切り裂く心
「お前も来るか?」
「はぁぁぁぁぁあ?」
ゴウはリンに一つの提案をした。しかしリンからすればそれは邪道でしかない。自分の立場上、飲み込む事はできないと判断していた。
「お前はジュビアをリリアに戻したいだけだろう。しかしこの子はきちんと人格を持ってる。急にそんな事をすると、どうなるか分かるか?」
「……」
「崩壊しちまう。それじゃあ、どうしようもないだろう。彼女を始まりへと戻したいのは分かるよ。でもな、それは今じゃないんだ。この子の側にはサザがいないといけない。俺はこの世界では違う人物だからな。父親として守る責任がある。お前なら分かってくれるよな?」
ゴウの言葉に反論出来ないリンは攻撃を続けるしかなかった。昔からそうだ、急に思いついては、こちらの計画を全てお釈迦にしてしまう。でもこの瞳には逆らえない、そう感じるのは神格化しているからなのか、彼自身の魅力なのかリンには分からない。地下に沈むと言う事は邪気が漂う所で生活しろと言われるもの。清らかさを吸収し、力に変換するリンにとっては毒を飲む事と同じだった。
「難しいわね。あたしはジュビアを守る役目もある。ゴウ、あんたに任せれないのよ。それにこの子にとっても地下は苦しい選択になる」
「地割れが起きて、いや起こされた。これがどういう意味か分かるだろう。天界と魔界は繋がって、地上にまで影響している。隠れ蓑があったほうがいい。それに俺が側にいれば、二人とも、能力を開放する事が出来る。そしたら、地下でも行けるだろうな」
「どういう事?」
初めて聞く内容に、リンは反射的に言葉を投げつけた。能力開放、聞いた事はあるが、自分は出来ているものだと思っていたリンからしたら驚きを隠せない。
「お前まさか、開放出来てると思ってたの? ハハッ、笑える」
「うるさい、どういう事か説明しなさいよ」
能力開放が出来れば、他の人達を助ける術も見つかる。中には正気を浴びて、魔物化が進んでいるからだった。全ての人を助けるのは難しいかもしれないが、希望の光は確実に出てくる。
「説明している暇なんかねぇだろう? 言葉よりも経験が大事だ、目ぇ閉じとけよ」
「は……」
ゴウは2つの剣をギリリと刃先をぶつけると、閃光が巻き起こり、目を閉じた。何をしているのか見えない。本当は確認したいのに、その先を見る事が許されないように、見る事を体が拒んでしまう。
「んん……」
宙に浮かしたジュビアも、苦しそうに声を漏らすと、口をパクパクし、音を生み出していく。それは踊り子としてのジュビアが歌っているようにも見え、ゴウはその光景を見つめながら、微笑んだ。
「大丈夫、俺が守ってやるから」
その先の言葉はあえて言わない選択をすると、ガキンと二人の精神を何度も何度も炎の剣で切り裂いていった。