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何もかもがどうでも良くなっていく感覚に囚われたサザは呼吸を荒らげる。泣き声をあげ、ボロボロと涙と血を流していく。身体中の血潮が沸騰し、全てを放出し始めた。自分の存在そのものを否定するように──
「あら私が手を出さなくても自滅しそうね。ジュビアが鍵だったとは」
ミゲルは彼が闇に飲まれる瞬間を光悦な表情で眺めている。本当は自分の手でサザを壊したかったが、暴走に染まっていく彼の姿を見て、仕方ないかと呟き、行く先を見守る事にした。
自分の暴走に気づく事のないサザの姿は人間の器を手放し、獣へと変わっていく。そこに自我はなかった。
情けないな、サザ──
一瞬サザの身体がピクリと反応する。声の主は呆れたような物言いで、彼の内面から顔を出していく。
「お前がそんなんだからジュビアも大変だな。お前は彼女を守る為に人の器を手にした。その約束とチャンスまで忘れたか。悪いがお前に付き合う筋はない、俺の体でもあるんだからな、好きなようにさせてもらうぞ」
「……」
「話す事も出来ないのか、弱い、弱すぎる」
何を言っても変わらない状況にレイザは腰をあげると、声にならない雄叫びを上げた。これは威圧だ。サザは初めての威圧に一瞬怯むと、黒い膜の中に閉じ込められる。
「……頭を冷やせ」
ジャキンと緑色に光る剣を一振すると現実世界へと繋ぐ空間が現れ、彼はミゲルの前に姿を現せた。
サザの髪がスっと伸び、背中に届きそうな所で止まる。髪はより美しい白で彩られ、体も成長していく。
「なによ……どうなって……」
ありえない現実を目の当たりにしているミゲルは微かに後ずさると、呼吸の仕方を忘れそうになる。小刻みに震えている体に気づくと、自分を守るように肩をさすって動揺を隠そうとした。
「お前だな、余計な事をしたのは」
「……は?」
「アイツは優しいし弱いが、俺は違うぞ。邪魔をするなら消えてもらう」
ミゲルの返事を待つ前にレイザは息を吹きかけ、空気中の冷気を刃へと生成していく。その姿は人間とは言えない、初めての存在を知らしめる神のような物言いと立ち振る舞いだ。そして全てを自分の力へと変える能力は誰も持ち合わせていないものだった。
「お前達も腹立つだろう。地上の安定を滅ぼすような存在には罰が必要だ、そうは思わないか?」
ザワザワと空間が揺れていく。まるでレイザの声に共感しているように。
「やめて──」
ミゲルの叫びが鳴くと一瞬で世界が反転していった。何が起こったのか理解出来ない彼女は体の一部を失い、崩れ落ちた。