見物者達
音はゆっくりと歪みを作り出す。その中には埋もれた存在の思惑が隠れている事にも気づかずに、二人は私から去って行った。正直、気づかれると思ったが、ジュビアの覚醒が原因で私の力が作動しなかった事が大きかった。こんな偶然がなければ、今頃は捕まっていただろう。
『……お前達が『砂時計』から自由になる事はない』
背負ったカルマを解消する為にはそれ以上の十字架を背負う必要がある事を理解していない。目に見える課題だけをクリアしていけばどうにかなると考えているアゴウとリリアの浅はかな行動に笑ってしまう自分がいる。
『私は『見物』をさせてもらうよ。そして──』
右手から黒い炎が浮き出てくる。その中に映るのはサザの姿だ。彼は元々私の配下であるシュウバが成り代わった存在だ。人間になりたい一心で私の要望に応えた結果が今の現状なのだから。裏に隠れている背景に気付けない限り、その繰り返しを止める事も、書き換える事も無駄な努力と言えよう。
『本来ならお前がその立場だったのだよゴウ。しかし、お前は繋げてはいけない時空を繋げてしまった。だからこそ、新しい『勇者』が必要だったのだ──そうだろう? ミリードよ』
『……気づいておられましたか』
『当たり前だ。人間のお前の事など当に気付いておったわ。国王と言う立場でこんな偵察のような事をしているとは、部下達はどうした?』
ミリードは苦虫を噛むような顔でマントを揺らした。その風貌はどう見ても青年の姿だった。綺麗な赤い瞳に青い髪が特徴的な風貌。
『レイザ様の考える通りですよ。でないと私がこの姿で動きませんからなぁ』
『娘はあの女に奪われたぞ、いいのか』
『言いも何も貴方様の命令でしょう? ミゲルがサイレを器にしたのも』
『ハハッ。憎いか?』
昔と同じ姿のまま、年を重ねない国王ミリード。表で立っている彼の姿は魔法の一種で誤魔化している。その術を破れる存在は誰もいなかった。当然だろう、世界を書き換える力を持つ『魔術師ミリード』なのだから。この地上に彼のマヤカシを解く事が出来ないのは天界者が使う魔術だからだ。その資格を許されたのがミリードの立場だった。
『サイレはよくやってくれました。器として彼を人に戻す事が出来たのですから。それは混ざり合って本当の『サイレ』に戻るだけですよ。こんな老いぼれをいじめないでくださいな』
『私は事実を言ったまでだ。どうするミリードよ。この手を取るか?──それとも』
ミリードは呆れたように嗤うと、手を払いのけた。それはまるで拒絶以外の他の意図の現れのように──