徳漱石
徳漱石、この世にあるかさだかなスキル超過を現実にする石。人間の潜在意識を引き出して能力を引き出す。そして新しい人間を創り出す最高の存在。その話を昔聞いた事があったけど、現実にあるとは思わなかった。
サイレの話によると調査隊の一人が見つけ出す事に成功したらしい。百年に一度のあるかないかと言われている伝説の石。それを人間の体内にいれ、改造する事によって勇者と同じスキル、もしくはそれ以上の力を発揮出来てしまうみたいだ。
この話を聞くといいところだらけのような気がするけど大きな力の源を肉体に埋め込むのにはリスクも相当大きい。力に飲み込まれ制御できなくなったり、モンスターになる例もあるらしい。実験をした結果だと言っていたが、何故勇者の誕生を待たずに、そのような事をしているのか全く理解が出来なかった。
「おどろいたわね、徳漱石が存在してたなんて」
「私もです。おとぎ話かと最初は思いました、しかしこれは現実なのですよ」
それはいいとして人間に直接干渉させるなんて普通じゃない。そちらの事を話し合わないといけない。でもその前に何故そのような事になったのか聞くのが話の順序ってものなのかもしれないと思い口を開こうとした。
「勇者の存在が危ういから、徳漱石で勇者を創り出そうとしたんですよね、サイレ様」
「ですわ、よくご存じで」
「予言で以前から出ていましたからね」
ミゲルは何事もなかったかのように淡々と言葉を並べた。サイレはミゲルの言葉に一瞬驚いたような表情を見せたが、納得したように冷静に話を聞いている。ミゲルの予言もあたしと同じで国にとって重要な力なのを知っていたけど、そんな事まで分かるってやばくない? そんな事が起こっているのならあたしにも教えてくれたっていいはずなのに。
「予言はあくまで予言です。だからサイレ様の話を聞いて確信に変わりました」
「さすが二大能力者の一人ミゲル様ですわね、正直、甘く見てましたわ」
サイレは無表情でそう言うと、視線をあたしの方へとずらしてきた。何か言いたい事があるような。アイコンタクトと言うのかな? 不思議な感じだった。
「隠してもどうせ気づかれるのなら、ここで言いましょうか。私と共に勇者の消滅が本当かどうか確認してほしいのです、それが貴女達にとっても良いかと思いますけど」
「どういう事なの? サイレ」
「貴女達の傍にいるサザ。次の対象は彼になっているのです。子供の方が耐性が高いと結果が出まして彼が選ばれてしまいました。その前に私達で阻止したい」
サザが選ばれた? 勇者の代わりとして偽りの勇者にさせるっていうの? そんな事他の町人が聞いたら国が荒れてしまう。あたしにとってもサザは大切な子なのよ、そんな事、許せる訳ないじゃない。
「いいわ、その代わり条件がある」
「なんでしょうか」
「サザも連れていく、それでいいのなら受けるわ、この仕事」
国王はサザを手元に置きたいはず、でもそうはさせない。させたくないから交渉をするしかないのよ。
「……分かりました。しかし交渉は必要ですわ、国王を納得させないといけませんから」
「分かってる」
交渉をするって言ってもどんな交渉内容を提案するつもりなのかしら。サイレとは出会ったばかりでどんな考えを抱いているのかいまだ謎。それでもこのあたしジュビアがいるからどうにかなるでしょう。国王の言葉なんて縫い付けて何もしゃべれなくしてやるんだから。
フンスと意気込みを確認するとサイレとともに国王の元へと向かった。宮殿はすごく素敵で華やかだけどあたしの美しいと思うもの達とかけ離れている印象を持った。豪華なんだけど、どうも落ち着かない。天井にシャンデリアが輝きながら赤いカーペットを照らしている。
「落ち着かないわね、相変わらず。どーゆー趣味してんのよ、国王様は……」
ポツリと呟くと後ろにいたミゲルのキックが連発する。あたしはよろけそうになり体制を崩してしまいそうになるけど、横にいたサイレが支えてくれたから盛大にこける事はなかった。
「何すんのよ、ミゲル」
掴んだサイレの手を放し、後ろを振り向きながら言葉を発すると、少し怒っているミゲル。あたしは頭の中がハテナで埋め尽くされながらも、彼女の見つめた。
「場を弁えなさい」
一言いうと、スッと表情を元に戻しながらサッサとあたし達を抜かして先を歩きだす。あんだけサイレ様、サイレ様言っておいて、そりゃないでしょと思いながら、ほっぺたを膨らますと、その様子に気付いたサイレに諭され、国王の自室へと入っていった。
──コンコン
ノックをすると、入りたまえと国王の声が聞こえた。あたし達は吸い寄せられるようにドアを開ける。
「失礼します」
「おお、ジュビアとミゲルも一緒か、色々サイレから聞いているだろう。ささ、座りなさい」
「はい」
今から何が始まるのか分かってないだろうな、この国王は……あたし達のしようとしてる事を見抜く力もないだろうし、ましてや内心自分の言う事ならなんでも聞くだろうとかたか踏んでるだろうな。あたしはそんな事を考えながら、口元を綻ばした。
ニヤリ、サザに手を出そうとする奴は国王であっても許さん。あたしの唯一の天使であり踊り子としてのお客でもある子をこんな大人の闇に触れさせる訳にはいかない。天罰を与えるべきなのよね。
「国王様、お久しぶりです、お話よろしいですか?」
「ああ、なんだね」
「サザの事を聞きました。あの子を使うのならば私達に預ける事出来ませんか?」
直球すぎるあたしにサイレもミゲルも圧倒されてる。時が止まったようにシンと静寂になり、その続きの言葉でこの空間を打ち破ってやる。
「詳しい事までは知りません。しかしあの子の将来を考えたら旅に出させるべきだと思うのです」
「ふむ、何故そう思うのだ?」
掴みは上々、これならどうにか適当な言葉を並べればいけるんじゃないのかしら。まぁあたしの話術から逃げる事なんて不可能だけどね。
「体制をつける為です。基礎がないと耐えれる事も耐えれなくなるかと、国王様の気持ちもお察ししますが、どうかこの一見私達に……」
自分で言ってて反吐が出そうになる。内心はあっかんべーをしているけど、きちんとした内容じゃないと動く事は難しいと思うもの。それも国王にメリットがあるように言わないといけないしね。嘘を吐くのは好きじゃないけど、今は仕方ない。
「サイレ、お前はどう思う?」
国王は急にサイレに話をふる。びっくりした彼女は戸惑いを隠しながら、同意をした。
「よかろう、全責任はサイレにある。その旅の動向にサイレをつけよう。騎士もつけた方がいいのだが、どうだ?」
そんなの決まっているでしょ、騎士なんて必要ない。あたしとミゲル、サイレがいるんだからサザを守る事なんて余裕なんだから、侮ってもらっちゃこまるわ。
「いいえ、私達だけで充分です」
そう言ったのはミゲルだった。会話に入ろうともしなかったから余計にここは自分の発言場面だと思ったのかもしれない。さすがミゲルおばさん。
「……君達に任せよう」
「「「ありがとうございます」」」
ん?こんな簡単でいいの? 国王不信に思ってたりしないよね。普通こんなすんなりいくものなの? 幾らあたしの口がうまいからっていってもさ、凄い不信感半端ないんですけど。まぁ、承諾貰ったんだから深く考えてもナンセンスってとこかしら。
そんなこんなであたし達はサザを引き連れ、冒険に出る事になった。国王の行動を変える為ってのがあるけど、サザを守る為でもある。あたし達の手元に置いとけば、変な輩が手出し出来ないし、そう簡単に物事を運ばせてたまりますか。
深い決意を胸に宮殿から逃げるようにサッサと出て、身支度を整える事にするのであった。その先に何が待ち構えているのか分からないが、ただ真っすぐ突き進むのみが彼女達のすべき事なのだろう。




