踊ってばかりいないでさっさと鑑定しなさい。
彼の詩に合わせながら空中を軽やかにステップする。自分に出来る事なんて、限られているかもしれない。それでもこの世界を生きて、生まれてくる感情を抱いて、眠りについた人々へ届くように踊りを届けるの。
鑑定士として生きる道しか残されていなかったあたしは、再び彼と踊る事が出来る幸せを噛み締めながら、一瞬、一瞬、生きている。あたしとサザを地上から見上げている仲間達は、小さな姿へ変わりながら、果てない空の旅へ続く道を進み続けていく。周囲の景色と一体になっていく彼らの気持ちを、願いを、誇りを、未来を背負いながら、この世界を覆うバリアを砕いていく。鳥でも魔獣でも届かない距離に設置されている安定装置は、世界の悪意によって赤黒く変色している。この装置が生まれた時は、綺麗な銀色に輝いていたのに、見る影はなかった。
今でも覚えている。封じられていた一番大切な記憶が内側から放出していく。全ての生き物のエネルギーを具現化しながら、五箇所の世界を渡り歩いたジュビアだから出来る技だった。炎に包まれていたはずの世界は、すんと静けさを取り戻し、光に満ちた生命の輝きが瞬き出した。空は大きな映像を映し出し、死した者達の新しい記憶となり、生きていく。
「君の涙は
海の底
眠り続ける
心と共に
僕の想い」
詩にメロディーを乗せながら、曲に変えていくと、サザの歌声に合わせて、あたしも口を開くの。自分の想いを形にする為に、この詩を刻んでいく。
「永遠の
宝石
沈まぬ
体」
あたしとサザの距離は開いていた。彼の詩に合わせながら、彼に近づいていたの。同じ目線に向かい合ったあたし達は、互いが互いの手を握りながら、声に出せない詩を作り出す。それは全てを再生する力の根源。炎龍の炎によって浄化されていた世界の後押しは、創造神としての言葉で全てを終わらせると同時に世界を再生する為に踊り出す。世界の鑑定士として生まれたあたしは、こうやって自由に飛び跳ねながら、サザを抱きしめた。全ての表現が終わりを告げると、崩壊の道を背負ったサザと再生の役割を担ったあたしを引き裂きながら、別の世界が作られていく。二つの欠片が合わさる時は、全ての崩壊が始まる時だった。離れ離れに生きる事しか出来ないあたしとサザは、その運命を受け入れながら、涙する。同じ時を何度も繰り返し、愛を語りあった最愛の人。すれ違う事しか許されない不安定な恋の形が微かに揺れながら、泡になり溶けていく。
「サザ」
「ジュビア」
背中に生えていた羽根は新しい雫を作りながら、あたし達を繋げようとしているのかもしれない。
側にいたはずの手が温もりが、体温が別次元へと吸い込まれながら、一つの仮初の世界が二つの本当の世界へと覚醒し始める。
あたし達を見下ろしていた空は真っ黒になりながら、雲も月も、生きているあたし達も覆い尽くしていく。そうやって作られた世界が終わる事で、別の道があたし達には用意されるとは知らずに、全てを受け入れ、果てない夢を見続けるの。
闇の中で懐かしい音を聞いた気がした。それはあたしがあたしとして産まれる前から知っている存在の優しい声が。
「君は私の思い通りに動いてくれた。君達二人をトリガーにして、消滅した世界を再生させる為に役割を与えたんだよ」
「……貴方は?」
懐かしい匂いと風はあたしが一番知っている存在。そう、あたし自身だったの。
「世界統べる者と人は私を言う。本当の名前は……」
続きの言葉は一瞬あたしの耳に入ったかと思うと、すっと消えていく。それはまるで旅人のようで、妙に居心地がいい。全てを知る前にソッと目を閉じると、新しい世界の構築が始まっていく。そこには彼女の姿が隠れているのかもしれない——