表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

悪魔と疎まれた娘は、愛で変わる

作者: 岡島 光穂



 ――ある日、この国の王様が夢でお告げを受けた。


『次にボイド公爵家に生まれた娘と王家で縁を結びなさい。愛を育む事が出来れば、国は栄える事でしょう』


 その夢の後しばらくボイド公爵家に女児が産まれず、その王は息子に王位を譲り隠居を決めた頃、待望の女児が産まれた事を知る。


 渋る息子を説き伏せ、新王の息子の第一王子との婚約を纏め、愛を育む様にと言い含めた。


 新王からの意見に対しての譲歩として、婚約の発表は娘が成人する16歳の時にする事と、妃教育は公爵家に教師を派遣する形で行う事は受け入れられた――






 生まれてすぐに第一王子の婚約者となったボイド公爵家の長女、エイリーンは15歳になっていた。

 器量も良く、妃教育も順調に進んでいるエイリーンだったが、兄以外の家族からは冷たい態度を取られていた。


 その原因は、エイリーンの髪と目の色にあった。


 ボイド公爵と一つ年上の兄オスカーは金髪翠眼、公爵夫人が茶髪茶眼、二つ年下の妹クラーラは金髪茶眼、そしてエイリーンのみが黒髪黒眼だったのだ。


 生まれてすぐに公爵は夫人の不貞を疑い、だいぶギクシャクした状態だったという。その後妹のクラーラが生まれ、公爵と同じ色合いの髪と夫人によく似た顔立ちと瞳の色で、両親の愛情はそちらに向いた。


 夫人は不貞を疑われた事をエイリーンのせいにし、機嫌が悪い時は疫病神、悪魔と罵り、鞭打つ時もあった。他の時は居ない者として扱う。茶会にも妹のみを連れ、姉は身体が弱いから…と屋敷から出す事を良しとしなかった。


 公爵は一応大人な対応は見せているものの、どうしても目に入る色のせいで嫌悪感があり、他の兄妹に比べると雑な扱いになりがちだった。


 妹は母親にべったりの為、姉は悪魔と刷り込まれていた。故に、怖い、気持ち悪い、近寄らないでと口だけでなく突き飛ばしたり物を投げつけたり等、姉へのものとは思えぬ態度を取り続け、会話をする事も稀だった。


 唯一普通に接してくれていたのは、兄と専属侍女のアン。二人とも色が違うだけで、顔立ちは公爵家のものに間違い無いし、悪魔なんかじゃないと愛情を注いでくれた。


 しかし、アン以外の使用人達は公爵夫妻に倣いエイリーンへの対応や接触は必要最小限となっていた。


 そんな境遇の中情緒が育つ訳も無く、幼い頃からの妃教育も相まって、エイリーンは感情を表に出す事は殆ど無かった。兄やアンと話す時にほんの少しだけ表情が変わる程度で、他から感情の起伏に気付かれる事は無かった。




 婚約者である第一王子、ヴィンセントが初めてエイリーンと顔を合わせたのは、ヴィンセント8歳、エイリーン7歳の時であった。

 公爵家全員が揃った状態での顔合わせで、一人だけ色の違い、更に無表情のエイリーンにヴィンセントは少し眉をひそめた。


 軽い挨拶の後、エイリーンはすぐに妃教育の為と部屋へ戻された。


 公爵とヴィンセントとの話があるから、というのが表向きの理由だったが、後からアンが仕入れた情報によると、公爵夫妻とクラーラ、そしてヴィンセントで和やかにお茶会が催されていたらしい。クラーラが王子様ともっと一緒にいたいと駄々をこねたらしく、それが簡単に受け入れられたと。

 エイリーンに眉をひそめたヴィンセントも、愛らしいクラーラには終始笑顔だった、とクラーラ付きの侍女がアンに自慢してきたそうだ。


 それ以降公爵家を訪れるヴィンセントは、エイリーンとではなくクラーラと交流を深めていった。




◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇




 エイリーンの婚約者、第一王子のヴィンセントは悩んでいた。


 祖父……先代陛下の決めた婚約者の事だ。

 物心のつく前から婚約者が決められ、それも決まった理由が 『先代陛下が夢でお告げを受けたから』 だ。

 

 納得できぬまま顔合わせに赴けば、相手は公爵家とまるで色の違う黒目黒髪の無表情の子供だった。


 顔形は公爵家のものといえど、ここまで違う色とふと湧いた嫌悪感にヴィンセントは眉をひそめてしまった。


 それに気付かれたか、公爵はエイリーンを部屋に帰し挨拶を切り上げようとしたが、妹のクラーラがもっとヴィンセントと話をしたいと駄々をこねだした。

 無表情のエイリーンと違い、愛らしいクラーラの我儘につい笑みをこぼしたヴィンセントはそのまま滞在を申し出た。


 公爵夫妻とクラーラは、間違いなくエイリーンを疎んでいる。

 

 言葉の端々にそれを感じ取ったヴィンセントは、自分の抱いた嫌悪感を肯定するようになり、エイリーンへの態度もひどいものになった。


 それ以降も公爵家へ赴けば、対応をするのは夫人とクラーラのみ。


 エイリーンへ取り次がれているかすら怪しいが、実際交流を深めたい訳でもなく、公爵家へ通っている事が報告されれば問題無いとヴィンセントは特に何もしなかった。

 偶に顔を合わせても嫌悪感が消えず、無表情で気味の悪い女を好んで近くに置く気は無かった。


 夫人とクラーラはエイリーンの事を疫病神、悪魔と呼んでいるようだ。確かにあの黒目黒髪と無表情は悪魔憑きだと言われても納得できる。


 マナーや勉学は問題無いかもしれないが、あんな得体の知れない女を正妃とするのはご免だ。それならばクラーラの方が何倍マシか。夢のお告げに 『愛を育め』 とあったらしいが、その愛が生まれる事すら難しい。

 自分を熱の籠った眼で見つめ、愛らしく笑い、我儘やおねだりも可愛いクラーラの方が何倍も良いに決まっている。


 どうにか婚約者を代える事は出来ないか…それがヴィンセントの悩みだった。



 そんなヴィンセントに好機が訪れる。……先代陛下が崩御されたのだ。



 ヴィンセントは喪が明ける前に、陛下と公爵への進言を始めた。


 それは、喪が明けてしまえばエイリーンとの婚約が正式に発表されてしまうから。その前にどうにかしなければという思いで、ヴィンセントは動いていた。


 不義の疑いを持たれ、実の母から悪魔の子と罵られる娘をそのまま婚約者として発表するのはどうかと思う。もし万一、公爵の子でなければ、次に産まれた女児はクラーラの方だ、血筋の間違いない方を選ぶのは当然、と色々言葉を尽くし陛下達を丸め込む事に成功した。



『婚約者を公表せず、幸いだったな』



 疲れた様な陛下の言葉が、ヴィンセントの中にほんの少し何かを落としたが、気のせいと切り捨て婚約者変更を喜んだ。


 婚約者の変更が公爵家に正式に通達されると、夫人とクラーラは抱き合って喜び、オスカーはエイリーンを不憫に思い溜息を吐いた。

 



◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇




 婚約者の変更が正式に決まり、王子の婚約者から外されたエイリーンはふらりと家を抜け出し、家の敷地のすぐそばにある小高い丘でぼーっと夕陽を見つめていた。


「こんなに疎まれるなんて……私は本当に、悪魔なのかしら…?」


 ふと漏れた独り言だったが、後ろから相槌を打つ様に声がかかる。


「君は悪魔なのか? この国を滅ぼしたりしたいと思ってるとか?」

「え?……いいえ。特別な感情も力もありませんから」


 見慣れない男性…兄のオスカーと同じ位の年だろうか? つい返事をしてしまった。


「ふーん。でも、何で悪魔と?」

「家で、母と妹と婚約者……いえ、元婚約者から、そう言われていたので…」


「……というか、悪魔って酷いね。何か原因とかあるのかい?」

「多分、この髪と目の色が家族に誰も居ない事や、感情が表に出ないのが気持ち悪いのではないでしょうか? 怖いとか、気持ち悪い、悪魔とか色々言われましたから」


「そうなんだ…。ん? 元婚約者って事は、今は?」

「先程通達がありまして。わたくしとは解消し、妹と結び直すと」


「へぇ…じゃあ、俺が名乗りを上げるよ」

「……はい?」


 ニカっと豪快に笑う男性に、エイリーンは気の抜けた声を出す。


「だって君、何か気になるんだよね。俺、勘には逆らわない様にしているんだ。久しぶりにこの国に来たのはこの為だったのかもしれない。それで、君の名前は?」

「エイリーン・ボイド…です」


「分かった! エイリーン、楽しみに待ってて!」

「……はい?」


 自分の名を名乗らぬまま風の様に男が去った後、探しに来たアンが茫然としたままのエイリーンを屋敷へ連れ戻した。





 その後間もなく、隣国からエイリーンに婚約の申し込みと共に訪問したいと連絡が来た。まさかと思いつつ訪問を受ければ、あの時丘で会った男性だった。


「私の名前はコンラッド・バーグマン。バーグマン王国第三王子です。これから、どうぞよろしく」


 茶色の髪に金の瞳がキラキラと輝き、ニカっと笑う。

 出会った時から一度も眉を顰めなかったこの人となら、この国に居るよりも心静かに暮らせるかもしれない……そう思ったエイリーンは、婚約を受ける事を了承した。


 婚約者を変更したばかりのエイリーンを持て余していた公爵は二つ返事で快諾し、婚約期間も隣国で過ごすと良い、とエイリーンを送り出した。



 そして一年後、エイリーンとコンラッドの結婚式が行われた。



 結婚式は隣国…婚姻と共に臣籍降下し、公爵の地位を賜るコンラッドの領地のみで行われ、ボイド公爵家からは名代として兄オスカーのみの参列となったが、エイリーンは全く気にしなかった。

 家族の中で唯一優しくしてくれた兄に祝われるのなら、それだけで十分だった。


「エイリーン、綺麗だよ。あちらに居た時とは比べ物にならない位幸せそうで良かった…」

「ありがとうございます。お兄様が居なければ、もっと辛い記憶のみでした。愛しんでくれて、本当にありがとうございました」


「妹を可愛がるのなんて当たり前の事だよ。幸せにおなり」

「はい…お兄様」


「お嬢様、本当にお綺麗です」

「ああ、アン。泣かないで。貴女にも感謝しているの。わたくしを愛してくれてありがとう。お兄様とアンには本当に感謝しているの……それに、アンの事はお姉様みたいに思ってるのよ」


「勿体無いお言葉です、お嬢様! アンは、お嬢様の側に居られるだけで幸せなのですから」

「もう、言い過ぎよ。でも…これからも宜しくね」


「勿論でございます!」

「私からもよろしく頼むよ」


「はい! これからも心を込めてお仕えします!」 

「もう、アンったら」


「オスカー殿、アン。エイリーンは必ず幸せにします」

「コンラッド殿…エイリーンを、よろしくお願いいたします」

「お任せください」


 兄とアンに祝福され、領民にも温かく迎えられたエイリーンは、コンラッドの隣で今までで一番の笑顔を浮かべていた。




◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇




 エイリーンとコンラッドの結婚式から三年後、ヴィンセント王太子殿下とクラーラの結婚式が決まった。

 本来ならもう少し早い予定だったが、クラーラの教育が思う様に進まず、最低限のレベルまで来た事から結婚式を行う事になったらしい。


 盛大に行われた結婚式の後、お披露目のパーティが王宮で行われた。そこには隣国から参加したコンラッドとエイリーンの姿もあった。


「この度はご結婚おめでとうございます」


 美しい金髪の女性を連れ、コンラッドは本日の主役のヴィンセントへ祝いの言葉を述べる。


「やあ、バーグマン公爵。隣国からわざわざありがとう」

「ええ。今回は陛下の名代としてお祝いを」


 上機嫌で応対するヴィンセントは、一瞬目を彷徨わせる。


「そういえば、公爵の奥方はクラーラの姉のエイリーンだったと思ったが……今日は一緒ではないのか?」


 あの黒髪が居ないと、既に連れ歩く事さえされなくなったのかと、ほんの少しヴィンセントに昏い悦びが胸に湧く。


「いいえ? こちらに居るではありませんか」

「え?」


 きょとんとした顔で述べるコンラッドの指し示す方を見ても、金髪翠眼の美しい女しか居ない。怪訝そうな顔をするヴィンセントに、その女は優美なカーテシーをし、美しく微笑み口を開く。


「お久しぶりでございます、殿下。エイリーン・バーグマンでございます」

「は……? いや、エイリーンとは色も…顔立ち…も……」


 ほんの少し見惚れたヴィンセントは、エイリーンと名乗られても困惑が隠せない。自分が知っているエイリーンとまるで違うからだ。


「ああ、髪と目の色ですね。顔立ちは何も変わっていませんよ? ただ、表情は少し豊かになったかもしれませんね」

「……え?」


 コンラッドに顔立ちが変わっていない、と言われても納得できない。

 こんなに綺麗に微笑むなんて前は無かった。身体も女性らしい丸みを帯びているし、自分の前で表情が変わる事も全く無かった。


「あちらで一緒に暮らすようになり、私と想いが通じ合う事で徐々に今の色…きっと本来の色なのでしょうね。それを取り戻していきました。まあ、私は元々の色も表情も好きでしたが。……そうそう、結界術と治癒の力にも目覚めたのですよ」

「何だって?!」


 コンラッドの話が耳を素通りし、エイリーンから目が離せなくなりつつあったヴィンセントだったが、最後の言葉は流石に聞き流せなかった。


「おかげ様で我が国にたまに現れていた魔物も殆ど出なくなり、作物の育ちも良くなりました。まさに聖女のごとき力です」

「なっ……私の時は何も…」


 この国も隣国も魔物と呼ばれる大型の獣が発生する事が稀にあった。


 何が原因かは解明されていないが、一匹倒すにもかなり手こずる為、教会から派遣された者が結界術を用いて国に入れない事に重きを置いていた。

 今まで、何十年~百年単位で『聖女』と呼ばれる結界術と治癒の使い手が現れる事があったが、それがエイリーンだとでもいうのか、とヴィンセントの背中を冷や汗が伝う。


「『愛を育む』事により目覚める能力だった様ですね。大丈夫ですよ、エイリーンの能力を他に漏らすつもりはありません。政治利用されるのも、聖女と祭り上げられるのも、私も妻も望みませんから」

「…エイリーンは、間違いなくボイド公爵家の娘であると…?」


 ヴィンセントはまさか、と思いつつもつい確認をしてしまう。


「そうですね。義兄のオスカー殿に似た顔立ちに公爵とオスカー殿と同じ髪と眼の色。今、彼女を公爵家の血筋では無いと断ずる者はいないと思いますよ?」

「そっそんなっ…」


 何を当たり前の事を、とあっさりコンラッドは肯定する。

 だが、ヴィンセントの心中は大荒れになる。婚約者変更はエイリーンが不義の子である事が大前提だったのだから。


「しかし、殿下が進言し、陛下と公爵がお決めになられた事。まあ、今更誰に何を言われた所で妻を手放す気は更々ありませんがね」

「………」


 エイリーンから婚約及び婚約者変更の経緯を聞いていたコンラッドは薄く笑い、声を落としてヴィンセントを見据える。

 顔面蒼白になったヴィンセントに満足したのか、コンラッドは顔を社交用の笑みに変え、暇の挨拶をする。


「ああ、ご挨拶が長くなってしまいましたね。本日の目出度い佳き日、妻と二人お祝い申し上げます」


 夫婦揃って礼をし、美しいエイリーンを連れて下がるコンラッド。

 その姿を目で追いながらヴィンセントは茫然とする。





 ―ああ、先代陛下の言っていた夢は本当の事だったのか…。

  それを手放してしまった私は? 国はどうなるのだろう?

  目先の美しさや楽しさばかりに気を取られ、エイリーンを知る事すらしなかった。


 『婚約者を公表せず、幸いだったな』


  婚約を解消した際の陛下の言葉が蘇る。

  本当に幸いだった。国を繁栄させる女性を捨てたのだから。

  それなのに、今更エイリーンに強烈に惹かれるとは。

  あまりの愚かさに反吐が出そうだ。

  それを思う事すら許されないというのに…。





「ヴィンセント様? どうなさったのです?」


 少し離れた所で挨拶を受けていたクラーラがヴィンセントの隣へ並ぶ。


「クラーラ…」

「顔色が少し悪い様ですが、大丈夫ですか?」


「ああ、大丈夫だ。ほんの少し自己嫌悪に陥っていただけだから」

「まあ! 結婚の日に自己嫌悪なんて! ヒドイですわ!」


「すまない、ほんの少しの事だから」

「そんな言葉だけでは許しませんからね!」


「ああ、お詫びに何かプレゼントするよ」

「嬉しいですわ! ヴィンセント様!」


 エイリーンの美しい所作や佇まいを見た後では、今までは可愛いと思っていたクラーラの仕草やおねだりが、幼く色褪せて見えてしまう。

 それにクラーラは、先程までヴィンセントが挨拶を受けていたのが、自分の姉夫婦という事にすら気付いていない。近隣諸国の有力貴族の顔を覚えていない事の証明になってしまった。

 クラーラとエイリーンを比べ、遠く及ばないと思っていた事が逆になる日が来るなんて。それも…婚姻当日になんて……。


 自分がしてしまった事を、戻す事は出来ない。


 コンラッドが吹聴しなくとも、隣国の変化はこの国にも徐々に伝わってくるだろう。今、先代陛下が受けた夢のお告げを知っているのは限られた者のみ…しかし、いつそれが漏れるか分からない。

 それが公になったら、私は………。







「エイリーン、もっと話さなくて良かったのかい? 一応、元婚約者だろう?」


 ヴィンセントから離れ、コンラッドは給仕からグラスを二つ受け取り一つをエイリーンへ渡す。

 昔の対応を聞いていた為警戒し、エイリーンに喋らせなかったのに、今更控えめにコンラッドが問いかける。


「話す事など何もありませんわ。仲良く交流した記憶もありませんし、あの方はわたくしに名を呼ぶ事すら許しませんでしたし」

「…その割に、君に見惚れていたみたいだけれど」


 ちらりとクラーラと話すヴィンセントの方へ視線を走らせるエイリーンだったが、全く気にする様子も無く、こくりと喉を潤すと、ほんの少し拗ねた様子で言うコンラッドに首を傾げる。


「外見が少し変わっただけで、中身は特に変わっていないと思うのですが?」

「感情が表に出る様になった君は更に魅力的だよ。それに彼の方が良いと言われたらどうしようかと思っていたよ。彼は王太子だしね」


 エイリーン的には髪と瞳の色が明るくなったのと、表情が出やすくなった程度しか変わっていないと思っているのだが、周りの評価はまた少し違うらしい。

 それよりも、続いたコンラッドの言葉にエイリーンは驚きを隠せなかった。くすりと笑うと、コンラッドはばつの悪そうな顔をした。


「嫌だわ、わたくしが権力に惹かれるとでも? それに、わたくしを見つけてくれたのは貴方。愛し愛される事を教えてくれたのも貴方。貴方から離れるなんて考えられないわ」


 グラスを置き、エイリーンはそっとコンラッドの胸に寄り添う。


「嬉しいよ、エイリーン。私は本当に幸せ者だ」


 一瞬驚いた顔をしたコンラッドは蕩けた様な微笑みで、エイリーンを抱き寄せ、額にキスを贈る。


「ええ、わたくしも。愛してますわ、コンラッド」


 コンラッドの腕の中、エイリーンはとても幸せそうな笑みを浮かべた。




▽蛇足


エイリーンが嫌われた理由

 最初から簡単に能力を使えてしまうと、悪用されると思った神様からのバリア的なものでした。エイリーンが人を愛する事を知れば消える程度のもので、エイリーンをちゃんと見ようとする人には効き目はなく、兄と侍女は普通に愛を注げました。家族愛なので、バリアを壊すに至りませんでしたが、この二人が居なければ、エイリーンは早々に神様に取り上げられたかもしれません。


コンラッドがエイリーンを気にかけた理由

 コンラッドは元々、良いものと悪いものを何となく感じられる人でした(何か気持ちいい感じ、嫌な感じ程度で、本人は勘だと思っている)。エイリーンを見た時に不思議な感覚があり、声をかけました。少し話してみると、この子の近くに居たいと強く感じたので、自分の勘を信じ求婚に至りました。鼻が利く、という感じです。




▽その後


エイリーンとコンラッド

 『聖女』として祭り上げられぬ様にコンラッドが頑張り、基本領地で幸せに暮らしました。子宝にも恵まれ、ラブラブで平和な一生でした。

 ※エイリーンを政治利用するなら国を出ていくと脅したり色々…。王弟としての権力をフルに使いました。


ヴィンセントとクラーラ&公爵家

 第二王子の成人と共に、ヴィンセントは王太子を返上。罪悪感を振り払う様に積極的に魔物退治に参加し、若くして命を落とす。※だいぶ反省したみたいです。

 クラーラはヴィンセントの死後、ボイド公爵家へ戻るも我儘と浪費を繰り返し、オスカーにより修道院に送られる。そのタイミングで公爵夫妻も隠居させられ(クラーラを増長させ過ぎたから)、領地から出て来られない様、公爵を継いだオスカーが手を回す。


 ※結婚式に出て、色々理解したオスカーが家族に説明するも、現実を見たくない人達ばかりだったので、お兄ちゃんは静かに怒りを溜めていました。クラーラの結婚式で戻ってきた時も、『公爵家には寄らないでいい』とエイリーンを止めていました。エイリーンも兄以外に会いたい訳では無いので、素直に従うという(笑)。隠居させるまでは、オスカーがエイリーンの滞在先に遊びに来る感じでした。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] すごく良かったです!
[気になる点] コメントでボロボロに言われている神様ですが、世界中の神話やら何やら見てると神様って気まぐれだし適当だし人間と価値観は違うし、こんなものなのでは。アフターフォロー手厚い神様の方が怪しい気…
[一言] 一番悪いのは神様、これは間違いない。 でもエイリーンが両親の色を引き継いで産まれたとしても幸せになれとは思えない。クラーラのことだから、今度は嫉妬と劣等感を抱いて結果的にやってることは変わ…
2020/10/03 14:45 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ