瓦礫の世界
ゴウ達と一緒にいたはずなのに、いつの間にか見た事もない空間にいる。キョロキョロと周囲を確認してみるけど、何もない。ただあるのは黒い霧に包まれた世界のみ。
「何なのよ、此処は」
頭の中で浮かんできたサザを探すように、リアルと空想が合わさって、幻影を見せられていたのかもしれない。何かトラップにでもかかってしまったのかしらね。
押し寄せてくる不安を跳ね除けるように、両頬を掴むように、叩いた。バチィンと無音の中で響く音響が、あたしを奮い立たしていく。
「ん?」
音に反応するように、チカチカと光っている。少し遠いけど、歩けない距離じゃない。障害物も何も見えない状態だけど、直感で大丈夫と感じた。その先にあたしの求めている答えがある気がしたから。
「ゴウとリンを探すのは後ね。今は前に進むのみよ」
話し相手もいない、ましてこの世界は瓦礫のようで微かに腐敗臭がする。手で抑えながら、手探りで伝っていく。
空間の揺らぎは、あたしが進む度にはっきりと形を彩り始めた。何もなかったはずなのに、いつの間にかゴミ捨て場が目の前に出現してきたの。
「……何なのよ、どうなって」
無意識にこの空間はあたしが生きてきた世界ではないと確信した。目の前には前世で生きた記憶の中に置かれていたもの達が用意されている。
「冷蔵庫、よね」
砂山の上に一つの冷蔵庫が置かれている。見た所だいぶ年季が入っているようだ。何も入っているはずないのに、どうしてだか、吸い寄せられるように、手が伸びていく。
「そこにいるのは誰?」
ガシャリと冷蔵庫の裏側から女性の手が這い出てくる。それはまるでホラーそのもの。心臓を掴まれたように、身動きが取れなくなったあたしは、蛇に睨まれたように硬直するしか出来ない。
「こんな所に人がいるなんて、何も見てないよね?」
「え、っと」
女性の顔は靄が邪魔してよく見えない。目を凝らしてみるけど、結果は同じ。
冷蔵庫を間に彼女とあたしは睨めっこをしている。冷蔵庫のドアに手をかけている様子を見て、ため息を吐いたかと思うと、今度は優しい口調で問いかけてくる。
「中身、見たい?」
「いや、そんなことは。ただ迷子になっちゃって色々探索してたの、貴女は?」
「私は宝物を隠していたの。本当は見せちゃダメなんだけど、見る?」
見せちゃダメな宝物と言われても、それってきっと触れてはいけないフラグが立っている気がする。何もなかったように、この場所から離れるのが一番なんだけど。
「此処は瓦礫の世界。私のコレクションが埋もれているの。凄く、素敵で、美しいんだよ?」
「聞いた事ない世界ね。ここが行き止まりなのかしら?」
「そうよ。此処は覚悟を示さないと出れない迷宮の世界なの。前世の貴女に関係のある場所でもある。だから受け入れて、見なきゃいけないよ」
中身を確認しないと前に進む事が出来ないみたい。あたしは生唾を飲むと、思いっきりドアを引いた。そこは真っ赤な海のように見えてしまった自分がいた。普通ならこの光景を目の当たりにすると、そんな感想出てこないだろう。それでも、何故だか懐かしい感覚が全身を包み込んだ。
「鑑定スキル持っているのよね、だったら試してごらん。ジュビアになら、何が隠れているのか分かるはずだよ」
「どうして、あたしの名前を」
解答の代わりに、彼女の長い黒髪が揺れ始めた。