コンタクト
遠くから声が聞こえたような気がした。奥深くに沈んでいるあたしの耳には届かないはずなのに、手を差し伸ばしてくる人物が夢から引き上げようとしている。自分の覚醒が近づいている証拠でもあるけれど、そのことに気づくのは時間がかかる。瘴気から身を守れていたはずなのに、大きな嵐が生成された事が原因で今のような状況に縛られてしまったの。
精神の奥底に干渉が発生した。目を開けたいのに、確認する事が出来ないあたしはピクリと瞼を震わせるくらいしか出来ない。見かねた光を纏う人物は、あたしを抱きしめると、耳元で呪文を唱えた。
「リジェクデリート」
その瞬間身体中に熱が集まって、あたしの中に眠っている記憶に縛られたもう一人の自分と合わさっていくと、急に身体が軽く感じて、自分の体じゃないみたいな異様な感覚に陥っていった。
「まだ早いよ、今は忘れて「ジュビア」として生きて」
知っているようで知らない彼の温もりと切ない声に懐かしさを感じながら、手を離していく——
ザワザワと風に操られているように、地形が再び、形を変えていく。見えない力に操られているように、すぐに切り替わる情景に驚きを隠しながら、ゴウは剣を持ちかえ、戦闘体制に入った。
「リン、大丈夫か?」
「大丈夫よ、それよりジュビアが見当たらない」
「……出し抜かれたか」
さっきまで傍にいたジュビアは最初からいなかったように、消えてしまった。誰かが彼女とコンタクトを取る為に用意したのだと思うしか出来ない。このタイミングで、最初から図っていたのだろう。考える事はできるが、今は目の前に広がっていく瘴気をどうにかするのが先決だ。立場を隠しているゴウにとって能力解放するチャンスでもあった。
「ジュビアを探すのは後回しだ。今は空間を元に戻すのが俺達の役目だろうな。生成者に誰かが影響を与えたんだろう」
「それしか考えられないわね。とりあえずゴウの邪魔にならないように、飛んでくる障害物はデリートするから、後はよろしく」
二人のスキルが露わになっていく。ゴウのスキルを解放させるのに、時間がかかることを知っているリンは、彼を守るように杖を翳し、魔法陣を作り始めた。やまびこのように、何重にも重なった魔法陣は別々の色で作られ、合わさり、周囲の闇を消し飛ばしていった。
ジュビアの前では力を制御していた二人は、見えない本当の敵の正体を探るためにも、引き返す訳にはいかないのだ。