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博士と冬を探す少女

作者: 車馬超
掲載日:2021/01/09

 エス氏(し)はとても頭(あたま)のいい博士(はかせ)だった。

 だから町(まち)の人(ひと)たちは何(なに)か悩(なや)みがあると彼(かれ)の元(もと)へ行(い)き相談(そうだん)するのだ。

 ある日(ひ)、町内(ちょうない)に住(す)む男(おとこ)の人(ひと)が訪(たず)ねてきました


「博士(はかせ)、靴(くつ)を片方(かたほう)落(お)としてしまいました」

「あはは、それは簡単(かんたん)だ……残(のこ)った靴(くつ)をそこの鏡(かがみ)に映(うつ)したまえ」

「確(たし)かに鏡(かがみ)に映(うつ)った靴(くつ)は反対(はんたい)向(む)きに……無(な)くなったのと同(おな)じ靴(くつ)になりましたが……」

「そうしたら下(した)についている引(ひ)き出(だ)しを開(あ)けてごらん」

「あっ!? 鏡(かがみ)に映(うつ)した靴(くつ)ができあがってるっ!! ありがとう博士(はかせ)っ!!」


 男(おとこ)は感謝(かんしゃ)して帰(かえ)って行(い)きました。

 博士(はかせ)は満足(まんぞく)そうにうなずくと、新(あたら)しい研究(けんきゅう)を続(つづ)けます。

 次(つぎ)の日(ひ)は女(おんな)の人(ひと)がやってきました。


「博士(はかせ)、私(わたし)の旦那(だんな)がお酒(さけ)を飲(の)みに行(い)ったまま帰(かえ)ってきません」

「あはは、それも簡単(かんたん)だ……そこの鏡(かがみ)の下(した)にある箱(はこ)に何(なに)かご主人(しゅじん)の身(み)に着(つ)けていたものを入(い)れてごらん」

「はい……あぁっ!! 鏡(かがみ)の中(なか)の景色(けしき)が変(か)わりましたっ!!」

「ご主人(しゅじん)の匂(にお)いなどを読(よ)み取(と)って、その日(ひ)のご主人(しゅじん)が動(うご)いた景色(けしき)をまるで犬(いぬ)が追(お)いかけるように見(み)せてくれるのです」

「いました、こんなところで寝(ね)ているなんて恥(は)ずかしいわ……ありがとうございます博士(はかせ)」


 女(おんな)の人(ひと)は感謝(かんしゃ)して帰(かえ)って行(い)きます。

 博士(はかせ)は満足(まんぞく)そうにうなずくと、新(あたら)しい研究(けんきゅう)を続(つづ)けます。

 次(つぎ)の日(ひ)はお年寄(としよ)りがやってきました。


「ふが……ふががぁ……ふがぁ……」

「あはは、簡単(かんたん)簡単(かんたん)……そこの鳥(とり)かごに入れてある機械(きかい)の鳥(とり)を肩(かた)に乗(の)せてみてください」

「ふがふがぁ……」

『私(わたし)の入(い)れ歯(ば)が無(な)くなってしまったのです、どこにあるかわかりませんか?』

「その鳥(とり)はどんな言葉(ことば)もわかりやすくしてくれるのです……それでしたらその鳥(とり)を連(つ)れていくといい、そして探(さが)し物(もの)を思(おも)い浮(う)かべればその場所(ばしょ)に飛(と)んで行(い)ってくれますよ」


 博士(はかせ)の言葉(ことば)に、お年寄(としよ)りは感謝(かんしゃ)して帰(かえ)って行(い)きます。

 博士(はかせ)は満足(まんぞく)そうにうなずくと、新(あたら)しい研究(けんきゅう)を続(つづ)けます。

 次(つぎ)の日(ひ)は若者(わかもの)がやってきました。


「博士(はかせ)、もうじきクリスマスだというのに僕(ぼく)には一緒(いっしょ)に過(す)ごす彼女(かのじょ)が居(い)ないのです」

「あはは、簡単(かんたん)な話(はなし)じゃないか……そこのドアを開(ひら)いてみたまえ」

「ああっ!? ど、ドアの向(む)こうで可愛(かわい)らしい女性(じょせい)が僕(ぼく)に向(む)かって微笑(ほほえ)んでくれていますっ!!」

「ドアノブが意識(いしき)を読(よ)み取(と)って、君(きみ)の望(のぞ)む女性(じょせい)が居(い)る世界(せかい)へとつなげてくれるのだよ」

「ありがとう博士(はかせ)っ!! 僕(ぼく)はこの世界(せかい)で新(あたら)しい人生(じんせい)を生(い)きてみますっ!!」


 若者(わかもの)は感謝(かんしゃ)して勢(いきお)いよくドアの中(なか)へと飛(と)び込(こ)んでいきました。

 博士(はかせ)は満足(まんぞく)そうにうなずくと、新(あたら)しい研究(けんきゅう)を続(つづ)けます。

 次(つぎ)の日(ひ)は少女(しょうじょ)がやってきました。


「博士(はかせ)、私(わたし)ね冬(ふゆ)を探(さが)しているの……どこにあるか知(し)らないかしら?」

「あはは、簡単(かんたん)だとも……そこの玩具(おもちゃ)のピストルを空(そら)に向(む)かって打(う)ってごらん」

「あら、空(そら)が急(きゅう)に暗(くら)くなったわ……まあ雪(ゆき)だわっ!!」

「この雪(ゆき)はしばらく降(ふ)り続(つづ)くのだよ、そうすればまさに一面(いちめん)雪景色(ゆきげしき)だ」

「だけどそれって冬(ふゆ)なのかしら?」


 少女(しょうじょ)の疑問(ぎもん)の声(こえ)を聞(き)いて博士(はかせ)の手(て)が止(と)まります。


「ふむ、簡単(かんたん)に冬(ふゆ)と言(い)えば雪(ゆき)だとイメージしてしまったが……なるほど確(たし)かに別(べつ)の季節(きせつ)でも降(ふ)らないとは言(い)い切(き)れないなぁ」

「じゃあやっぱりこれは冬(ふゆ)じゃないのね……博士(はかせ)、冬(ふゆ)ってどこにあるのかしら?」

「むむむ、これは困(こま)ったぞ」


 博士(はかせ)は難(むずか)しい顔(かお)をして悩(なや)みました。

 今(いま)までどんな相談(そうだん)も解決(かいけつ)してきた博士(はかせ)にとって初(はじ)めてのことでした。


「ごめんなさい、難(むずか)しいことを聞(き)いてしまって……自分(じぶん)で考(かんが)えてみますわ」

「いやいや、待(ま)ちたまえ待(ま)ちたまえ……私(わたし)が分(わ)からないことを君(きみ)のような子供(こども)がわかるとは思(おも)えないのだ」

「じゃあどうしたらいいのかしら?」

「また明日(あした)来(き)たまえ、それまでにはこの私(わたし)が答(こた)えを出(だ)しておくとも」

「わかったわ、じゃあ博士(はかせ)また明日(あした)」


 少女(しょうじょ)は足取(あしど)りも軽(かる)く帰(かえ)って行(い)きました。

 しかし博士(はかせ)はそれを見(み)る余裕(よゆう)もなく、研究(けんきゅう)も放(ほう)り出(だ)して必死(ひっし)に考(かんが)えます。


「冬(ふゆ)……冬(ふゆ)とは何(なん)だ?」


 分厚(ぶあつ)い本(ほん)をめくり、冬(ふゆ)について調(しら)べます。


「冬(ふゆ)は季節(きせつ)……冬(ふゆ)は寒(さむ)い……冬(ふゆ)は夜(よる)が長(なが)い……冬(ふゆ)は……」


 博士(はかせ)はあらゆる本(ほん)や資料(しりょう)が揃(そろ)っている室内(しつない)を調(しら)べて回(まわ)ります。

 博士(はかせ)はあらゆる問題(もんだい)を解決(かいけつ)できる優秀(ゆうしゅう)な頭(あたま)で時間(じかん)をかけて考(かんが)えました。 

 だけど何(なに)も思(おも)いつくことができません。


「おかしいなぁ、この場所(ばしょ)にはあらゆる知恵(ちえ)と知識(ちしき)が揃(そろ)っているというのにどうしてわからないのだろうか?」


 今(いま)まで博士(はかせ)はどんな悩(なや)みもこの場(ば)で解決(かいけつ)してきたのです。

 だからこのような時(とき)、他(ほか)にどうすればいいのかわからないのです。

 本(ほん)をめくり資料(しりょう)をあさり頭(あたま)を捻(ひね)り、難(むずか)しい数式(すうしき)を書(か)き並(なら)べて……それでも答(こた)えを出(だ)すことはできませんでした。


 そうしているうちに次(つぎ)の日(ひ)になり、約束(やくそく)通(どお)り少女(しょうじょ)がやってきました。


「博士(はかせ)、私(わたし)ね冬(ふゆ)を探(さが)していたの……」

「すまないがこれはとても難(むずか)しい問題(もんだい)なのだ……だがもう少(すこ)しだけ時間(じかん)をくれればきっと答(こた)えを見(み)つけてみせるとも」

「あら博士(はかせ)まだ冬(ふゆ)を見(み)つけてなかったの? 私(わたし)はもう見(み)つけたわよ」


 嬉(うれ)しそうに笑(わら)う少女(しょうじょ)の言葉(ことば)を聞(き)いて、博士(はかせ)はとても驚(おどろ)きました。


「おお、なんということだっ!! 私があらゆる手(て)を尽(つ)くして見(み)つけられなかった答(こた)えを一体(いったい)どうやって見(み)つけたというんだい?」

「それはね博士(はかせ)、こっちへ来(き)てちょうだい」


 博士(はかせ)は少女(しょうじょ)に言(い)われるがままに外(そと)へとついて行(い)きます。

 そして一歩(いっぽ)二歩(にほ)と歩(ある)いたところで、少女(しょうじょ)は足(あし)を止(と)めて振(ふ)り返(かえ)ります。


「どうかしら博士(はかせ)、わかったかしら?」

「少(すこ)し待(ま)ってくれないか、君(きみ)が分(わ)かったのならば私(わたし)にもわかるはずだ……ううん……」


 博士(はかせ)はその場(ば)で考(かんが)えようとしますが、風(かぜ)が寒(さむ)くてとてもそれどころではありません。


「いかんいかん、こんなに寒(さむ)くてはとても分(わ)からない……一度(いちど)部屋(へや)に戻(もど)って考(かんが)えようじゃないか」

「あら、それじゃあ駄目(だめ)よ博士(はかせ)……じゃあもう少(すこ)し歩(ある)きましょう」


 少女(しょうじょ)にそう言(い)われると博士(はかせ)はついていくしかありません。

 雪(ゆき)が積(つ)もった博士(はかせ)の庭(にわ)をぐるりぐるりと回(まわ)る少女(しょうじょ)、その後(あと)を博士(はかせ)はついて回(まわ)ります。


「さあ博士(はかせ)、これでわかったかしら?」

「ううむ、同(おな)じ場所(ばしょ)をぐるぐると回(まわ)ることが冬(ふゆ)と関係(かんけい)あるのだろうか?」


 博士(はかせ)はその場(ば)で考(かんが)えようとしますが、降(ふ)り積(つ)もった雪(ゆき)に埋(う)まった足(あし)が冷(つめ)たくてそれどころではありません。


「いかんいかん、こんなに冷(つめ)たくてはとても分(わ)からない……やはり部屋(へや)に戻(もど)って考(かんが)えるべきだ」

「あら、これでも駄目(だめ)なのね……じゃあもう少(すこし)しだけ歩(ある)かないといけないわ」


 少女(しょうじょ)にこう言(い)われてしまうと博士(はかせ)は後(あと)を追(お)いかけるしかありません。

 庭(にわ)から出(で)てしばらく歩(ある)き、ふと少女(しょうじょ)は水(みず)たまりの前(まえ)で止(と)まりました。


「さあ博士(はかせ)、あの水(みず)たまりを踏(ふ)んでみて」

「ううむ、これが冬(ふゆ)だとは思(おも)えないのだが……えいっ!!」


 博士(はかせ)が足(あし)で水(みず)たまりを踏(ふ)むと、ピキピキと表面(ひょうめん)にひび割(わ)れができました。

 余(あま)りの寒(さむ)さに凍(こお)り付(つ)いていたのです。

 その足(あし)の裏(うら)から伝(つた)わる感触(かんしょく)に、博士(はかせ)は懐(なつ)かしさを感(かん)じました。


「ううむ、私(わたし)が子供(こども)の頃(ころ)はよく冬(ふゆ)にこうして遊(あそ)んだものだ……あっ!?」

「やっとわかったかしら?」

「ああ、そうだ……これが冬(ふゆ)だったね」


 そこでようやく博士(はかせ)は気(き)が付(つ)きました。


「家(いえ)から出(で)たらとても寒(さむ)い思(おも)いをした……この寒(さむ)さが冬(ふゆ)だったのだ」

「博士(はかせ)の部屋(へや)はいつでも居心地(いごこち)がいい温度(おんど)だもの、そこに居(い)たらわからないわ」


 少女(しょうじょ)の言(い)う通(とお)り、機械(きかい)で調整(ちょうせい)された室内(しつない)にいる博士(はかせ)は温度(おんど)の違(ちが)いなどすっかり忘(わす)れていました。


「降(ふ)り積(つ)もった雪(ゆき)に足跡(あしあと)をつけて冷(つめ)たさに震(ふる)える……これもまた冬(ふゆ)だったね」

「博士(はかせ)は部屋(へや)から出(で)ないもの……閉(と)じこもっていたら気(き)づけないわ」


 少女(しょうじょ)の言(い)う通(とお)り、部屋(へや)にある本(ほん)や資料(しりょう)を読(よ)んで雪(ゆき)を降(ふ)らせる機械(きかい)を作(つく)れてもその冷(つめ)たさなどすっかり忘(わす)れていました。


「凍(こお)り付(つ)いた水(みず)たまりや霜柱(しもばしら)を踏(ふ)みつけて遊(あそ)ぶ……冬(ふゆ)を感(かん)じる遊(あそ)びだ」

「博士(はかせ)は無駄(むだ)なことはしないものね……それじゃあわからないわ」


 少女(しょうじょ)のいう通(とお)り、役(やく)に立(た)つ研究(けんきゅう)しかしてこなかった博士(はかせ)は遊(あそ)ぶということをすっかり忘(わす)れていました。


「なるほど、ようやくわかった……冬(ふゆ)とは見(み)つけるものではなくて感(かん)じるものだったのだ」

「あらまた博士(はかせ)ったら難(むずか)しいことを言(い)って……困(こま)った人(ひと)だわ」

「これはすまないね、しかし君(きみ)はなぜ冬(ふゆ)を知(し)っていながら私(わたし)に尋(たず)ねたんだい?」

「うちのパパとママが冬(ふゆ)が来(く)る冬(ふゆ)が来(く)るというから、どこまで来(き)ているか気(き)になったのよ」

「なるほど、そう言(い)うことだったのか」


 博士(はかせ)が納得(なっとく)すると、少女(しょうじょ)は満足(まんぞく)そうにうなずいて立(た)ち去(さ)って行(い)きました。

 それを見送(みおく)った博士(はかせ)もまた満足(まんぞく)そうにうなずいて自宅(じたく)へと戻(もど)っていくのでした。

 その途中(とちゅう)、博士(はかせ)は凍(こお)り付(つ)いた水(みず)たまりを見(み)つけては割(わ)っていき降(ふ)り積(つ)もる雪(ゆき)には足跡(あしあと)をつけて回(まわ)りました。


「部屋(へや)の中(なか)でいくら本(ほん)や資料(しりょう)を読(よ)んでもどれだけ時間(じかん)をかけて考(かんが)えても、この感触(かんしょく)を知(し)ることはできないだろうなぁ」


 次(つぎ)の日(ひ)から博士(はかせ)は、何(なに)か悩(なや)み事(ごと)をするときは外(そと)を出歩(である)くようになりました。

 すると不思議(ふしぎ)なことに部屋(へや)に閉(と)じこもって本(ほん)や資料(しりょう)を読(よ)んでいた時(とき)には気(き)づかなかった方法(ほうほう)を見(み)つけることができるのです。

 おかげで博士(はかせ)の研究(けんきゅう)はもっと素晴(すば)らしいものになり、そんな博士(はかせ)に助(たす)けてもらおうとより多(おお)くの人(ひと)が訪(たず)ねてくるようになりました。


 そして今日(きょう)も博士(はかせ)のところに人(ひと)がやってきました。


「博士(はかせ)、私(わたし)ね春(はる)を探(さが)しているの……どこにあるか知(し)らないかしら?」

「あはは、簡単(かんたん)だとも……なあにちょっと外(そと)に出(で)て探(さが)せばすぐに見(み)つかるとも」

「それもそうね、じゃあ博士(はかせ)……一緒(いっしょ)に探(さが)してくれるかしら?」

「もちろんだとも」


 博士(はかせ)は満足(まんぞく)そうにうなずくと、研究(けんきゅう)の手(て)を止(と)めて少女(しょうじょ)と共(とも)に春(はる)を探(さが)しに外(そと)へと出(で)かけていくのでした。

おまけ


「博士、私ねサンタクロースをさがしているの……一緒に探してくれる?」

「ううむ、これは難しい問題だ……もちろん協力するとも」


「博士、私ね白馬に乗った王子様を探しているの……一緒に探してくれる?」

「ううむ、これは難しい問題だ……もちろん協力するとも」


「博士、私ね素敵な旦那様を探しているの……一緒になってくれる?」

「ううむ、これは難しい問題だ……もちろん協力する……うむ?」

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― 新着の感想 ―
[一言] >「博士、私ね素敵な旦那様を探しているの……一緒になってくれる?」 博士の見た目は書かれていないのに、わたくし、髭の生えた白髪のじいちゃんだろうと思っていたのです。 もしかして、博士、意外と…
[一言] おまけが素晴らしい。頭でっかちになってはダメという教訓も含めて楽しく読ませていただきました。読んだ後に心が暖かくなるお話でした。
[一言] なんでもできる博士とあどけない少女の問答が面白くて、夢中で読みました。 少女は頭でっかちになってしまった博士のために、天から遣わされた天使かと思っておりましたら、まさかの! 後書きの甘さに…
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