再会
この先に何が待ち受けているのかなんて、分からない。それでも信じる気持ちがあれば、きっと何かが変化していく余波を作り出す事が出来ると思うの。確証なんかない。
「それでもあたしは」
遠くて近い。何かがあたしと彼の繋がりを邪魔しているように感じた。
「サザ、いるんでしょう?」
黒い霧に包まれている道は、反応するように一瞬、揺らいだ。この空間は精神が作り出した異空間だと感覚で感じることが出来る。
自分の力がどこまで通用するのか分からない。願いを込めて、両手を組む。彼との今までの思い出を脳裏に浮かべながら、より深く繋がっていく。どれだけ彼が大切なのか、特別な存在なのかを訴えながら、空間の浄化を進めていく。
「邪魔はさせない」
悪意が具現化されていく。あたしの意思でも、彼の答えでもない。そこは以前からサザを誑かしていた存在の横槍だった。
「清める天空のご加護よ、今力を再築させたまえ、ブリューナク」
雷属性で出来た大きな槍はまるで神々が人に罰を与えるような、断罪の鎌のようだった。魔力に近いように思えるけど、その中心は、清らか。今まで感じた事のない、巨大な生成術のようにも感じる。
「ここまで辿り着いた事は褒めてやろう。しかし、お前は気づくのが遅かった。まさか天空から追放された、お前が聖女もどきになるとは、考えもしなかったがな」
「誰なの」
「久しぶりに再会して、それはないだろう。ジュビア、いや天使ミルゲージュ。昔の名前も忘れたか?」
「あたしは貴方を知らない。何者か分からないけど、邪魔をするなら容赦はしないわ」
「ほう」
白髪の男は満足気な表情でこちらを見下ろしている。隠していた黒い翼が背中から姿を現すと、本来の姿へと戻ろうとしている。まだ封印がかかっているのだろう。本来の力を出しきれていない男は、自分の力の解放がどこまで進んでいるのかを確かめるように、槍を振り下ろした。
「今のお前には、ブリューナクさえも止めれないだろうな。サザに干渉しておいてよかった。お前達二人が能力解放なんてしたら、後が面倒だからな、運命を受け入れろジュビアよ」
サザの名前が出た瞬間、あたしは糸が切れた音を聞いた気がした。今まで我慢していた感情が表面に滲み出す。きっとサザの今までの異変にこの男が関わっている。聞かなくても分かる。そしてミゲルの事も、関与している可能性が高い。
「うるさい」
自分の中で力が続大している。感情が作り出す生術。自分の最大限の力の変換に必要な作業の一つ。人としての肉体を持ったままではこの力は発動しない、普通は。感情の一つを身代わりにして、あたし自身に見立てた人形を作り、そこに全ての反動を受けるように書き換えた。
あたしの心臓を貫こうとするブリューナクを全て飲み干していく。このブリューナクはあたしが作った生術の一つである事を思い出したの。だからこれを止めれるのはあたしだけ。
「なっ」
「貴方はやりすぎた。あたしだけじゃなくサザにまでも手を出したの。どうせ彼を勇者としてではなく、破壊者として仕立て上げるつもりだったのでしょう?」
拒絶は全てを破滅へと書き換えてしまう。だからこそ受け入れるの。それがあたしの浄化の形。その事に無意識に気づいていたあたしは全ての力を吸収し、変換していく。闇を纏った断罪の雷ではなく、全てを元に戻す再構築の力として。
「あたしだけじゃ、ここまで出来ない。貴方は負けたのあたしと彼女にね」
過去の因果の縛りを与えた彼女の力のサポートがないとここまで出来ない。生成には少し時間がかかるから、その時間軸と男の感覚を締め付けた彼女の呪術に近いスキルは、誰にも真似出来ない。
叫び声も届かない。無に飲み込まれた男に待ち受ける地獄は想像のつかない永遠の縛り、そう簡単に抜け出せる事なんて出来ない。
「この世界は貴方のものじゃないのよ、レイザ」
彼に届く事のない最後の言葉を口にすると、一筋の涙が流れた。