本気モード「スタンバイ」
サイレは相変わらず微笑んでいる。ミゲルは呆れたようにあたしを見てる。少し満足したかもしれない。バチッとサイレと目線が合うとお互い笑顔になった。サイレの身長はそこまで高くない。低くもないけど、ちょうどいいと思う。あたしの方が少し高いといった感じかしらね。王妃という立場じゃなかったらまた違う人生を歩めていたんだろうなって考えてしまうのよ。
美女だもの、だって。王様がべたぼれなのもわかるわ。あたしが男だったら一目ぼれの状態になっている。残念な事にあたしは女、そんな趣味ありませんー。
「さて本題に入ってもよろしいかしら?」
穏やかな空気の中で話を切り出したのはサイレだった。後ろから視線を感じる。きっとミゲルの様子を見て、本題に入った方がいいと感じたんだろう。
(もう少し雑談したかったのに……ミゲルの奴め)
「サイレ様のいう通りですよ、ジュビア仕事モードになりなさいな」
いつもなら暴言を吐いて暴れるのに、いつもより丁寧な言葉で鳥肌が立ちそう。ブルルと武者震いをしてしまう自分がいる。そんなあたしの気持ちなんてさておき二人は色々と話始めた。
「ジュビア、聞いてる?」
考えの方が勝っているあたしは二人の事を考える事に夢中になりすぎて、話を聞いていない。自分の仕事の内容なのに、なんたる無礼なんだろうと自分でも呆れてしまうくらい。
「うぐぐ」
「どうせ聞いてなかったんでしょ。あんたはいっつも!!」
「まぁまぁミゲルさん、いいのですよ。私から説明しますので安心してくださいね。ジュビアさんよろしいですか?」
「ええ」
さん付けいらないでしょ、確実に。距離感が出来てしまうし、友達って感じが全くないじゃん。でもそれも仕方ないか……初対面だし、これ以上距離をつめるのはやめておこう、今は。さてさてあたしの考えはさておき、サイレの話を真面目に聞こうかしらね。そう思いながら少しずつだけど仕事モードへと切り替えていく。頭の中にはびこる数字達があたしを包み込みながら、覚醒していくの。
「本気モードになっているので、少しお待ちください」
無言で目を瞑って集中し始めたあたしの代わりにミゲルが告げる。サイレは無言でコクリと頷くと、物珍しいようなキラキラした目であたしを見つめてる。
──スタンバイ
数字が少しずつ本来の姿を取り戻していく。あたし達の国で使われてる文字シュアに変換されると、頭の中が少しずつクリアしていく。特別な鑑定をする時はスキルを使わないと本気になれない仕様になってます、ご注意くださいって言いたい。
少しの時間の中で自分の精神がシュアの波へと溺れていく。まるで包まれているようで安心するの。母さんに抱きしめられているような、子供の純粋さを思い出したような気持ち。スゥと呼吸を整えると、体の中に脳内のイメージが取り込まれていく。あたしの覚醒は特殊で数字、記号、文字によって起動されるのよ。だからそのイメージをするの。じゃないと特別な鑑定でミスは出来ないから、こうするしかない。相手がサイレだから余計にそうなってしまうのは必然なのかもしれないわね。
重力に逆らって髪の毛が斜め上へと靡き始める。両手で包むイメージで手を合わすとその間で少しずつ見える力の塊が具現化していく。神秘的な光景に引き込まれる二人を置き去りにして。




