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黒霧


生暖かい風が異質な空間の変化を察知する。誰もこの流れに気づく事などないのに、たった1人、嗅ぎ取った存在がいた。


「どうした、リン」

「……なんでもない」


言葉に発してはいけない。1度でもそれを言ってしまうと秩序を保っている世界軸にも影響が出るのを理解しているからだった。2つの世界を繋げようとする者がアクションを起こした事でバランスが狂い始める。そのトドメをさす訳にはいかなかった。


何も知らなかったあの時とは違う。


覚悟を決めるように閉じていた瞼をゆっくり開けると瞳に映し出された存在達は、黒い霧へと姿を変え、散っていく。


「な……」

「……カイ、貴方がそうだったのね」


自分の体に何が起こっているのか分からず、パニックになる相棒のカイを見つめながら、苦虫を噛んだように笑った。自分の身代わりとして全ての毒を受け止める立場が彼に与えられた姿なのだ。


「カイ、消える前に教えてあげる。私は妖精だけどリリアの加護を受けてるんだぁ。だから消した記憶は戻してあげる」


ふわふわと楽しげな表情で現れたレイはリンを素通りすると、彼の体の中へ吸い込まれていった。


「あ……あ」


カイの感覚が思考が感情が奪われていく──


串刺しになっているように静止したかと思うと、ダランと項垂れ、地面に崩れた。人間の形をしていた「それ」は全てをかき消すように風が攫っていく。初めからいなかった存在のように。



■□■□■□■□■□



体が効かない……まるで大蛇に締め付けられているみたいだ。動かしたいのに、反発したいのに出来ない歯がゆさに耐える事しか出来なかった。


「しぶといね、カイ」


微かに見える姿に虹色の羽根が見えたような気がした。声の主が発すれば発する程、自分の五感が失われていく──


「まだ崩れないんだね。貴方が耐えれば耐える程、辛くなるだけだよ? 楽になろ」


抵抗の色を押し出すカイを最初は楽しそうに観察していたが、時間がかかりすぎている為、レイは舌打ちをする。


「言ったよね千年前に、人間にならしてあげるからこの大樹の泉が零れるまで時間をあげたじゃない。その間私は妖精の姿で我慢してたんだから、その身体返してくれないかな」


ブツブツと我慢をしていた鬱憤を晴らすように責めながら、カイの右目に徳漱石で作られたペンデュラム型のボトルを突き立てていく。


「痛みなんかないでしょ、もう。リンなんかに従っていた貴方とは違う。私とカイはリンを監視する為に傍にいただけなのに……裏切るとかありえないから」


ペンデュラムの上部分をカチリと押すと先から針がカイの体内へと流れ込む。ボトルの中に残っていた大樹の泉が彼の体内と同化し、満ちていく。


「さようなら、お兄ちゃん」


何も聞く事も見る事も話す事も出来なくなったカイは真っ黒な墨になり、どさりと崩れ落ちた。

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