鳳凰「ラングニール」
この世界を浄化する事は今のゴウにとって力不足だ。本来ならば、ゴウが勇者スキルを使う事も許されなかった。しかし彼と対峙する存在の影響によって物語の根本が崩れていく。縛りの中で絶対的な力の象徴として、主人公を見守る役目から逸脱するしかなかった。リリアが残した魂の片割れのジュビアをサザに任せておくことが出来なかった。
何億年も封じていた力を一気に放出したせいか、全身に気だるさが走る。力の反動を覚悟していたが、ここまで重圧を感じるとは考えもしなかっただろう。二つの剣に手綱を引いてなるべく広範囲にリアクションを広げていく。全てを守る事は難しいが、能力を持った者達が力を合わせれば、終焉は近くなる。
グィィィンと両手を広げ青龍と朱雀の力を混ぜ合わせていくと、紫色に光る幻獣種の鳳凰が目覚めの儀式としてゴウの体を飲み込んだ。
「ーーゴウ!」
リンの叫びが耳を掠める、ふと昔の冒険をしていた覚醒する前の自分を見つけた気がした。リンはあの時から同じ時を過ごしてくれている。離れ離れになっても、人としての器を消滅する結果が待っているとしても、心の中に深く深く刻み込まれている。
「この世界の「勇者」は俺じゃない」
だからこれしか手段はなかった。勇者スキルリアクションを発動条件として術者の肉体を同化させる事で眠っている全ての力の解放のストッパーが外れる仕組みになっている。シナリオに招待されていない人物には犠牲を払わないと承認されないからだ。別の存在として新しく語り継げられる「存在」を求めている世界とゴウの考えがリンクしていく。
最後の一振りを終えると、鳳凰「ラングニール」として新しい命の輝きと咆哮を轟かせると、闇に堕ちた世界はゆっくりと光を掴み始める。カランと杖を落としたリンは時が止まったように、全ての光景がスローモーションに見えている。微かに残った指先も次第に鳳凰に取り込まれていく現実を受け入れられなかった。時を司る者としての使命を支えに生きてきたリンは、初めて碁盤を敷いた神々への怒りがふつふつと全身を熱くさせていく。
「ギャォオオオオオス」
ラングニールは大きく羽根を広げると、全てを清める作業をし始めた。フリーズしているリンを横目で流しながら、遠くの空へと飛び立った。
「自分を犠牲にしないと力が発動出来ないって知ってたのね……」
ゴウらしい、と最後の呟きは心の中で囁く。彼には届かないはずなのに、赤い炎がゆらりと揺れた気がした。