第51話 研究者は森の中を逃げ果す
森の中のかくれんぼを見事乗り切ったロイフェルトをトゥアンがあっさり見つけて戦慄が走ったりするかもしれないお話のあれこれ
「………時間ですわね。先輩、宜しいですか?」
「………好きにすれば良いでしょう」
不貞腐れたようにそう返すカミーラの様子に苦笑を浮かべながら、ミナエルは神代文字を宙に描いて戦略通信を立ち上げる。
『皆さん、時間ですのでお戻り下さい』
その脳内に響き渡る台詞に、一同………特にリーダー格であった剛剣こと三年伍席グルエスタ・ヴァン・ウェズヴァレジアや、目印を付けたドラグは、苦虫を噛み潰したかのような表情で悔しげにギリギリと奥歯を噛み締める。
自信満々に始めたお遊びの筈が、自分達が思い描いた結末とは違った形で終わりを見せたのだから無理もないだろう。
森に散らばった一同は、重い足取りで中立メンバーの待つエリアへと戻り、数刻後にはロイフェルトを除いた全てのメンバーがその場に集結していた。
それを確認し、ミナエルが口を開く。
「それでは、ロイさんの件はわたくしの要求通りで宜しいですわね?」
「勝負に負けた以上、その件に関してはお任せします。冷静に考えてみれば、彼一人、放置しても大局には影響しないでしょう」
「そうですね。更に逆説的な事を言えば、ロイさん一人に勝敗が左右されるようでは、水晶領域戦を勝ち抜く事など無理であるという事です」
そのカミーラの台詞は負け惜しみじみてはいたが、まさしくそう言って焚き付けようとしていたミナエルは、表情を変えずにそう言葉を繋げた。
「ところで………その肝心なロイさんは今何処に居るのでしょうか? トゥアンさん、本当に貴女なら探し出せるのですか?」
「ととと当然です! と言うか、まだ信じてなかったんですか?! ここここの間も見事見つけ出したじゃないですか! あたしの愛の力の前では、ろろろロイさんを見つけ出すなんて朝飯前です! むむ寧ろ朝食を準備して差し上げた上でこっそり付け回してさしあげたい位なんですぅ」
そう、病的なストーカーチックな台詞を宣いながら、頬に手を当て、周りが一歩引き気味になるくらいニヤニヤふるふると身体をくねらせると、それからミナエルに対しでふふんと挑発的な笑みを浮かべて口を開いた。
「まぁ今回は探すまでもないですが」
そう言って、トゥアンがミナエルの背後の茂みに目を向けると、他のメンバー達もつられて其方に目を向けた。
すると、その茂みを掻き分け出て来る人物が一人。
それを見て、ミナエルは一瞬悔しげに眉を顰めて唇をキツく結び、他のメンバーは全く気配を感じさせなかったロイフェルトの登場に、ぎょっとして口を噤んだ。
「ロイさん………何時からそこに?」
「何時って………四半刻(30分)くらい前かな? そいつら全員、俺に騙されて森の中に散開した後の話しだから」
「相変わらず、見事な隠形ですわね」
「課せられたミッションが時間までの隠れんぼだったからな。俺はそれを果たしたまでだ。つーかトゥアン、キモいからそれ以上寄るな」
「そそそそれはあんまりな一言ですぅ! こここここれ程までに深い愛を示したんですから、ソロソロあたしに靡いてくださいよぅ」
「これで如何考えれば靡けると思うのか………理解に苦しむ」
「だだだだからロイさんはあたしに厳しすぎると思いますぅ! ももももっと真剣に構ってくださいよぉ!!」
「は!な!せぇぇぇぇえ!!」
激しく拒絶し邪険に扱うロイフェルトに対し、恍惚とした表情で縋り付くトゥアンの様子に、ミナエルはため息を吐き、今まで彼女の実態を知らなかった他の生徒達は只々唖然とするしかない。
そんな中、肩を震わせ怒りを顕わにする人物がひとり。
「テメェ等………グルだったんだな?!」
肩を怒らせそう怒鳴り上げたのは、ロイフェルトに目印を付けた男子生徒。
ロイフェルトとトゥアンは言われた事の意味を理解出来ずにコテンと小首を傾げ、ミナエルはある程度は予測していたのか、表情を変えずに顎に曲げた人差し指を当てながら口を開いた。
「グル……とは?」
「しらばっくれるんじゃねぇ! そこの無能が時間一杯逃げ果せるだなんておかしいと思ったんだ! テメェ等グルになって俺達を嵌めやがったんだな!!」
その怒声に、そうだそうだと追随する者も出始めたところで、ミナエルは肩を竦めて問を投げ掛ける。
「………具体的には?」
「ぐ、具体的にって………ら、雷帝! テメェが魔法でそいつの身を隠したんだろうが! そうじゃなきゃ、俺達がそいつを見つけられねぇ訳はねぇ!」
「そんな事実は御座いませんが………カミーラ先輩」
「何ですか?」
「わたくし、先輩の横で魔法を使っていましたか?」
「………使ってはいませんでしたね。使用していれば、流石に私にも分かります」
「だ、そうですが? 流石にわたくしも、カミーラ先輩の目を盗んで、ひと一人を完全に隠蔽できる程の魔法を使う自信は御座いませんわ」
「なら、カミーラ、テメェもグルだったってこったろう?! 慌てふためく俺達を見て、テメェも笑ってたんだ!!」
「生憎と、私にそんな趣味はないわ。大体、そんな事をして私に一体どんなメリットがあると言うの?」
「そ、それは………つ、常に小難しい事を考えてるテメェが何を考えてるかなんて俺にわかるはずがねぇ! だがこれだけは言える! テメェ等が手助けでもしねぇと、この魔法が使えない無能者が俺達の索敵を掻い潜って逃げ果せるなんて事、出来るはずがねぇんだよ!」
最早、理屈にもなっていないようなその台詞だったが、ロイフェルトは小首を傾げて不思議そうに疑問を呈する。
「一つ聞きたいんだけど………」
「何だ平民の無能者が! 貴族同士の会話に口を挟むんじゃねぇよ!」
その台詞をさらりと受け流して、ロイフェルトは質問を続ける。
「今回の勝負は、逃げ切れば俺の勝ちって話だった筈だよね?」
「だから口を挟むんじゃねぇって言ってんだろうが!」
「さっき、ミナエル先輩の能力を借りた云々で揉めてたみたいだけど………」
「だから何度言わせれば………」
「仮に能力を借りてたとして、何か問題あるの?」
苛々と更に言い募ろうとするその男子生徒を無視して話を続けるロイフェルト。
「はぁん? 問題だらけだろうが! そんな事も分からねぇ低能が俺達の話しに口を挟むんじゃ………」
「少し黙ってろ、ドラグ」
そう口を挟んだのは、『剛剣』ことグルエスタ・ヴァン・ウェズヴァレジアだ。
「い、いやしかし………」
「黙れと言ってる」
再度、遮られたドラグは、不承不承口を噤む。
ドラグを黙らせたグルエスタは、今度はロイフェルトに向き直り、鋭い目つきで睨みつけながら口を開いた。
「おい平民」
「何?」
「………さっきのはどういう意味だ」
「さっきの………とは?」
「『能力を借りたとして、何の問題がある』ってくだりの話だ」
「そのままの意味だけど? 何か問題ある?」
「今回の一件はお前の能力が、この水晶領域戦の中でも役に立つかどうかを見極めるものだ。ならお前は俺達に『使える』存在である事を証明しなくちゃならなかったはずだ」
「………? 証明したでしょ? 時間一杯逃げ切ったんだから」
「ただ逃げれば良いってもんじゃねぇ。お前自身の能力を示さなきゃならねぇんだよ! 他人の能力借りて逃げたってお前の能力の証明にはならねぇだろうが!」
『剛剣』の二つ名を示すかの様な激しい怒りで空気を震わすグルエスタに対し、ミナエルは勘違いを正そうと口を開きかけるが、トゥアンがそれを押さえ込む。
そして、当のロイフェルトは馬耳東風の面持ちで小首を傾げた。
「なんで?」
あまりにあっけらかんと問い返され、毒気を抜かれたかのようにすとんと表情から怒りが抜け落ちる。
「なんでってお前………」
「仮に、ミナエル先輩の能力を借りたとしても、そこには俺とミナエル先輩の間に強いコネクションがあるって事の証明になるでしょ? それは俺の能力のひとつと捉えられるものじゃない?」
「違ぇだろうが! それは『雷帝』の能力であってテメェの能力じゃ………」
「貴族の間じゃ、自分達より高位の貴族との繋がりは、能力の証明のひとつになるんじゃなかったけ?」
再び口を挟みかけたドラグを無視して、ロイフェルトはグルエスタに向かってそう告げる。
その内容に、ハッとさせられたグルエスタは、何か反論をしようとして口を開きかけるが、結局はそれに失敗し、口を噤む。それは他のメンバーも同様だった。
「………それじゃ、お前は『雷帝』の能力で逃げ果せたと言う訳か?」
「あぁ違う違う。俺が言いたかったのは、誰かの力を借りようが、自力で乗り越えようが、逃げ切った事には変わりないんだから、俺の能力の証明は済んでるでしょって話。自力だろうが他力だろうが、どっちも俺の能力のひとつなんだし。今回はミナが………潔癖なミナエル先輩が相手じゃ、助力は望めないから全部自力で逃げ切ったよ」
「そ、そんな訳はねぇ! なら一体どうやって俺等の探知魔法から逃れたってんだ! 無能のテメェにそんな事出来るはず………」
「五月蝿えぞドラグ! 黙ってろ!」
「だけどっ?! ………チッ………」
更に言い募ろうとしたドラグを視線で抑え込み、グルエスタはロイフェルトに向かって問い掛ける。
「方法は言えないが、逃げ切った事は間違いないから認めろって事だな?」
「まぁそう言う事。流石に手の内を晒すつもりは無いよ」
「分かってる。俺はお前の水晶領域戦中の行動の自由を認める。好きに動けば良い」
そう言って、グルエスタは他のメンバーを残してその場から立ち去っていく。その様子を、他のメンバーはそれぞれ意外そうな表情で見送ったのだった。
あけおめことよろー
キャラ紹介に手こずってます。凝り性なんで(;・∀・)
今年はもう少しアップできると良いなー(;´∀`)
面白かったら作者のやる気スイッチポンしてねー




