ツッコミ不在証明
「……じゃあ。とりあえずギルド的なの探すってことでいいな」
そう結論付けた頃には、既に日が落ち切っていた。この世界に飛ばされた時にはまだ日が高く昇っていたことを加味すると、軽く数時間は経っている。
驚くべきことに、その間彼らは一歩たりとも動いてはいなかった。物理的にも状況的にも。
隙あらば狂った提案をしだす卿を殴り、その間に存在しない妹を作り出そうとする辺獄を抑え、我関せずと巨乳を探すズリキチの視界を潰していただけである。
ありえない。本当にありえない。そえーんは泣きそうになりながら思う。ていうかもう半分以上泣いちゃっていた。
「ていうかギルド的なのってどこなんや?」
そんな彼のことなど気にも留めず、卿が口を開く。
全体的に人の心というものがないらしい。
そしてそれは他の連中も一緒だった。
「巨乳の受付嬢がいる場所じゃね」
「そしてそこで金髪妹ヒロインと出会うんですね分かります」
ついでにまともな思考回路も持ってなかった。こいつらここに来てからというものそれしか言っていない。目指す方向性が根本的に間違っている。
船頭多くして船山に登るとは言うが、船で警察署に自爆テロを仕掛けようとするのは迷走ってレベルじゃないだろと思う。
「まああれやな!そえーんくんが案内してくれるやろ!」
「なんで僕だよ」
「だって言い出しっぺやし」
「…………、」
困ったら全部丸投げかよ。
とはいえ、他にパスしたらしたでろくな展開にならないのも見えていた。本気でどつき回したくなる衝動を舌打ちで殺す。
「……ッ、とりあえずあれだ。酒場探すぞ」
「任せろ猥の逸物はいつでも準備万端やで」
「切り落とされたくなかったら今すぐジッパーを上げろ窓ガラスクラッシャー」
「うわこっわ、リョナグロ無理です」
うるせーばか。
「というかなんで酒場なんです?」
「履修作品の八割が特撮で埋められている辺獄くんは知らんかもしれんがね、この手の世界ってのは大体酒場にギルドの出張所があるもんなんだよ」
「失礼な、エロゲもやってますけど」
「「銃騎士やれ」」
「卿とズリキチはなんでクソを勧める時だけ息ピッタリなの??そういう呪い?」
ここ一番の圧力に、流石のそえーんもかなり引く。
もろに圧をかけられた辺獄は言葉もなく震え上がっていた。不用意にエロゲなどという単語を出した彼の自業自得なので、そこは放っておく。下手に触って巻き込まれても嫌だし。
「?……これじゃね?」
圧力の余波から逃げるように視線を彷徨わせていたそえーんは、立ち並ぶ一軒の前で足を止める。
なんというか、西部劇に出てくる酒場そのものといった佇まいの店だった。存在意義の分からないバルコニーに、存在意味が見えない腰程度までの門扉。ささやかな灯だけが漏れる軒並みの中で、そこだけは煌々と輝いているし、騒がしい声は店外のここまでハッキリと届くほどだ。
極めつけに、デカデカと掲げられた看板には『クトゥルフの館』とか書かれていた。
————日本語で。