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FF《フォロワー・ファンタジー》  作者: 疎遠
序章 競合に満ちた明日へ Shoot_oneself
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誤算も人によっては誤差

「————()っ……」


 背中に走る鈍い痛みでそえーんは目を覚ました。

 顔をしかめつつぼんやりと目を開いて、


「……ぁ゛?」


 枯れた喉から荒い声を漏らす。

 板張りの天井に吊り下げ型のランプ、申し訳程度に組まれた樑と柱。キイキイという小さな悲鳴とともに揺れる門扉からは、かわいた風が頬を撫でる。ぼやけた視界でも全体的にボロいのは見て取れた。

 見覚えのない景色に、身に覚えのない感覚。

 寝起きの倦怠感の中、鈍い頭で記憶を漁ってみる。


「……、あー……」


 そう言えば、異世界転生とかしちゃったんだった。

 どう振り返ってみても意味のわからない状況を再認識して、更に表情が渋る。というか、目覚めてしまった時点で夢オチという最後の救いすら断たれてしまったことが明らかになったわけで。新しい一日は開始約一分にして既にめちゃくちゃブルーだった。

 となると、


「やっぱいるんだよなあ……コイツら」


 重い体を起こしたそえーんの向く先には、卿、ズリキチ、辺獄のバカ三人衆。どうも昨日辺獄を玩具に遊び倒し、そのまま疲れて眠ったらしい。三人並んで静かに転がっていればガイジも可愛いものである。


「……妹……妹に罵られながら足コキ……」

「猥は、平和の……使徒……みんな殺して、みんなハッピー……」

「絶対乳挟射精推也。本番是乳也膣使用断固否定」


 甘かった。バカは死ななければ治らないというのはマジだった。睡眠中ですら戦慄させてくる徹底した姿勢、あそこまで行くと一周まわって尊敬すら覚える。

 ていうかアレはもう死んでも治らなさそうだ、一人なんか念仏みたいになってるし。パイズリ界のブッダでも目指しているのだろうか?


「あれ?」


 と、そんな益体のないことを考えて一人足りないことに気づく。

 ガイジ共の生贄枠————皆のストレスを解消してくれる優しい仲間ラットの姿が見えない。


「…………、」黙考すること数秒。「逃げやがったなあのバケモン!!」


 油断していた。謎の異世界システムによって一定以上離れられない状況を最初から押し付けられていたばかりに、脱走や逃亡といった可能性を初めから排除してしまっていた。こんな最悪のパーティ、逃げられるものならそえーんだって逃げるに決まっている。

 だが今さら悔やんだところで遅い。ここでナビゲート機能付きの生贄を失ってしまってはここから先の展望が確実に詰む。主にガイジの暴走的な面で。

 思考を切りかえたそえーんは思いっきり飛び起き、ついで呑気な顔で転がっている三人に蹴り起こす(モーニングコール)


「いった!?なにすんねやそえーんくん、朝からDVとかゲェジか?」

「もう少しで気持ちよく射精まで行けたのにどうしてくれんだ。俺のパイズリを返せ」

「あれ?どこですここ?さっきまでの妹は?……もしかして妹はそえーんさんだった……!?」

「うるせえバカ共!テメェらのクソみたいなボケを拾ってる場合じゃねえんだよ!!」


 喚き散らしながら門扉の方へ勢いよく指を向ける。


「ラットくんが逃げたから探し出して捕まえんぞ!」

「えー……めんどい」

「男のケツ追っかけるとか無理」

「ていうか私縛られたまんまなんですけど、解いてくれません?」

「最初に見つけたヤツはラットくんを好きにしてよし!人体実験でも妹にするでも巨乳のおねーさんに改造してズリまくるでも不問とする!」

「「「任せろ!!」」」


 ここにきて初めて団結するパーティ一同。これこそ麗しき友情、固い絆で結ばれたフォロワーはどんな事があっても仲間を見捨てない(裏切り者を許さない)のだ。


「とりあえずできるだけ別れて探すぞ!ただしお互い見える範囲でな、ダメージ判定みたいなの出たらすぐ集まること。死ぬぞ」

「なんやそれ、初耳やぞ猥」

「知らん、とにかくアホみてえな異世界ルールでそうなってんだから仕方ねえだろ」

「ていうか縄解いてくれないと立てないんですけど」

「知るか転がれ!」

「理不尽!!」


 門扉を蹴り開けるようにして外へと踊り出す。

 目に刺さる陽光に点滅する視界で周囲を見渡すがラットらしき姿はない。あれほど目立つ外見だ、いくら人外が跋扈するこの世界でも見落とすことなどありえない。となるとやはりこの辺りからは離れたとみて間違いないだろう。

 幸いまだ混み合う時間ではないらしい。道の広さからしてメインストリートのようなものなのだろうが、人通りも少なく街全体が起ききってはいないようだ。これなら多少分散したところで簡単に見失うこともないだろう。


「じゃあ僕あっち行くから、卿くん反対側ね。ズリキチは速攻で巨乳へ突撃しようとすんな!」


 無言で通行人の一人へ走り出そうとするズリキチへ拳を叩き込みつつ、大まかに捜索範囲を決める。


「探すっていってもどうやって探すんや?隠れてたりしたら流石に面倒臭いんやけど」

「サメ系の映画でも叫んどけ、B級のやつな。それで釣れる」

「見て見て皆!縄解いてもらった!私の妹天使すぎませんか!?」

「この一瞬でどっから拐ってきた犯罪者!早く返してきなさい!!」

「ああっ!私のアリス!!」


 追いすがる辺獄を蹴り飛ばしつつ推定十歳前後の少女、アリス(辺獄命名。恐らく勝手につけた)を速やかにリリース。何も分かっていなさそうな顔で去っていく姿に言葉が通じてなくてよかったと胸を撫で下ろす。世の中知らない方が幸せに生きていけることもあるのだ。


「はぁ……、もう妹狂いの異常者は僕が連れていくから卿くんとズリキチは手分けして頼む」

「任せろ!————おーいラットくーん!!早く出てこないと通行人一人づつ惨殺していくでー!!」

「やっぱ全員団体行動で!!」


 捜索開始三分、方針は呆気なく覆された。

 人生ままならないものである。


 *    *    *    *    *


 コトリ、という。

 小さな音が聞こえた。


「————死期を、感じたんです」


 小さく。ただ小さく。

 飲み干したカップを置いた音よりなお小さく。


「妄想なんかじゃない。勘違いなんかじゃない」


 独白する声は、歯の音が噛み合っていない。

 誤魔化しようのない震えを滲ませて。


「頭より、心より先に……体が言うんですよ」


 懺悔するように、祈りを捧げるように————あるいは救いを求めるように。


「あの人達といたら、我は死ぬ。他の何も分からなくても、それだけはきっと本当だから……だから、我は!」


 俯いていた顔を上げ、恐怖にまみれた容貌でラットはそう訴える。

 しかし、


「ええ……いくらあの人らでもそこまでしないと思いますけど……」


 答える好々爺然とした声は、懐疑的な色を含んでいた。


「というか、あんまり大きい声出すとバレると思いますよ?ウチ、見ての通りボロいので……」


 注意するわりに緊張感は薄く、どことなく他人事のような空気がまとわりつく。普段は常識人として認識されることの多い彼だが、常識人は常識人ゆえに危機意識というものが薄いのだろうか。ラットは重く溜息をつく。


「……とにかく、あの人達はヤバいと思うんです。すいませんけど、ほとぼりが冷めるまで匿ってください」

「まあ、それくらいなら」


 どこまで行っても軽い彼の態度にまた溜息。体験していないので仕方がない部分もあるのだろうが、実際に一度巻き込まれたラットからしてみればあの四人組ほどこの世界で怖いものは無いと断言出来る。彼には悪いが、危機が去るまで絶対一歩も外にはでない完全引きこもりニート生活を決め込ませてもらおうと決意を新たして————部屋の外から、こんな声が響いた。


「ただいまからぁ!だぶるへっどしゃーく上映会しまぁぁああああああああす!!」

「えっ嘘マジで!?」


 *    *    *    *    *


「……いやね、」

「…………、」


 なんとなく気まずい空気の中、そえーんは頭を搔いた。


「釣れるとは言ったよ?確かに言ったけどさ」

「…………、」

「なんて言うかその……やっぱTL出身なんだなって感じだよね、ラットくん」

「この卑怯者ーーーーーーーーーーーーッッッ!!」


 そんなん言われてもまさか一発で釣れるなんてそえーん自身思っていなかったので困る。その食いつきたるやもう入れ食い、釣り堀の魚の方がまだもう少し堪え性があろうというものだ。


「いやでもラットさんこれは……流石に私もどうかと思いますよ」

「こんなの卑怯ですよ見逃してくださいよ!だってしょうがないじゃないですか!この世界に来て三ヶ月、一本のサメ映画にも触れてないんですよ!?三ヶ月妹のいの字もない生活を強いられて辺獄さんは我慢できるんですか!?」

「そえーんさん、ラットさん悪くないよ。私たちが卑怯だった、見逃してあげよう」

「なんでテメーが逆に説得されてんだ間抜け」


 懐柔されるのが早すぎる。妹って単語出されたらなんでもありかコイツ。「ひ・きょ・う!ひ・きょ・う!」と揃ってコールしだす辺獄にそえーんは溜息をつく。バカも突き詰められると怒る気すら起きない。

 まあ所詮は辺獄一人。懐柔された所でこちらにはガイジのトップランカーがまだ二人も揃っているしいいだろう、と振り向いて、


「猥や!猥が先に見つけたから猥のペットにするんや!!腸リードで散歩とかするんや!!」

「いいや俺だ!俺の方が先に見つけたって言っただろ!あれは俺が異世界のご都合魔法とかで巨乳パイズリマシーンに生まれ変わらせるんだよ!!」

「ゲェジは大人しくしてなさい!!」

「お前にだけは言われたくねえぞクソサイコ!!」


 こっちはこっちで同盟破綻の真っ最中だった。

 利害関係からいつしか戦友にとか、やっぱ作り物(フィクション)の中だけだよなー、とか変な感傷を抱いてみたり。

 なにはともあれ、ああなったらもうあの二人も当てにできない。下手に仲裁なんかしに行こうものなら、こっちにまで火の粉が飛んでくること請け合いなのであった。

 ていうか、


「あの……、もしかして全滅してませんか?我帰っていいです?」

「やめて!そんな目で見ないで!!ていうかナニ毒気抜かれた顔してんだ僕一人でもやってやるから覚悟しろよクソネズミテメェコラ!!」

「もうやけくそじゃないですか!?」


 うるせえ!!と無理矢理会話を断ち切り、サメ面目掛けて飛びかかるそえーん。

 固く握りしめた拳を振りかぶり、殴打————直前。


「————其は悪行にて(フィリップ・)焦身へと至る(サンクチュアリ)


 嗄れた声が、

 した。

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