第52話 研究者は面倒臭げに少し種を明かす
剛剣さんは渋く森の中へと消えたけど、影法師さんから説明を求められたロイフェルトはあーだこーだと渋々説明し始める。
グルエスタの後ろ姿が森の奥へと消えた所で、カミーラがロイフェルトに向き直る。
「私としては、どの様な手段を用いたのか、確認しておきたい所なんですが………」
「えー………」
カミーラのその言葉に、あからさまにテンションを下降させるロイフェルト。
「他のレギオンが同じ手段を取らないとも限らないし、その時の対策を練る為にも、ある程度は話しておいた方が良いのでは?」
そう提案したのは一年五席で一年のリーダー『万能』ことナーヴァ・フォン・スィーダベックだ。
ナーヴァは、スヴェンの友人の一人で能力主義的な思考を持っていた為、平民階級であるロイフェルトに対しても変な偏見を持っていないのだが、今まで殆どロイフェルトと関わることが無かったので、実際に言葉をかわす機会がなかった人物だ。
「わたくしとしても、ロイさんには話して欲しい所なのですが?」
二人の言葉に追随するように、ミナエルもそう希望を述べる。
「はっ、タダで他人の手の内知ろうってのは盗賊のやり口じゃないの?」
「分かっております。これで如何です?」
憎まれ口を叩くロイフェルトに、間髪入れずにそうミナエルが差し出したのはひと欠片の魔石だ。
「ヒポグリフの魔石の欠片ですわ」
錬金術の素材のひとつとしては有り触れてはいるのだが、貧乏人であるロイフェルトにとっては高価な素材のひとつである。施しを嫌がるロイフェルトではあったが、ある意味この程度と言えるこの素材であれば、受け取る事も吝かではない。
「うぐぐ………やむを得まい………」
血の涙でも滲みかねないような形相で頷くロイフェルトを見ながら、トゥアンはミナエルに耳打ちを入れる。
『みみみミナエル先輩も流石にロイさんの扱いに慣れてきましたね』
『当然ですわ』
その二人のやり取りを知ってか知らずか、ロイフェルトはため息を吐きながら答え始める。
「ただ、ヒントだけだ。全部を教えるつもりはないからね?」
「それで構いませんわ。技は教わるのではなく盗むものだと言うのがあなたの持論でしたわね」
「そーゆーこと。んで、何が聞きたいの?」
「正直全てを洗いざらい話して頂きたいところですが、差し当たってはどうやって彼等の探知魔法の網目を潜り抜けたのかを聞いておきたいですわ」
「別に、理屈としては難し事をしてるわけじゃないよ。一般的な探知魔法ってのは、マナの大きさやなんかで判断するんでしょ?」
「そうですわね」
「俺はマナを偽って、自然に溶け込んだだけさ」
「っ?! そういう事ですか………」
「なるほど………」
「確かに彼のマナ操作術なら……」
ロイフェルトの一言で大凡を理解したメンバーも数人いたが、大部分のメンバーは理解出来ずに脳裏を???が埋め尽くす。
「何言ってんのか分かんねぇよ! ハッキリ答えやがれ!」
「やだよ、面倒臭い」
怒鳴り上げるドラグに対し、うんざりした様子を隠そうともせず、ロイフェルトはそう答える。
「ヒントは言ったんだ。後は自分で考えろ。その頭は飾りか? 魔導学園の生徒なら、出されたヒントを元に答えを導き出すくらいしてみせろ。もう既に答えに行き着いてる人間もいるんだし」
「………んだとテメェ………自分より上位の存在に対してその口の利き方はなんだ!!」
「上位だろうが何だろうがそんな事、俺が知るか。いちいち一から十まで手取り足取り教えてやらにゃ出来んのかい………つーか出来ないから今回お宅ら俺との勝負に負けたんだよね」
「テメ………」
「どういう事ですか?」
また激高しかけたドラグを遮り、今度はカミーラがそう尋ねる。
「そのままだよ。考えようとしないから、俺の術中にハマったんだ」
「考えようとしないから………」
「そう。魔法が使えない俺がどうやって逃げ果せるつもりなのか、始まる前に考えた人間はこの中に何人いるの?」
「魔法が使えない無能者がどんな手段を取るかなんて考えるだけ無駄だろうが!」
「だから足元を掬われたんだろ? 対象がどんな人間かなんてこの際どうでもいい。考えるべきはは、魔法が使えないという前提で、対象がどうやれば逃げ果せる事が出来るのか、もっと真剣に考えるべきはだったんだ」
「何度も言わせるな無能者が! 平民風情が貴族に対して………グガッ……」
「黙れドラグ………これ以上話の腰を折るようならこのまま寝てもらう事にするぞ」
カミーラによる背筋が凍りつきそうな冷たい視線と声色がその場の空気を一瞬にして凍り付かせる。更にいつの間に術を発動したのか、彼女の足元から影が伸び、ドラグの身体を締め付け物理的に抑え込んでいた。
「御免なさい、ロイフェルト君。話しを続けて下さい」
そう促すカミーラの様子に、三年参席の実力を垣間見たロイフェルトは、くわばらくわばらと心の奥で唱えながら軽く頷き話を続ける。
「………続けるもなにもそのまんまだよ。俺がどうやって逃げ果せるつもりなのかを考え続けて、一つ一つ可能性を潰して行くべきだろ? 本当に俺がそれをやれるかやれないかはこの際二の次だ」
「………確かに、彼等は………いえ、私も含めて、貴方の事を良く知らないメンバーは、貴方が魔法を使えないという事実に囚われて、貴方が如何やって逃げ果すつもりなのかを考えようともしなかった………」
「それじゃあ、俺からしたら逃げてくれって言われてるようなもんだよ」
両手を広げ、肩を竦めるロイフェルトの仕草に、悔しげな表情を浮かべる一同。
「そして実際逃げ切った訳ですね……」
「ま、まぁ、ろろろロイさんからしたら、いい一回みんなの前から完全に消える事ができたら、あああ後はやりたい放題ででで出来ますもんぐぎゃ!」
セリフの途中で、ロイフェルトが苦々しげにトゥアンの頭に拳骨を落とす。
「んったく………お前は口が軽すぎだ」
「いいい痛いですぅ………ででででも、いい今の拳骨からも、滲み出る親しみが………げへげへげへ………」
トゥアンの様子に気色の悪さを感じつつも、構ったら負けだと悟り、ミナエルは敢えて無表情に視線を外してロイフェルトに向き直る。
「どういう意味ですの?」
その問い掛けの意図を悟ったロイフェルトは、自分もそれに倣い、トゥアンから視線を逸してその問にどう答えたもんかと一瞬考え込む仕草を見せる。
しかし考えるのが面倒になったのか、肩を竦めて答え始めた。
「隠れんぼで勝つのに一番良い方法は何だと思う?」
その問い掛けに、ミナエルは顎に手を当て小首を傾げて一瞬考え込む。
「………痕跡を極力消す事でしょうか?」
「いんや、こっちが先に鬼を見つける事だよ。鬼の居場所が特定できれば、後は気付かれないようにこっそり付いていけばいいだけだ」
「本来は、それが………気付かれないように付いていくという事が一番難しいものだと思いますが………」
「そう? こいつ等が魔法で俺の居場所を特定しようとしていたのも、目印を付けようとしていたのもすぐに分かったし、それが分かっていれば、対策なんていくらでも思い付くでしょ?」
その台詞に探索組一同は再び悔しげに下を向く。
「後は魔法以外で俺を見つけようとしてる奴らを想定しながら、気配を消しつつ後を付いていけば良い」
「目印はどうやって外したのですか?」
「外したんじゃないよ。初めから俺に目印出来てなかっただけ」
その言葉に、目印を付けた本人であるドラグが怒鳴り上げようとしたが、カミーラの影魔法に捕らえられているのでモゴモゴと言葉にならない。
それを見て、ため息を吐きながら、カミーラが代わりに問い掛ける。
「………ああ見えてドラグはそれなりに優れた魔術師です。そう簡単に魔法を失敗するとは思えないのですが?」
「それに関しては、術師としての力量の問題じゃない………とだけ言っておくよ」
「………分かりました。確かに、貴方の能力をなんの見返りも無く教えろと言うのは虫が良すぎますね」
「そー言うこと。そもそも今回のあんた等の負けの要因は、俺の能力だけが要因じゃないけどね」
「どういう事ですか?」
「俺からすれば、俺一人を探し出すのにあの探知魔法を使った事がそもそも間違いだと思うんだけど」
「あの魔法は、軍でも使用されているもので、公開されてる術式の中では最新のものですが?」
「高性能過ぎて、普通の人間には扱いかねる術式なんだよ。人間の脳のキャパシティを超える情報量でしょあれ」
「魔法を使えない筈のロイフェルト君が何故そこまで断言できるのか、分かりかねるのですが………」
眉を顰めてそう疑問を呈するカミーラに、ロイフェルトは事も無げに答える。
「俺、使えないだけで、神代文字も神聖言語も、国内で公開されてる内容は全て理解してるもの。術式解析すれば、その術の大凡の性能は想像つくだろ? 普通だよ普通」
「ろろロイさん、ききき基礎魔法学の筆記試験はののの軒並み満点ですもんね。ででででも、それだけでじゅじゅ術式を解析したりせせせ性能が想像ついたりするのはふふふ普通じゃないです」
「トゥアンさんの仰る通りですわ。それに、今何気に聞き流しそうになりましたが『学園で』ではなく『国内で』と断りを入れたあたり、もう既に筆記に関してはこの学園で学べる内容は全て網羅されていらっしゃるという事ですわね? 学園一年目にしてこれは異常です」
「んなこたないよ。俺は実技が全くダメだからその原因を探る為に、神代文字と神聖言語を研究してたってだけ。まぁんなこたぁ如何でもいいよ。さっきの探索魔法の話だけど、あれだと術式が高性能でも、使う人間の力量で、情報を処理しきれないんだ」
「と言う事は、結構我々の力量不足と言う事ですか」
「いや、あの探索魔法を使いこなせる人間なんて、軍の中にもひと握りしか居ないんじゃない? 通常は色んな探索方法を組み合わせるんだよ」
「色んな方法?」
「………トゥアン、君なら如何する?」
「ああああたしですか? あ、あたしなら………に、匂いで見つけ出します………ゲヘッゲヘッゲヘッ………」
「なるほど………そいつで今まで俺を見付けてたのか………」
「はっ?! おおお思わず種明かししちゃいました! で、ですが、どんなに匂いを誤魔化しても、ああああたしがロイさんの匂いを違える事はありません! どどどんなに離れていても、ああああたしからは逃れられないのです! グヘヘヘへ………」
一同から気色悪げに見られてもどこ吹く風のトゥアンは、ワキワキと指を動かしながらキラリと目を光らせ、完全に獲物に狙いを定めた狩人と化している。
取り敢えず無視しとこうと結論付け、カミーラに向き直るロイフェルト。
「こいつのは極端すぎて参考にならないかもしれないけど、要するに探知魔法以外の方法を織り交ぜて探索すればいいんだよ。現にこの中で一人だけ俺の気配に気付きかけた奴がいたしね」
そう言ってロイフェルトが視線を向けた先には、ひょろ体型の下級貴族の生徒が一人。
「えっ?! 俺?!」
「そうアンタ。あの時………目印を擦り付けた鹿の所で、違和感かんじて辺り見渡してたろ?」
「あ、あれを見てたのか?! ほ、本当に俺達の後を付いてきてたんだな………た、確かに違和感をかんじたけど………結局は何も無いと結論付けたぞ、俺は」
「その違和感を探り続ければ、もしかしたら俺の気配の一部を捉えることができたかもね」
「そんな………他の成績上位者でも見付けられなかった標的を、この俺が………」
「成績云々魔力量云々の話じゃないんだよ、探索・探知に必要なのは。どちらかと言うと、優れた魔法式じゃなく勘と経験が必要な部類の技術だ。アンタもしかして、森での活動に慣れてるんじゃないの?」
「あ、ああ。俺の生まれ故郷には面積の広い深い森が有るからな。よくその森で訓練をしていた」
「それの繰り返しが経験を積むって事だよ。なにも机に齧り付いて研究するだけが勉強じゃない。探知魔法も、もっと条件を絞って、後は個人の勘と経験を上手く噛み合わせれば、現存する探知魔法より簡単な術式で、より効率的な探知魔法が造れるよ」
ロイフェルトの言葉に、その生徒は一縷の光を見たかのように目を輝かせる。
「魔法は使いこなせなければ意味が無い。身の丈に合わない高度な魔法を無理に使うより、自分の能力に合わせて使い易くマイナーダウンした方が、結果として強力な魔法になると言いたい訳ですね」
「さぁね。魔法が使えない俺じゃ、これ以上どうこう言えないね。あとは自分達で解釈すればいいさ」
そう言って肩を竦めるロイフェルトであったが、カミーラの言葉は、魔法至上主義の一部の高位貴族達には眉を顰められたものの、少ない魔力量の下級貴族達には目を覚まさせる一言になったようだ。
目印を擦り付けた時に馬の近くにいた鹿にしたのには、ロイフェルトがシャレを効かせたためですが、この世界の馬鹿という言葉に馬と鹿という言葉は関係ないので誰も気づかなかったという落ち。
ロイフェルトは途中で気付いて心の中で赤面しているというなんの役にも立たない裏設定があります。
あと、今回の話しの締めが決まらずに、ダラダラ書きつづってしまったので、更新が大幅に遅れてしまいました。
面白かったらブクマ&☆ポチよろ_(:3」 ∠)_




