年もシューティングゲーム部、二人でできますね!」

「なんで嬉しそうなのかしら典明君は」


 先輩は呆れたとばかりに半目で俺を見つめた。

 そんな夏の日はそれで終わった。

 それからも俺は休日になるとお見舞いに行った。季節は移り変わり、すっかり秋めいてきても――先輩はまだ入院していた。

 話すのはいつもシューティングゲームのことばかり。先輩は自分の病気については全く教えてくれなかった。ただ近々大きな手術を受けるらしいことをおばさんから聞かされた。十月頭頃の話だ。

 そして手術が終わって順調なら退院できるはずだった。

 しかし先輩は秋も終わりが見え始めた頃になっても、入院していた。




 それは十一月のある日だった。突然の宣告に俺は戸惑う。


「典明君、お見舞いにはもう来ないで」


 いつものように305号室に入室するなり、先輩から拒絶された。なんで、と俺は問う。


「なんでそんな、急に」

「私、来週からホスピス送りだから」

「ホスピス?」


 聞き慣れない単語を聞き返す。先輩は答える。


「緩和ケア病棟と言った方がいいのかしら、医療の進歩を待ちながら今現在はどうにもならない患者が余生を快適に過ごすために痛みや苦しみを取り除く治療を受ける場所よ」

「それってつまり……」

「ホスピス送りってことは助からないってこと」

「でも。手術したって」

「中を開けて見たけど、手遅れだったそうよ。つまりそういうことなのよ典明君」


 そんな……俺は肩を落とす。先輩は今まで病気のことを何も話してくれなかったけど、そんなに悪かっただなんて。しかし納得がいかない。だからといって俺がお見舞いに来てはいけないことには直接繋がらないのではないか。俺は追いすがる。


「でも先輩、ホスピスってところはお見舞い禁止ってわけじゃないですよね?」

「それはそうだけど……会って何になるの? 余命三か月を宣告された人間が未来ある典明君に。重荷にしかならないわよ……」

「余命、三か月」

「そう。どんなに頑張っても卒業式には出れないって。だからね典明君」


 いつも澄ました顔で華麗にシューティングゲームをプレイしていた先輩が初めて、涙ぐんでいた。だけに事の重大さをよく理解できた。


「シューティングゲーム部は今日で解散。そして私のことは忘れること。いいわね典明君」

「そんなのって……ないですよ」


 それだけは俺は断固拒否したかった。部活が終わるなんてことは、俺が先輩を忘れてのほほんと生きるなんてことだけは、絶対に。


「嫌です」

「これは部長命令よ、最後のね」


 そんなの卑怯すぎると俺は思った。部長命令なら従うしかないじゃないか。耐えきれず俺はボロボロと涙を流す。悔しくて、切なくて。先輩の顔をまともに見れない。先輩がどんな表情で俺を見つめているかもわからない。でももしかしたら、先輩も泣いてくれているのかもしれない、とちょっと期待した。しかし口調は冷たかった。


「話は終わったわ。典明君、もう帰りなさい。長居は無用よ」


 そんな、俺はまだ先輩に好きだと言えてないのに、これが今生の別れになるだなんて……しかしもう先輩は自分とは違う時間の中で生きている人になった。そんな人に告白なんてしてしまったら傷つけるだけじゃないだろうか。

 結局俺は何も言えなくなって、その場を立ち去るしかなかった。

 帰り道、普段は何とも思わない並木道の散りゆく紅葉(もみじ)が不吉に感じられて仕方なかった。

 秋ももう終わりという冷え込みだった。冬の到来を予感させる。そして冬から春になる時にはもう、先輩はいない。そう考えると恐ろしくてたまらない。

 けれどまだ会うチャンスはあるはずだ。今日で最後だと言われたがここで諦める人間ではなかった。俺は続ける人間――シューターだからな。




「沙也華の転院先?」


 後日生徒会室に詰め寄った俺を生徒会長は怪訝(けげん)な目で見た。


「聞いてどうするの」

「そりゃ勿論お見舞いに……」

「あのねぇ、私にも教えてくれなかったのよ。ぽっと出の君と違って遥かに腐れ縁の私にすらね。あの子は世界中の人を拒絶しているのよ。そっとしておいた方がいい、とは考えない?」


 確かに生徒会長の言には一理あると思ったが、だからといって諦めたくないのが俺の心情だった。だけに生徒会長ですらホスピスの場所を知らないとなるとアテが外れて困ってしまう。


「そこをなんとか……なんとかならないですか?」


 僅かでもいい、手掛かりを求めて生徒会長を頼る。すると生徒会長は渋々メモを取り出し、そこに何やら電話番号を書いて俺に渡した。


「はい、これ。沙也華のお母さんの携帯番号。上手くいけば教えてくれるかも、確証はないけど」

「ありがとうございます!」

「私が一枚噛んだことはくれぐれも沙也華には内緒だからね」

「わかってますって」


 俺はやったとばかりにメモを抱きしめ大急ぎで生徒会室を出た。

 それから携帯を取り出しメモの通りに番号を入力する。善は急げ。早速俺は電話を掛けた。


「もしもし、松風ですけど」


 いつものおばさんの声がした。俺は少し緊張して声が上ずったが答える。


「あっどうも、典明です」

「典明君? どうして私の携帯の番号がわかったの?」

「それは生徒会長が教え……」


 と言いかけて、先程の生徒会長の言葉を思い出して慌ててやめた。しかしもう伝わってしまっていた。


「叶ちゃんね。随分心配かけちゃってるみたいね」

「すみません……」

「典明君が謝ることじゃないわ。むしろこっちが謝らないと。沙也華ったら、もう学校の友達とは会わないと言い出して……」

「それなんですがおばさん、よかったら転院先を教えてくれませんか? どうしてもお見舞いに行きたいので」

「そうね……沙也華はああ言ってるけど本当は寂しいだろうし……うん、わかったわ」


 おばさんは快く承諾してくれた。ホスピスの場所を俺に教えてくれる。ざっと説明を聞いて俺は一つ質問した。


「その、本当に悪いんですか……先輩の身体」

「ええ。もう末期なの。あの子は本当にかわいそうだと思ってるわ。私達がもっと気を付けていれば、と思うと……」

「おばさんは悪くないですよ。悪い奴がいるとしたら、それは神様とかだから」

「典明君……」

「すみません、ちょっと変なこと言ってしまいましたね。その、本当にありがとうございました。必ず伺います」

「ええ、待ってるわ」


 俺は電話を切った。ともかく先輩の居所は掴んだ。これで会いに行ける。よし、と左拳を握りしめる。

 それにしても、咄嗟(とっさ)に出た発言だが神様が悪いなどと言ってしまうとは――しかし他に考えようがなかった。小悪魔的で度々俺を困らせたが根は真面目でシューティングゲームに対しては真摯(しんし)であった先輩に、何も悪いことなんてしてないはずの先輩に罰を当てるだなんて、神様の奴は底意地が悪すぎるじゃないか。

 ――なぁ神様。お前が本当に全知全能なら、先輩の一人くらい救ってみせろ。

 俺はいもしない存在に憤ってしまうほどには余裕がなかった。




 先輩の転院先は隣県のキリスト教系病院だった。宗教と病院にどう関係があるのか俺は馬鹿だからよくわからなかったが、ともかくホスピスこと緩和ケア病棟はこの病院の9Fにあった。

 俺は904号室の前で大きく息を吸う。ここに先輩がいるんだ。俺は息を吐き、ドアをノックした。


「どうぞ」


 確かに先輩の声がしてドキッとした。少し投げやりな感じがしたが臆せず俺は入室する。


「先輩、お見舞いに来ました」

「典明、君?」


 先輩は驚いて目を丸くしていた。彼女はトレードマークの長い黒髪をバッサリ切ってショートカットにしていることを除けばいつもの先輩に見えた。しかしそれは大きな違いでもあった。髪を切るなんて――彼女なりの決意の表れであった。おそらくは死へと(のぞ)む、決意の。

 先輩はすぐ目を細め、鋭い目つきで俺を糾弾(きゅうだん)する。


「典明君、先週の私の話聞いてなかった? もうお見舞いには来ないでって言ったよね、私」


 それに関しては回答を一つ用意していた。俺はその通りに言ってやる。


「そんなこと言ったって、先輩が寂しがると良くないですから」

「私が寂しがる? 冗談を言うのはほどほどにしておいた方がいいわよ典明君。さもないと……」

「さもないと?」

「いえ、特になんでもないわ。どうでもいいし。じゃあさっさとお見舞いを済ませて気が済んだら帰りなさい。私としては一分一秒でも早く帰ってもらって結構よ」


 これは先輩流の強がりだ、と俺にもわかってきた。なので居座ることにする。いつものシューティングトークをすれば機嫌も直るだろうと楽観視していた。だから俺は躊躇いなく鞄からお見舞いの品を取り出した。


「そのPSPは何?」

「ああ、手ぶらでお見舞いってのもなんなので先輩のために持ってきました。これでいつでもGダライアスやアインハンダーができますよ。ほら」


 そう言って俺は携帯型ゲーム機を手渡す。これで喜んでくれると俺は心底信じていた。だがそれは逆効果だった。

 先輩はPSPを思いっきり放り投げ、壁に叩きつけた。


「なっ、何するんだよ先輩!」

「やめなさい典明君、こんなことしないで!」


 先輩は怒りの形相(ぎょうそう)で俺を睨みつけていた。だがすぐにそっぽ向いて、別の何か、もっと大きなものか、あるいは自分自身に対して怒りを向けていた。


「ゲームなんて時間の無駄なのよ! 私の人生18年間無駄に費やしてしまった! もう取り返しがつかないわ。私まだ何も成せてない、まだ全然生きてない! 生きてないのよ」


 叫ぶ先輩。彼女のこんな激しい一面を見るのは俺には初めてのことだった。

 先輩のそれは次第に嗚咽(おえつ)へと変わっていった。


「私まだ生きてないのに……このまま死にたくない、死にたくないよぅ典明君」


 先輩はさめざめと泣いていた。俺にはどうすればいいのかもう全く何もわからなくて、ただ立ち尽くすことしかできなかった。


「先輩……」


 だがやがて、不意に言葉が出た。続く言葉がどれほど残酷かを知りながらも、一度飛び出した言葉を止めることは俺にはできなかった。


「R-TYPEは復活が華だって先輩言ってましたよね? 先輩ならどん底からでも立て直せるはずです。その実力があるはずですよ」

「あのねぇ典明君……人生に復活なんてないわ」

「そうやって諦めるんですか? 先輩はシューターだったじゃないですか!」

「いい加減に、ゲームと現実を混同するのをやめなさい!」


 先輩は声を荒げる。だが屁理屈合戦では負けない。俺はトドメの台詞を吐く。


「元はと言えば全部先輩が言ってたことじゃないですか。混同なんてしてません、ただゲームに対して真摯だったんですよ、先輩は」

「私が? やめてよ……」


 先輩は困った風に眉を八の字に曲げ、また涙を流す。


「全部馬鹿だった昔の私じゃない……本当に、ゲームなんて無駄だったんだから」


 まるで先輩が自分で自分を傷つけているみたいで見ていて辛かった。ともかく俺は画面の割れたPSPの残骸を拾いながら自分の軽率な行動を恥じた。


「このままここで一生終わりたくない……」


 先輩は泣き崩れている。続けて彼女はこんなことを口にした。


「誰でもいいからどこか遠くへ連れ出してよ……」


 その言葉を俺は聞き逃さなかった。

 その後はろくに会話にならずおばさんが先輩を(なだ)めに来たので渋々俺は帰ることにした。もう冬を感じさせる冷え込んだ帰り道、俺はずっと考えていた。

 どこか遠くへ連れ出してほしい、という先輩の願い。

 それを叶えるために俺の17年間はあったんじゃないかということを。

 そう考えると行動は早い方がいいだろうと、翌日にはプレミアソフトのレイディアントシルバーガンとPS4本体を売ってそれなりの大金を手にした。けれどまだ足りない。先輩のホスピス脱出計画にはとかく金が要ると考えた。

 そこで俺はやたらバイトに詳しい金稼ぎが趣味みたいな友人のツテを頼って日雇いのバイトを幾つかした。どれもそれなりにキツイ内容だったが、その分金は手に入った。

 ある程度金が溜まってきた段階で、俺は先輩に脱出計画について話した。最初は半信半疑だった先輩だったが俺の熱意に押されたのか、最終的には俺を信じて実行すると言ってくれた。それから俺はさらに綿密な計画を立てると予算と時期的な問題からやや後倒しになり、決行日は年も末の12月31日になった。




 12月31日。その日がやってきた。

 俺は朝一番にホスピスに向かった。904号室の扉をノックして入る。中には頬こけて前よりも痩せ細った先輩がいた。まるで枯れ木のようだ。しかし目はギラギラとして往年の輝きを取り戻していた。


「おはよう典明君。準備は」

「万端。点滴は?」

「中庭に散歩に行くって言って外してもらったわ。これでいいかしら」

「上々」


 先輩がベッドから体を起こす。俺は彼女を(かば)うように立ちながら、退室を(うなが)す。気分はちょっとしたスパイ映画だ。

 俺達は部屋を出ると人目を気にしつつそそくさとエレベーターに乗り込み、ボタンを押した。1Fへ向かってエレベーターは落ちていく。その間に俺は一着のコートを取り出して先輩に渡した。


「パジャマだと目立つし、外寒いから……」

「ありがとう典明君、今日はなんだか至れり尽くせりって感じね」

「まだ始まったばかりですよ」


 先輩がコートを羽織っている間にエレベーターは1Fに到着した。ここからが少し緊張感があるところだ。俺達は一般外来に混ざって出入口を通り抜け、誰にも(とが)められないうちに病院の敷地を出た。

 病院の外に出て一安心、というわけにはいかなかった。抜け出したことがバレたらすぐに追いかけてくるかもしれない。だから駅までは会話もなく互いに早足で並木道を歩いた。

 結果的には誰も追いかけてくることはなく、俺達は駅に辿り着いた。やっと一呼吸置いて俺は二人分の切符を買った。


「ここまでは計画通りだけど、実際どこへ向かうか決めているのかしら」


 先輩が疑問を口にしたので俺は答える。


「向かう先は東京です」

「東京?」


 先輩は少し驚いた後何か感心しているようだった。

 電車を乗り継ぎ、途中から新幹線で約三時間、そうしてやっと東京へ辿り着く。途中ポツポツと話はしたが先輩はゲームの話は意図的に避けているみたいだったので話題は少なかった。東京に着く頃、今頃病院は大騒ぎでしょうねと言ったら先輩はくすくすと笑った。心配してるだろうおばさんとかには悪い気がするが……。

 俺は長旅の途中で先輩の容体が急変することを恐れていたが、新幹線に乗っている間先輩は元気そうだったので良かった。病人の元気は必ずしも健康とは言えないのだが。

 東京駅で山手線に乗り換えて二駅、秋葉原で俺は先輩を連れて降りた。電気街ともオタク街とも称される日本のサブカルチャーの中心地こそ、この旅の終着地点であった。より正確に言えば、この街にある一点――ゲームセンターに。


「アキバ……まさか」


 流石に先輩も察していた。俺はそのまさかな場所の前まで先輩を連れてきた。

 アーケードゲームの聖地と呼ばれる伝説のゲーセン。

 無論シューティングゲームの台数もR-TYPEと怒首領蜂大往生の二台しかなかった地元のゲーセンとは比較にならない数を揃えている。その筋では有名な場所だった。


「典明君、どうして私をゲーセンなんかに連れてきたの」


 先輩は声が震えていた。俺は前もって用意しておいた回答をする。


「部活ですよ。シューティングゲーム部はまだ終わっていません。まだ先輩は卒業していないんですから」

「あのねぇ典明君……」


 俺は先輩が何か文句を言う前に半ば強引に手を取って、ゲーセンの中に引き入れた。そうできてしまうほど先輩の力が弱っていて腕も華奢(きゃしゃ)だったのは内心辛かったが。ともかく楽しんでもらおうと努めた。


「ほら先輩見てくださいあれ」

「ダライアスⅡの独自カスタム大型筐体! 噂では聞いていたけど本当に存在していたのね……」


 先輩は途端に子供のように目を輝かせ、フロアの奥にある大画面の筐体に吸い込まれていった。来る前は色々心配したがやっぱり先輩は根っこの部分は変わっていなかった。俺は物欲しそうにしている彼女を横目にダライアスⅡの筐体のコイン投入口に百円玉を二枚滑らせる。


「おっと余分にクレジットを投入しちゃいました。ダラⅡは二人プレイできますしよかったら先輩もやりませんか?」

「典明君、あなた……」


 先輩は口を尖らせて糾弾するような目つきだが俺の隣に座って2P側のレバーを確かに握った。陽気なサウンドと共にゲームが始まる。ダライアスⅡは横スクロールシューティングゲームだがモニターを二つ使った横に長い画面が特徴的でそれを生かしたダイナミックな演出と敵配置が絶妙なゲームだ。しかし難易度は高い。


「アーム、取っていいわよ」


 初心者の俺を気遣って、敵弾に当たっても三発まで耐えるバリアを張るアームという青いアイテムを取ることを勧める先輩。


「えっいいんですか?」

「私は死なないから」


 今の言葉がゲーム上じゃなくてリアルのことならどんなに力強かったか、俺は思わず泣きそうになる。だが(こら)えて先輩の指示通りアームを取得した。その代わり他のパワーアップアイテムは先輩に譲ることにした。攻めに関しても先輩に一日の長があるからだ。

 魚型のボスを軽く捻り一面はクリアする。だが二面から難しく、何しろ初見なので対応できず俺は立て続けにミスしてしまう。そしてまた素っ裸になって先輩からアームを譲られてしまった。なのに結局三面で俺はゲームオーバーになり、先輩が一人残される。

 それから先輩は孤軍奮闘していたが、戦艦大和を模したボスの激しい攻撃の前に落とされてしまった。


「すみません、序盤俺が足引っ張ったばかりに。もっとアームがあれば……」

「いいえ典明君、私の実力不足よ」

「でもダライアスシリーズで一番難しいって聞きますし、先輩は健闘した方ですよ……せっかくだし他のゲームも見ていきますか?」

「そうね、そうしましょう」


 俄然(がぜん)やる気になってきた先輩を見て俺は嬉しく思った。

 俺達は席を離れざっと周りを見て回る。するとちょっとした人だかりができているところがあったので興味本位で覗いてみた。その人の輪の中心では一つのアーケードゲームをプレイする若い女性がいた。プレイヤーの物珍しさだけで人だかりができているのではないことは、俺と先輩にはすぐにわかった。

 若い女性がプレイしていたのはバトルガレッガである。所謂(いわゆる)ランクゲーと呼ばれる縦スクロールシューティングゲームだ。ミスせずプレイしているとゲーム内のランクが上がって難易度が大幅に上昇するというシステムが備わっているが故にランクゲーだ。プレイヤーはランクを下げるためにあえて残機を潰す、というプレイスタイルを要求される。エクステンドして残機が増える度に自殺して低ランクを保ちながら少ない残機で常に緊張感のある玄人好みのゲームだった。

 そのバトルガレッガで女性はありえないスコアを叩きだしていた――全一(全国一位の略、トップスコアラーのこと)の記録に迫っているではないか。そのレバー捌きは正確で、ランク下げのタイミングも完璧に思えた。


「すごいわね……典明君」


 先輩もこのスーパープレイに舌を巻いているようだった。しばらく見入っていたが、先輩は急に人だかりを離れていったので後を追う。すると先輩は俺の方に向き直り、言った。


「典明君、百円玉貸してくれる?」

「ああ」


 俺は急いで小銭を幾つか先輩に渡す。先輩が急にやる気になったことは喜ばしかった。早速先輩はケツイ~絆地獄たち~の筐体の前に座ってコインを投入した。

 ケツイは大往生と同じく弾幕系縦スクロールシューティングゲームだ。最大の特徴は敵を接近して倒すと最大五倍のスコアアイテム、通称五箱を取得できることであった。

 先輩は画面を五箱で埋め尽くす。思いっきり稼いでいる。きっと先程のバトルガレッガのスーパープレイに触発されたに違いない。普段俺には安全第一、クリア重視でと教え聞かせてきたのに自分はこれだ。でもこういう本気の先輩を見るのは貴重な機会であった。

 しかしながら稼ぎ重視で安定を捨てたプレイだ、三面辺りで立て続けにミスすると、いきなり先輩は席を立った。そしてその場を去ろうとする。先輩が捨てゲーするだなんて、初めて見た。


「先輩、いいんですか?」


 だけに俺は思わず声を掛ける。すると先輩は少し声のトーンを落として答えた。


「時には諦めも肝心なのよ」


 そんな悲しい言葉を聞くために俺は先輩をゲーセンに連れてきたわけじゃないのに……俺はやるせなくなる。確かに先輩は前と変わってしまっていた。


「シューティングゲームは毎日やらないと上手くなれない……やっぱり今の私にはブランクがありすぎて駄目なのかも」


 弱気になる先輩。俺はキョロキョロ周りを見渡してちょうどいいゲームを見つけると、励まそうと声を掛ける。


「大丈夫ですよ、ほらあそこ、レイフォースがありますよ。あれなら先輩にもクリアできますって」

「レイフォース、ね……」


 俺は前に一度聞いたことがあった。先輩にとって至高の縦スクロールシューティングゲームはタイトー製のレイフォースだと。思い入れが強くやりこんでいるゲームならばと俺は薦めた。じゃあ一クレと先輩は百円玉を筐体に入れ、席に座る。

 レイフォースはシームレスに繋がるステージ展開と美しいBGMがプレイヤーをゲームに没入させる。そしてロックオンレーザーで敵を狙い撃ち、稼ぐ爽快感もあった。先輩は一つ一つ思い出すかのようにレバーを動かす。

 しかし久々だったからか、五面ボスの金色に輝く人型ロボット、オーディンの前で残機が尽きた。けれどもこの時の先輩は諦めなかった。再びコインを投じ、二回目のプレイをすぐさま始めた。

 今回は順調に最終面まで辿り着く。もっとも残機は残り少なくなっていたが。ラスボス前のアイテム回収地帯で先輩は一息つく。


「今の私にクリアできるかしら」

「先輩ならできますって!」


 俺は根拠のない応援しかできない。しかし先輩は落ち着き払って、ラスボスのコンヒューマンに挑む。

 流石にラスボスだけあって敵の攻撃は激しい。ここで痛恨のミス、残機ゼロの状態になってしまう。後一発当たれば終わり、緊張感で俺は汗ばむ。だが先輩に動揺の色は見えなかった。彼女は淡々と撃ち込み、そして――

 ついにコンヒューマンを撃破し、無事エンディングを迎える。敵に乗っ取られた地球を破壊するという物悲しいエンディングを。あくまで美しいBGMが悲壮感を際立たせていた。


「クリア、しましたね……」

「彼女、幸せだったのかしら」

「えっ?」

「任務は果たせたけど、母星を破壊して、自分はもうどこにも戻れない……そんな彼女は幸せだったのかなって」

「ああ……」


 先輩はゲームの主人公のことを言っていた。俺はわからないと正直に答えると、そうよねと先輩は頷いた。明滅するアーケードゲームの光に包まれて、俺達はしばし黄昏(たそがれ)た。だがやがて動き出した。


「じゃあ典明君、次はあれをやりましょうか」


 そう言って先輩が指差したのはダライアスバーストアナザークロニクルの大型専用筐体であった。俺は頷き筐体まで先輩を連れて、二人して乗り込む。

 先程のダライアスⅡの子孫とも言うべきゲームでやはり二画面が特色の横スクロールシューティングゲームだが、後続だけあって色々と進化していた。その一つがバースト機関という武器で俺はバースト機関を搭載しつつ初心者向けの機体ネクストを選択する。先輩は同じくバースト機関を搭載しながらもショットの射程が画面半分しかない近距離専用玄人向け機体のフォーミュラを選んでいた。


「先輩、ルートは?」

「光導でいきましょう」


 ダライアスシリーズ全般の特徴としてステージセレクトによるルート分岐があったが、先輩の言う光導とはここでは一番簡単なルートを指していた。そして全三面の道中からボスまで組曲光導という一つの曲が流れる特殊なルートでもあった。

 ダライアスバーストアナザークロニクルはとにかく大量の敵が襲ってくる。それを俺はバーストという細いレーザーをその場に設置し、斜めに角度調整することで敵も弾も防ぐ。設置バーストというテクニックだ。そこで先輩も設置バーストをすると二つのバーストが干渉してより強力なバーストビームを編み出した。協力プレイのなせる業である。

 そしてボス戦では敵のバーストに合わせてタイミングよくバーストボタンを押すことでより強力なバーストを放つことができるカウンターバーストというテクニックを先輩は披露してくれた。俺にはまだそれは真似できない。華麗なプレイに見惚れる。

 三面くらいから俺は慣れてきて設置バーストではなく通常バーストで敵を倒すこともし始めた。その方がスコアは稼げるからだ。先輩の見様見真似だが。そんなプレイスタイルをわかってきたじゃないと先輩は少し褒めてくれた。

 最後の三面のボス、ダイオウグソクムシ型戦艦バイオレントルーラーが広い画面をめいいっぱい使って暴れ回る。俺のネクストはもうアームがなくなって危うかったが、先輩がカウンターバーストでこれを仕留めてくれた。

 ふと、先輩の肩が俺の肩に当たる。先輩は寄りかかってきた。先輩の体温を感じる。つい俺はどぎまぎしてしまう。


「典明君は……感じる?」

「えっ何を」

「ボディソニック。お尻、震えるでしょ」


 ボディソニックとは筐体のシートの振動機能のことだった。確かに音に合わせてよく響いていた。でもてっきり違うことかと思ったので少々面食らった。すると先輩はからかいモードに入っていた。


「今、もしかしてえっちなこと想像した? だとしたら正直に言うのよ、典明君」

「なっ、そんなわけないじゃないですか!」

「本当かしら? かしら」


 全くこの人は、油断も隙もない。


「もう、今日は一日遊び倒しますよ! いいですね」

「異論はないわ」


 それからも俺達は様々なシューティングゲームをプレイした。一通りやった後ゲーセンを出た時にはもう、空が赤くなっていた。


「はーやったやった」


 先輩は大きく伸びをしながら言った。俺はすかさず尋ねる。


「久々の部活、楽しかったですか?」

「楽しかった。私……やっぱりシューティングゲームが好きなんだなって。無駄な時間だってわかってるのに……」

「無駄なんかじゃないんですよ。先輩がシューティングゲームに捧げた情熱は本物なんですから。それがサッカーや野球や将棋と何が違うんです? 何も違わないじゃないですか」

「そう、なのかしら……」

「そうですって! 先輩の18年間は無駄じゃない。普通の人は何本シューティングゲームをクリアできます? 先輩はその分高みに到達したんですよ。それに」


 俺は自然と言葉を紡ぎ出す。もう止められない。今しか言うチャンスはないのだから。


「先輩が自分を否定するようなこと言わないでほしいんです。だって俺は先輩が、先輩のことが」

「駄目、言わないで」


 先輩は俺の告白をすんでのところで止めた。


「それ以上言ったら私、自分を許せなくなる。だから言わないで。典明君、あなたは一日でも早く私のことなんか忘れていい人を見つけて幸せになりなさい」

「先輩……そんなこと、言わないでくださいよ……」


 告白する前に拒絶されて俺は悲しくなる。だが先輩は追い討ちをかけるように言った。


「……私達が会うのもこの旅で最後にしましょう」

「そんな! それはどうしてですか!?」

「来年になったら点滴が変わるから」

「点滴?」

「強力な薬が入った奴にね。その点滴を受けると痛みが消える代わりに昏睡(こんすい)状態に陥って自分が自分でなくなってしまう。そんな姿を典明君にはとても見せられないわ。あなたの思い出の中の私は、最後まで私のままでいたいもの」

「先輩……」


 決して先輩の病状が良くないのは知っていた。今日みたいに動ける時間がそう長くないことも――だけど改めて先輩の口から語られるとショックだった。

 この旅で最後、だなんて。旅の目的はほぼ達成した。後はもう帰るだけじゃないか。もうすぐ今日は終わって、来年になってしまう。先輩が先輩でなくなってしまう、なんて――

 告白はできなかった。もうそれは仕方がない。それでも言い残しはないか、俺は頭の中で必死に言葉を集める。そして宣言した。


「一つだけ言わせてください。俺はシューティングゲームが好きです。一生好きです。これを教えてくれた先輩のことは忘れません」

「そう、続けるのね。シューティングゲーム部を」


 先輩ははにかんでみせた。こうしてシューティングゲーム部の魂は先輩から俺に受け継がれる。


「シューターの意地にかけて、大往生をクリアしてみせますよ」

「そう、頑張ってね。期待してるわ」


 それは先輩と交わした最後の約束になった。

 俺は一泊する用意もしていたが先輩は十分満足したと言ったので帰りの新幹線に乗り込んだ。長距離を高速で走る新幹線の中で、先輩は疲れて眠っていた。

 もう先輩と過ごす時間がないのに――俺は焦燥感に駆られながらも先輩を起こすことだけはしなかった。彼女は病人なのだ。いつ倒れてもおかしくない。体力を回復させてやらねばならないということくらいわかっていた。

 けれど先輩の寝顔を眺めているとどうしようもなくやるせなくなってくる。そのあどけない顔がもうすぐこの世から消え去ってしまうという事実が嘘ならどんなに良いかと思った。彼女のためにもっとしてやれることがあったかもしれない。それがどんなものかわかればいいのに、今すぐしてみせるのに。

 新幹線を降りて普通電車に乗り換える時に仕方なく先輩を起こすと、それからは車内でいつものシューティングトークを少しした。最後だから、と変に意識した会話を先輩は避けようとしていたのかもしれない。そうしているうちに病院の最寄り駅に着いてしまった。

 駅のホームから改札を通って外に出ると真っ暗闇だった。真夜中だから当然ではあるが。

 ここで解散しようと先輩は言い出した。俺はまだ一緒にいたくて異議を唱える。


「いや、ホスピスまで送っていくよ」

「そんなことしたら典明君の終電、なくなっちゃうでしょ」

「確かにそうだけど……」

「私は典明君の人生も大切にしてほしいのよ。わかってくれるわよね?」


 先輩からそういう風に言われると呑むしかない俺だった。先輩の気遣いをないがしろにできない。でも――

 俺は未練がましく見つめるが、先輩は外へ外へと歩きだし、両手を広げてくるりと(ひるがえ)すと、俺を見て諭すように言った。


「私はいくけど、泣かないでね。なんてことはないから。それじゃあさよなら、典明君」


 そしてまた前を向いて歩きだし、夜の闇に溶け込んで消えた。俺は先輩に言われて初めて自分が涙を流していることに気付いた。

 凍えるような冬の夜。帰宅した俺は実感もなく新年を迎えた。先輩のいない新しい世界を。




 そして春の到来を待たずして先輩――松風沙也華はこの世を去った。




 先輩の葬式の後、終業式があって春休みに突入し、それもあっという間に終わって俺は三年になった。

 シューティングゲーム部に新入部員は入ってこず、表向きには廃部になったが構わなかった。俺は最寄りの駅前のゲーセンに籠って怒首領蜂大往生をやり続けた。先輩への手向(たむ)けにクリアしようと。

 しかし問題が起きた。そのゲーセンが経営難から閉店してしまったのだ。俺は慌てて入手困難になっていたPS2版怒首領蜂大往生を探し求め、なんとかこれを手に入れ攻略を再開した。

 しかし高校を卒業する頃になっても大往生をクリアすることは叶わなかった。けれど俺は諦めず大学生になっても、就職しても大往生をプレイし続けた。それしかできることがないと思ったからだ。

 そしてシューティングゲームを始めてから十年が経ってようやく、俺は大往生を一周クリアした。エクスイが暴走して主人公を殺そうとするという、決して報われない悲しいエンディングが流れる。これが見たかったがために俺は十年やり続けたのだろうか。

 正直何度も自分の限界を感じやめたくなった。それでもまたコントローラーを握っていた。それも自分がシューティングゲーム部の部員だったから。続ける人間でありたいと願ったから。でもそれがようやく終わった気がした。あの部活の時間が終わって、俺はやっと先輩という呪縛から解き放たれたように感じた。

 さて、これからの人生、どうしようか――俺はふと呟く。


「次はケツイかな……」


 シューティングゲーム部は終わっても、どうやら俺は魂までシューターになってしまっていたらしい。自分で苦笑いする。

 先輩が今の俺を見たらどう思うだろうか。褒めてくれるだろうか。それともからかうのだろうか。あるいは――

 笑ってくれるだろうか。

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[良い点] 泣けます。 あー美しいシューティングゲーム精神。 愛ってなんだろう。人とのつながりって恋愛だけじゃないよね。葛藤も行動力も最高です。 紛れもなくニッチなんですが、刺さる世代には紛れもなく刺…
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