門番の復讐
鎖と鎖は命の繋がりを象徴している。二つの因果は普通なら切ってはいけない転生へと繋がる唯一の道筋を示していく。
「悪いけど、この因果を見逃すわけにはいかないのよ。全てを守る為には」
砕かれた骨が物体を吸収していく。冷蔵庫に保存されていた骨の瓦礫達は、次の肉体へと真っ直ぐ向かってくる。
「呪術師レイザか。魔王の因子を組み込む為に己の体を枷にしたと言う事か」
門番は彼の事をよく知っている。人間だった頃の記憶を覗き見ながら、ため息を吐く。
「兄様……」
今でも覚えている。人間として生きていた彼女は自らの目的の為に、神に身を捧げ、御信託を受け、門番として一つの異世界の女帝へと成り上がった。そう、いつか自分の兄を滅した呪術師を二度と転生出来ないように、縛る為に。
「こんな幸運があるのね。やっと私は」
ジュビアの生きる世界で生まれた最初の魂はいつしか沢山の闇を吸収し、別の人間を作り出した。本来ならレイザとサザは双子の兄弟として転生する予定だったのが、魔王の因子を取り込んでしまった為に、異変が起きてしまったのだ。魔王の因子を本体から引き離すには巨大な力が必要となる。その軸になったのがレイザの魂だった。
「私は沢山の人間達の醜さを見てきた。だからこそ、私が魔王の肉体を取り込み、全てを支配する。そして本当の新世界を作るのだ」
あの時の戯言を耳にした時は冗談か何かだとしか思えなかったが、子供だった彼女にはどうする事も出来なかった。兄の弟子として知名度と実力を上げていったレイザを尊敬していたくらいだ。
そんな彼女の気持ちを兄の願いを簡単に破り捨てるレイザの魂はいつしか人間のものとは呼べない程、禍々しく、おぞましかった。
「私の理想の為に、貴方の能力が必要なんですよ、先生」
二人が実験している時は、邪魔せず自室で世界の倫理と再生を学びながらも、その時が来てしまった。
「全ての彩りよ、灰になり我が力となれ」
部屋中には魔法が齎す効果を跳ね返す結界を張っていた。いつ何があってでも、彼女を守れるようにと施されている。その事に気づけなかった彼女は、周囲を見渡すと緑色の光に包まれながら、レイザが自分の兄の体を喰らっている姿を見てしまった。
「レ……イザ様?」
一瞬、何が起こっているのか理解が出来なかった。しかし兄が残してくれていた記録結界のおかげで当時の様子の記録を託す事に成功したのだ。
「お兄様!」
手を伸ばそうとしても、兄に届く事はない。彼女を守る結界は床に魔法陣を描きながら、次の世界線へと繋げていく。そこで自分の本当の宿命と運命が待ち構えているとも知らずに、現実世界から追い出されていった。
「長かった、本当に」
骨は偽りの肉を彩りながら、本来の姿へと書き換えていく。蘇生する事は出来ないが、呪術の一種である捕縛を使うのが一番の策だと考えている。
「我は全てを蹂躙する者。門番の名に置き、この者を迷宮へと封じる」
彼女にとっての本当の復讐が始まりを奏でた瞬間だった。