イラつかせるのが上手なこと
黒曜石に包まれた道は暗い道を照らしてくれる。太陽と月は黒雲にかき消され顔を出す事はなかった。ブルっと震える体を抱きしめると、じんわりと温もりが広がっていく。
「寒くなってきたな。黒雲が原因だろう」
「そうなの?」
「ああ。あの黒雲は普通じゃない。人間の闇を吸って冷気を創り出しているんだ」
真面目なゴウを横目で見ると、サザとは違った魅力が見え隠れし、どうしてだか懐かしさを感じている。一瞬何処かで会った事あるのかもと記憶を辿っても、思いつかない。記憶にないって事は身に覚えがないって事。不思議な感覚にハテナが連発していて、目眩を感じてしまった。
「大丈夫か?」
そんなあたしの異変に気づいたゴウは真っ直ぐな瞳を向けてくる。焦ったあたしは何事もないように振る舞うと、目線が離れていった。
「ジュビア、これを飲んでください」
リンが魔法陣の中から取り出したのは透明なガラスに緑色の液体が包まれているものだった。見た感じ飲み口が見当たらない。
「へ?」
「ポーションです。力が回復しますよ。飲み方分かりますか?」
正直どうすればいいのだろうと悩んだ事は内緒にして、とりあえず口の中に放り込んでみる。飲み口ないんだし、口に入れれば大丈夫でしょ。
「ちょっ──吐き出して」
リンが叫んだのは飲み込もうとした時だった。知り合ってから一番大きい声で叫んだ彼女を初めてみた。いつも物静かなイメージがあったから、ここまで焦っている姿は新鮮そのもの。
コロンと手のひらに吐き出すと、ホッとした表情を見せた。リンはあたしの耳元で飲み方を教えると、知ったかぶりをした自分が恥ずかしくて、顔が赤くなっていく。
「分かりましたか? 飲み方知らないなら聞かなきゃ」
「……はい」
シュンとしたあたしに向けて、煽るように笑いが漏れている人物がいる。
「ガラスごと飲み込もうとする奴、初めて見た」
「うるっさい」
「はー、ジュビアは天然なんだな」
くくくっ、と腹を抱える姿が余計腹が立つ。サザみたいに優しく微笑むとか、逆に豪快に笑ってくれた方が開き直れるのに、それさえもさせない中途半端な笑い方、それが余計に怒りを増幅させていく。
天然と言われた事のなかったあたしはそれをきっかけに、ゴウに対して無言を貫く事にした。何でこんなにイライラするのか分からないけど、一瞬でもドキドキした自分を消去してしまいたい衝動に駆られた。
「あー面白かったわ。久々に笑った」
「ゴウ、もうやめてあげましょう」
「えー」
新しいおもちゃを取り上げられた子供のようにイジけると、頭を抱えながら溜息を吐くリンに耳打ちをする。
「アイツって性格悪くない?」
今まで会った事のないタイプに振り回されている気がして、あたしがあたしじゃなくなっていくような錯覚から逃れるように、否定している自分がいた。