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FF《フォロワー・ファンタジー》  作者: 疎遠
序章 競合に満ちた明日へ Shoot_oneself
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地獄

「————というわけで、異世界にやってきたみたいなんですけど」

 見覚えのない景色に、聞き覚えのない言葉。

 一瞬前と一瞬後で噛み合わない状況から推察するに、そう判断するのが適切だった。

 どうしてこんなことになっているのかは分からないし追及するつもりもない。あれだ、世界が意味もなく爆発して理由もなく転生したとかでいいんじゃないだろうか。面倒くさいし。

「で、だ」青年は軽く溜息を吐いて、「どうするよ、これから」

 とりあえずという感じで疑問を投げてみる。

 異世界転生直後としてはテンプレート的な質問だし、それ以外に訊くべきことも無い。だというのに、青年の声は心底嫌そうだった。

 だって————、

「妹!金髪ツインテ妹が作れるチート能力どこ!?」

「エルフに獣人、悪魔っ子に……人も大きい。皆パイズリしてほしい」

「さんま戦士がいないんだけど」

 聞く相手がこんなだし。

 悪いといえばここまで最悪のパーティ編成もそうないだろう。青年は軽く頭を抱える。

 地獄かここは。転生って理由もなく最強装備が貰えたりチート能力無双出来たりするものじゃないのか。バフの一つどころか特大デバフを三人も抱えたリスタートってどういうことだ、やる気あんのかこの世界。

「……猥は閃いた」

 絶望に打ちひしがれていると、そんな声が聞こえた。

「あ?」

 胡乱気な目で振り向いてみる。

 なんか、ドシリアスな顔で顎に手を当てる男がいた。その時点で既に嫌な予感しかないが、状況が状況だ。いくらゲェジを自称する間抜けでも、まともなことを言ってくれるのだろうと思い直す。

 イエス様は仰いました、隣人を信じよと。

「大丈夫……だと思う。うん、多分」青年は自己暗示をかけるように呟いて、「で?卿はなにを閃いたわけ」

日魔星(サンマスター)がいないなら猥が日魔星になればええやん!七輪探えぶべっ!?」

「死ね!お前もう死ね!一瞬でも信じた僕の純情を返せこの野郎!」

 どうやらこの世界は信仰心が薄かったらしい。神の子がバケツアイス片手にコメディ番組流すアメリカンホームドラマのダメおやじになっていた。

 ならば自分が神の子に代わって制裁を下すまで、と青年は鼻息荒く拳を振るう。

 だが、

「うっわ……そえーんさん怖、いきなり殴るとかやっぱりやばい人じゃん……」

「いいから早くパイズリして貰えそうな子探そうぜ」

 訂正。この世界に信仰心とか欠片もないらしい。神の子は死んだ。

 もう一周回ってバカバカしくなってきた青年————そえーんはうんざりしながら手を止める。

 実際、彼ら四人は中世風の街並みの中では立っているだけで注目の対象だし、無駄に目立ちすぎて騒ぎになっても困る。

 はあ、とそえーんは溜息を吐いた。

「辺獄くんは人のことをとやかく言う前に自分を省みような。ズリキチはいい加減性欲から離れろ」おざなりにそう返して、「結局どうすんのこっから————卿は黙れ目を輝かせながら手をあげようとすんな————で、他にまともな提案出来るやつは?」

「はい」

「はい辺獄くん」

「どんな物語もヒロインがいなければ始まらないと思うんですよ」

「なるほど」

「だからまずは金髪貧乳のツインテ妹を」

「ポリスメン!ポリスメーン!こっちです!ここに青少年健全育成条例違反がいまーす!!」

「いやヒロインならやっぱり巨乳じゃん。パイズリできない女に興味はない」

「大部隊を!対テロ部隊並のやつを要請します!こいつら二人とんでもない犯罪者です存在が治安悪化要素です早く大部隊を!!」

 ダメだった。まともなのが一人もいなかった。右を見ても左を見ても性犯罪者、おまけに背後では爆弾発言の隙を狙うガイジ。意味のわからない四面楚歌だった。

 もう本当にこいつら捨てて逃げた方がマシなんじゃないだろうか、とそえーんは思う。

「けどなあ……」

 呟いて数歩。三人から距離を取るように歩を進めて、顔を顰める。

 中世風の大通り、異形の人々が闊歩する景色が赤く染まる。同時、どこからなのかも分からない鈍い痛みが体を巡る感覚。

 赤く染まる視界の中、中心で点滅する文字列に意識を向けてみる。

『Tips!パーティーメンバーから離れすぎると継続ダメージが与えられます!』

 と、こうだ。

 変なところだけ異世界ファンタジー風味を踏襲しているのだから嫌気がさす。

 大きく肩を落として、そえーんは踵を返した。


 ————イエス様、お願いだから生き返ってください。


 涙ながらに十字を切りながら。

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