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カノンに選ばれた二つの魂

 始まりは人の願いから生まれた世界だった。行くあてのない魂を保護する為に、作られたはずだった。幾千の世界がぶつかり合いながら、時空の隙間を微睡んでいる。人だった生命体は、ぶつかり合う衝撃に耐えられずに、物体だった、自分だった存在を手放しながら、魂だけになっていく。


「世界の歪みが生じたか。天災で幾千の世界が消滅するとは……何故、こんな事が起こったのか調べる必要があるな」


 全ての世界を統べる者、それが天界の王カノンだった。人間が禁忌を犯さなければ、このような事にはなり得ないと考えているようだった。思念を使いながら、自分のダミーを作り替えていくと、カノンの魂の一部が人型として新しい命を創造していく。右手を高く挙げると、指先を滑らかに動かしていく。すると、魂のなかったはずの人型は、人間のように動きながら、人としての全てを学習し始めた。最初は動く事から始めたカノンは、徐々に奥底に埋め込めている自分の魂の一部に力をい与えていく。同一人物だった命の輝きは、見た目も考え方も、雰囲気も、全てが新しい人格の核へとなっていく。


「お前に任せよう、この世界に逃れてきた者達の光になるか、絶望するかはお前次第だ……私だった者よ。お前の名前はジュビアだ」


 生きていた人間の魂を吸収する事で、個性を確立する事が出来る。元々カノンだった彼女は二つの魂を体に引き寄せると、飲み込んでいく。その時の彼女には、まだジュビアとしての記憶はない状態だった。彼女がジュビアとして人間として生きる為の下準備を用意しただけに過ぎなかった。統合が終われば、時期この光景も彼女の記憶から消滅していく。そういうふうにカノンが仕組んでいたからだ。


 

 その時だった。遠くから男性の叫び声がこだまする。ジュビアの体に吸収された二つの魂の片方。リリアへ対する想いが、ダイレクトに彼女の体を貫いていく。元々この世界を用意する前に勇者として転移していた男性は、ジュビアへ手を伸ばそうと、必死な様子だった。


「リリア、リリアぁあああああ」


 彼の瞳に映るのは魂の形が見せている幻影だ。二人の魂が一つの人間を作った事実を知らない。世界の濁流に紛れ込んでいる彼には彼女がジュビアではなく、全く別人のリリアと呼ばれるエルフに見えていたのだった。


 

 引き寄せられた魂の片割れに反応するように、一人の少年がこの様子を見ていた。彼は白髪を靡かせながら、吸い込まれていった想い人の様子を観察していた。


「……やっと見つけた」


 少年にとって彼女は新しい存在へと進化している。元々の姉の能力を添え置く為に、これ以上融合して、今までの記憶を消失しないように、リリアだった者と姉だった存在の間に透明な魔力の膜を張っていく。カノンは完璧な人間を作る為に、別々に生きた二人の魂を融合させ、別人として、能力値の高い存在を作ろうとしている事に気づいた少年は、そうやって彼女の魂を守りながら、泣き声をあげ続けるもう一つの世界の勇者へと視線を移り変えていく。


「君は彼女を助けたい?」


 時空を超えて少年の声が勇者の元へと届くと、ハッとしながら周囲の様子に警戒を見せる彼の姿があった。


「僕の名前はサザ。君の大切な人はこちらの世界にいる……詳しい事はまだこちらも把握出来ていない状態なんだ。それでも確実にリリアは僕のいる世界にいる」


 何処からともなく聞こえてくるサザの声に戸惑いながらも、話を聞いている彼は、勇気を出して告げる。


「俺はアゴウ。彼女を助けれるなら、お前の提案に乗ろう」


 二人の話は世界に流れている電力をリンクする事で、世界と世界を繋げて会話をしている。この話は二人しか聞こえないように、念には念を入れ、カノンが隠している事実を丁寧に話ながら、大切な人を救う為に、自分の役割を担う事にしたようだった。


 

 ザァ、と炎から逃げるように風が舞っている。人として生きる選択をしたあの時に、捨てたはずの記憶がサザ脳裏の中へ駆け巡るように、戻っていく。

 


 二人の創造主が天に舞う時、世界は真実の形を取り戻す。サザは自分より上に舞い上がるジュビアの方を眩しそうに見つめている。全ての記憶を、形を取り戻すのは、まだ先になるだろう。カノンと繋がっているジュビアの魂を本当の意味で解放させていく。


 彼女がカノンの手中から大きく外れる存在になると、この世界は仮初のものではなく、本物の世界になっていく。消滅してしまった全ての世界を取り込みながら、実際に人間界への贈り物として降り注がれていく。


 

 二人の創造主は全ての闇を浄化する炎を見つめながら、ジュビアは踊り始め、サザは詩を作り出す。想いの強さが自分達の世界再生能力を極限まで高めながら、全ての浄化の余波が広がっていった。


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