能力開放?
「おまたせ」
閉じていた目を見開き、二人にいった。自分の中では凄い時間が流れたような気がするけどそれは錯覚。本当は数秒単位になるの。祖父がそう言ってたから確実な事だと思っている。待たせて悪いなとかそういう気持ちはないのよ。
「今回は少し時間がかかったわね、何年ぶりの能力開放?」
嫌味を含んだ言い方のミゲルに対して、サイレはにこにこしている。どうしてそんなに笑顔なのかしらと疑問に思い問いかけてみた。
「なんか楽しそうね、サイレ」
「ふふふ。初めて見ましたから楽しくなるのも仕方ないですわ」
「ふーん、そういうもんなの?」
「ジュビア、サイレ様に失礼でしょうが」
「何よ、ミゲル。無礼講だもん仕方なくない?サイレがいいって言ってるし」
「そうですよ、ミゲルさん。私は楽しんでいますのでお気になさらず」
「……そうですか」
やはりサイレは背教だわ。あのミゲルをまたも一刀両断してしまうのだもの。あたしにもそういう力があればよかったのに、そしたら自由そのもの、パラダイスつーもんよ。そうやって二人の会話を聞いているとついついそんな未来を妄想してしまう。あたしが最強でミゲルが最弱、最高じゃない。そうね、救世主はサイレとサザってところかしら? あの子も無意識だろうけどうまく立ち回っていると思うもの。
(それに比べるとあたしって……)
ううん、そういうのは考えないようにしよう。じゃないと楽しくないしあたしらしくないもの。ドーンと来いってくらいの気迫がないとやっていけないわけだし、そうよそれがいい。
自分にとって都合のいい解釈をしながら、現実へと振り返る。そういえば仕事内容は何かしら? 話を始めるっていってたけど、この調子じゃどうだか。そう思ったあたしは自分の口から切り出した。
「で仕事内容は何かしら?」
そう聞くとハッとした二人を見て、忘れてたな、こやつらと思い、笑いがこみあげてきちゃった。二人とも個性強すぎる。サイレは立場が立場なのに天然入ってるみたいだし、空気がほんわかしてて癒されるのよね。ミゲルは通常運転だけど。
「おやおや~? 忘れてたでしょ、二人とも」
あたしの事言えないじゃんか。真面目なようで本来の目的を忘れるとか面白すぎる。最高なメンツね、大好きよ凄く。
「そうでしたわね、ついつい魅入ってしまいました」
「いいのよいいのよ。惚れても」
「そういう意味じゃないでしょ」
「うるさいわねミゲル。ノリよノリ。本当空気読めないんだから」
「あらあら」
「話ずれてるじゃないのよ、ほら本題入るわよ」
あたしが話の主導権を握っていたはずなのに、いつの間にかミゲルが切り出したみたいになってる。納得できないけど、まぁいいか。今回はミゲルに譲ってやろう。
「楽しくなりそうだわ」
鑑定の仕事でこんなわくわくした事なんてあったかしら? 記憶の中で確認してみてもない事に気付くとニヤリとしてしまう。正直、仕事をそこまでしてなかったのもあるけど、サイレの事を機に入ってしまったあたしは好奇心を止める事が出来なかった。
話はやっと本題に移り、サイレは一息吐くと言葉をつむいでいく。
「ジュビアさん、貴女に勇者の適正テストに合格した者の中から本物の勇者を選んでもらいたいの」
勇者の適正テストって聞いた事あったけど、あれって本当にしているんだ、知らなかった。都市伝説化しているから、皆夢でも見ているのかもとか考えちゃってたわ。でもどうしてあたしがその人物を選ばないといけないのだろう。勇者を探すのも仕事のうちだけど、もう決まっているならあたしはお払い箱じゃないの?
自分の疑問を口にして伝えてみる事にした。無言で考えていてもラチがあかないし、何も進まないもの。こういう時は当たって砕けろだわ。
「しぼれているのにどうしてあたしが選ぶ必要があるの? サイレ達で決めるのが筋じゃないかしら」
「……言いたい事はもっともだわ、だけどどうしても貴女の力が必要なのです」
「じゃあ、理由を聞かせてもらえるかしら?」
本当はやる気まんまんなんだけど、やっぱ理由って大事じゃない? それにこれから何か起こる可能性もあるし、それに自分が見合った行動をしないと国に迷惑をかけてしまうもの。それくらい減るもんじゃないでしょ。
「分かりました。お話しますわ」
真っすぐな瞳が伏し目がちになる。少し憂鬱そうな感じがするけど、そこは今は指摘するところじゃないわね。それより何を抱え込んでいるのか、その勇者適正テストってのが何なのかちきんと把握しておきたいところだもの。あたしはサイレを真っすぐ見つめながら、言葉の続きを待つ事にした。
「勇者適正テストがどんなものかご存じですか?」
「いいえ、名称は聞いた事はあるけど中身は知らないわ」
「ではそこから話をしますね」
「ええ、はじめてちょうだい」
あたしとサイレの間に少し壁が出来たように感じた。立場を意識してか、国の決めごととなるとこうなってしまうのは仕方ないかもしれない。
だってサイレ──彼女は王妃だもの。
あたしとサイレが話をするなか、ミゲルは取り残された感じがした。いつもなら鑑定士としての仕事を放棄するあたしの行動に驚いているのかもしれない。ミゲルの予言の能力で分かりそうな事なのに、その反応をするって事は未来が少し違った方向へと変わっていっているのかもしれない。
そんな事あたしには関係ない。楽しそうな依頼なら進んでするわ。面倒そうだけど、そこに楽しみがあれば何でもいいじゃないの。そう思うのは理不尽かしら?
「勇者適正テストとは国家機密の中の一つなのです。勇者の出現が見込まれない時に自分達の手で勇者を創る、それが「勇者適正テスト」です」
自分達の手で勇者を創る? 選ぶじゃなくて? なんか矛盾しているじゃない。さっきサイレは選ぶといったのに、話をし始めると創るに切り替えた。凄く違和感がする、それに人工的に創る技術があったとしても、そんなの本物の勇者に失礼だわ。
正直、あまり気分のいい話ではない。でもね、その中で新しい何かがひらめきそうだから静かに聞き役に徹底する事にした。今のところは内容を聞かないと反論できないし、話のこしを折るのもダメだもの。
ただ質問をするくらいはいいわよね。それならサイレも話しやすいでしょうし、あたしにもプラス。そしてかやのそとのミゲルも楽しめるでしょう。ここにいるって事はあたしとミゲルはその内容を聞く事を許された存在になるはずだから。
普通の立場ならこんな話をサイレはしない。あたし達も聞く事もない。あたしだけしか知ってはいけないのなら、ミゲルに席を外せと頼むだろうし、それがないという事はいまの所安心していいと思う。
(国王ったら、ミゲルも巻き込むつもりね)
あたしにはあたしの役割があって、ミゲルにはミゲルの役割があるって事か。国王自ら動くとなったら大騒動になるし、混乱を招く事態になる可能性をふまえてサイレを動かしたのだろう。それならサイレにも何か役割があるはず……見当違いでなければの話だけど。
「自分達の手で勇者を創る……ね。選ぶじゃなくて?」
「最初は選びます。合格者の中から人選する為に、人為的に能力実験をするのです。その中で耐えれた者には勇者と同じスキルを与える事になっていますの」
「勇者と同じではないでしょう、それ」
「そうですね、違いますが。似た能力を私達の配下の者が編み出しましたの」
能力を作り出すなんて不可能に近い。生まれつきのものだもの、だって。それをどんな事をしてその配下とやらが生み出せるわけ? うさんくさくない? それ。
「どうやって、と聞いてもいいのかしら?」
「……ここだけの話にしていただけるのなら」
「それは大丈夫だって判断したからここに来たのでしょう? 王の命令で」
「……そうですね」
急に歯切れが悪くなったわね、もしかしたらサイレも立場上反対できないだけで、受け止めきれないのかもしれない。普通の神経していたらそんな事、考えもしないもの。王が主導権を握っているから断れなくて来た感じも受け取れる、まるであたし達に助けを求めるみたいに。
この時のあたし達には何も見えていなかった。サイレも同様。国王の陰謀の操り人形にされようとしている事実に気付けずにいたの。




