ただいま
自分の中で何かが壊れた、そんな気がした。
ずっと僕と共に生きてきた大切な存在を失った事に気づかない。例え、それが闇に繋がっていたとしても、悲しくて仕方がなかった。
「なんで悲しいんだろう」
震える体を一生懸命抱き込もうとしているけど、どうしても震えは止まらなかった。
「私の言う事だけを信じればいい。ジュビアだってお前を置いて行った。でも私はそんな事、しない」
彼女が僕の前から姿を消したあの時から、レイザの言葉が唯一の支えになっていた。仲間だった人達は僕から離れていく、それが運命だと受け止めながらも、希望を手放す事が出来ずにいる僕は、弱虫なのかもしれない。
「何も見たくない、もう……うんざりだよ」
勇者なんてなるんじゃなかった。例え周囲が仕組んでいた事だとしても、自分で選択する事をするべきだったのかもしれない。
「サザ、サザ」
遠くから懐かしい声が耳を掠める。地面と一体化し始めた僕は、人の姿を脱ぎ捨てようとしている。そんな僕を止めるように、包み込んでくる空気感と、甘い香りも感じてしまった。
覚悟が出来ない。
消えてなくなればいいと思っているのに、それとは反対に、もがきはじめた。唯一の希望はきっと光の先にあるのかもしれない。
澄み切っていた空間はいつの間にか灰色に変色していく。僕の視線も全てがダークに染まっていく。侵食と言った方がいいのかもしれない。
僕の心が生み出した世界はいつからこうなってしまったのだろう。それを知るのは僕以外にはいない。
「サザ!」
誰から僕の体を吸収していく。涙なんて出ないはずなのに、慣れているはずなのに、溢れて止まらない。
闇に侵食されていたはずの僕はゆっくりと今までの見たくない感情を手放した。いいや、過去との今までとの因果を切り裂いてくれたんだ。
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霧が少しずつ晴れていく。彼に近づくたびに、反応するかのように、受け入れようとしてくれた。
「きっとサザがいるのね。早く行かないと」
襲ってくる霧はだいぶ空くなってきたけど、それでも近づけないように、拒絶を示してくる。その度に、手に纏った剣を振り下ろしながら、全てを元の状態に戻そうとしていく。
「拒絶しながらも、もがいているのね、サザ」
心と心が触れ合いながら、あたし達は同じ呼吸をする。
自分自身を抱きしめながら、そっと呟いた。
「待たせてごめんね、ただいま」