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守護と記憶


 卑劣な破壊音を聞いた瞬間、地面が裂け始める。一瞬何が起こったか分からない各々は足を踏み外していく。グラリと傾く体を止める事は出来ない。一生懸命手を伸ばすが、願いは叶わなかった。その中でジュビアだけは赤い炎に守られながら、空中に浮いている。その光景が皆の脳裏に映像として浮き出ると、あっと言うまに意識を手放した。


 「この世界も俺らが旅をしていたあそこと同じ状況になっている。お前はそれを止められる存在だが、その為には俺とあいつを倒さなければならない。それを理解した上で抵抗をするのか? ジュビア」

 「……」

 「それともここで、いっそ奪ってしまった方が楽かな?」

 

 その言葉の余韻が空間を繋げて、音として響いている。何の能力もない人々はこの音を聞くと、自我を手放し、肉体のバランスを崩し、魔物化してしまう周波数。人間は大きくも小さくも闇を抱いている。そこを引き出せばいくらでも他の存在へ書き換える事が出来る。


 それが出来るのは唯一の存在だけなのだが──


 クイッと指を左右に動かすと、何もなかったはずの空間に氷の矢がジュビア目掛け待ち構えている。とうの本人は、まだ目を冷ます気配はなかった。


 「氷魔法を使うのは久しぶりだ。いくらジュビア、お前でも一溜りもないだろうな」

 

 指を動かそうとした瞬間、レイザの体目掛けて雷が落ちた。レイザは何事もなかったかのようにスルリと避けると、雷向けて矢を降らし始めた。


 「命拾いをしたな。この体を貰った代わりに、俺の体を手に入れたのか。俺には見つける事が出来なかった、若かりし頃の体を。まだ残っていたとは驚きだ」


 楽しそうに微笑むレイザが少し悲しそうに見えたのは、サザしか知らないだろう。


 「ナイト様にお前がなるのか。ご苦労な事で」



 これ以上、計画の邪魔をされたくないレイザは対策を打つ為に、身を隠したのだ。


 

 ■▢■▢■▢■▢■▢■▢



 「ジュビ……ジュビア」

 

 遠くから懐かしいあたしを呼ぶ声が聞こえる。誰の声なのか分からないけど、凄く暖かくて優しい声と感じ、呼吸が安定し始めた。アゴウに剣を突きたてられてから、自分じゃない自分が内面にいるような感覚に陥っているんだけど……これは一体何なのか分からない。


 失っていたものが、体中に満ちていく感覚が思い出さなくていい記憶さえも引き出していく。


 「俺は闇落ちした。だからこそ、リリアと同じ存在のお前が元に戻すんだ。頼むぞ」

 「……貴方は?」

 「俺はアゴウと言われている。呼び名は『ゴウ』でいい」


 ──この世界は表裏一体だ。お前の生きる世界はリリアと俺達がいた世界の反転のシナリオで作られた世界でもある。本当の仕組みを理解出来ていない奴らは2つの世界が繋がって、一つになると考えているだろうな。しかし本当はどちらも同じなんだ。俺達が選択しなかった未来の世界がお前の生きている世界とも言える


 長い説明をあたしに教えているゴウがいる。目を凝らして自分の姿を見つめてみるけど、今とは明らかに違う見た目をしている。紫の髪を靡かせながら、尖った耳で彼の声に反応をする。


 どう見ても人間ではなかった。



 「お前はこの世界でのリリアでありジュビアである。だからこそ、その姿を時が来るまで封印する。全ての世界の終わりが始まる時に……また会おう」


 ──セセリア ミロウ


 ゴウが魔法を使う事は殆どなかった。あたしの知っている彼はいつも穏やかで勇者の姿さえも見せなかったから。


 地面に魔法陣が現れ、光のシャワーがあたしの体を包みこんでいく。そこから感じる二人の願い、想い、そして愛情に気づいた時に、涙が溢れた。溢れた涙が宝石に変わり、あたしの足元に沢山積まれていく。ゴウの魔法の光を受け、吸収した涙の宝石はあたしの記憶と共に違う物体へと成り代わっていく。


 「おとうさ……ん」


 最後の言葉を振り絞ったあたしは、パタッと眠り、人間の赤子として一人の『鑑定士』の前で産声を上げた。



 それがあたしがジュビア・ヘブンスターから鑑定士ジュビアへと歩み始めた最初だったの。

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