ひとりぼっちな語り手
出会うことのなかったあたし達がこの世界で共に生きた証はずっと魂の中に刻まれていく。サザと出会い、仲間達と歩んでいこうとしていた過去は変わらないの。
それが例え天空から仕組まれた偽物の記憶だとしても、あたしにとっては大切な物語の1ページ。
パラパラとゴウが残した記憶の一部を読みながらあの時の事を思い出していた──
懐かしさと切なさに挟まれながら記憶を抱きしめるジュビアの背中は微かに震えている。昔の彼女なら思いっきり笑って吹き飛ばしただろう。しかし一人ぼっちになり、向き合わなければならない現実を受け入れる為に、認めたくない自分の弱さを受け入れようとしている。
いつものように鑑定スキルを発動させる。まだ人の形になっていない魂を優しく持ち上げる。
「メモリアイズグラウン」
この魂の持ち主の生まれ持っていた能力と生きてきた奇跡を自分の瞳に1つの記録として保存する。皆の適職、武器などの鑑定をしていたジュビアは握られた未来を書き換える為に鑑定スキルと保持スキルを組み合わせた独自の能力の覚醒へと近づいていった。
緑色に眩く光りながら流れ込んできたのは大自然のエネルギー。どこまでも広がっていく空のように大きな癒しを感じた。
「……懐かしい匂い」
生まれ育った故郷に似ている景色はジュビアの強ばった心をほどいていく。ここまでリンクし、疑似体験のように感じる事が出来るのはこの魂が何かを伝えようとしているからだろう。自分が見ているじゃなくて、見せられているに近かった。
ふわっと背中に羽が生えていくと、急に体が軽くなる。足元を見てみると何かを求めるように天空へと手を伸ばす。ダンスをしているように空へ飛び立った。
「さあ──行こう。君は一人じゃない」
誰かの声がジュビアの心を攫っていく。手は見えるのに、顔はモヤがかかっていてはっきり見えない。いつもならどんな記憶も確認出来るのに、今回はいつもと違った。綺麗で優しくて、暖かい声が現実の彼女を抱きしめる。
急に視野が歪むとそこには楽しそうに走り回る聖獣の子供達が出迎えるようにはしゃいでいる。
「君になら出来るよ──だから」
映像も音も壊れたように真っ黒になっていく。空は姿を隠し、体に打ち付けてくる瘴気雨の匂いが広がると右目に激痛が走り、魔法陣の上で意識を手放した。
「ジュビア。いつでも傍にいるから、僕は変わらないよ」
キスを落とすと、涙を堪え一生懸命に笑顔を作っているサザがうっすらと見えた気がした。