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リリア・ヘブンスター

リリア・ヘブンスター


 彼女は森の世界で妖精族として産まれた。異世界から来る『炎』を司る勇者を受け入れる為に選ばれた者だった。迷い込んできた勇者となる存在は力の使い方も、この世界での生き方も、何も知らない。だからこそ道しるべとしての存在が必要だったからだ。

 長い年月を一人で過ごしてきた彼女の見た目は幼い。まだ五歳にも見えない容姿からは一億万年以上、生きて来たとは思えない程だった。白い髪と紫色に発光する瞳はいつも時空の歪みが何処で起きているのかをまじないを使い、知る事が出来る。この力は『月魔導士』と呼ばれる選ばれし存在達が残した遺産そのもの。どうして彼女にその力が使えるのかは、知る者はいないのだった。


 『上手く出来るかな……』


 裏で動いている運命の音を勇者に気付かれてはいけない。この世界を守る為にも、元の姿(・・・)に戻す為にも何も知らないように繕わなければならなかった。


 リリアは緊張しながらもその時を待つ。森の世界のローズタウンは元々大きな世界の一つの大陸に過ぎない存在だ。全ての均衡を保つ為に、各国を切り分け、異世界へと流していく。そして最後に残ったのがリリアの生きる世界だった。

 その中でも勇者の存在は大きな変異を招く。大きく四つに分かれた世界には四人の勇者を受け入れなければならない。その四人の存在が一つとなった時に、世界の統合が始まる。その合図は……リリアの消滅だった。


 充分生きて来たリリアからしたら、消滅する事に恐れはなかった。自分が消えても『月魔導士』として転生を繰り返す五人の支えがあるからだ。その時が来るまでは案内人として、勇者を守り、成長させ、全ての世界と縁を作る事が重要事項。

 その為にも、勇者が来る前にしておかなければならない事がある。リリアは一人の月魔導士、人間へ転生した『ライラ』に会う為に、月光の祠へと足を踏み込んだ。

 

 キラキラ輝く魔法石は別名『徳漱石』と呼ばれている。全ての大陸を創造したのもこの宝石の力、そして分裂を促したきっかけでもある。

 『来たか、久しぶりだね。リリア』

 リリアに向けて言葉を放つのは一人の男の子だ。白い髪を揺らぎながら、徳漱石を守っている者だった。この子がライラを守る為に選ばれたなんて信じれない。リリアの方がこの世界を知っているのに。

 『久しぶりね、レイザ(・・・)


 二人の間に言葉はいらない。久しぶりの挨拶を終えると目線で彼に自分の要望を伝えると、レイザは了承をしたように笑う。彼は徳漱石の上で座っていたのだが、ヒョイッと地面に足をつけると、先ほど乗っていた徳漱石へと手を翳す。彼の心に反応するかのように緑色に発光すると、ラギン語の文字が浮き出てきた。


 己の願いを叶えるのならば

 見合った『対価』を守り主に渡せ

 

 ここでは一人一人に見合った対価を払う事で願いを叶える事が出来る。月魔導士と会話するのさえかなりの寿命を払わなければならない。リリアはゴクリと唾を飲むと、覚悟を決めた。楽しそうに、試すように、レイザは笑っている。その姿を見ると、まるで魔王にでもあったような錯覚に陥ってしまうのは自分だけだろうか、と心の中で呟いた。


 リリアは吸い寄せられるようにレイザの元へと足を運ぶ。自分の何が対価として選ばれるのかは分からない。全てはレイザを仲介とし、全てを見てから祠は決める。祠そのものが生きているのだ。ただ表現が出来ないだけで、そこには命が溢れている。その全てを理解しているのがレイザだった。言葉にする事のない会話達はレイザと祠の契約の一部にしか過ぎない。


 彼の右手に手を置くと、自分の中の力の一部が吸われていく感覚に陥った。これは月魔導士の力が吸われている。元々はリリアの力ではないのだが、自分をここまで育ててくれた母親の能力の一つだ。親から預かった力が選ばれるとは考えていなかったリリアは、手を動かそうとするが、石のように固まって、動く事が出来ない。

 『月魔導士と縁を繋ぐのなら、同様の対価は頂かないと。儀式が始まった時点で、止める事は出来ないんだからね。それはリリア、君も知っているはずだけど。今更、怖くなったのかい?』

 『……そんな事は』

 慣れていた身体が急に軽くなる。重みのある能力に馴染む為にしてきた努力が無駄になる恐怖もある。一番、悲しいのは母親の鼓動を感じる事が出来なくなる事だった。一度混ざった能力は、リリアの魂に刻まれていく。その事に気付ける事はなかった。


 徐々に意識が揺らめき始めた。リリアは吸い込まれるように、バサッと倒れると、彼女と馴染んでいた月魔導士の力を9割、吸収したレイザが彼女の元へとゆっくり近づいてくる。


 『……いい夢を見るんだな、そこにお前の願い人がいるのだから』

 そう告げると、自分の役目を終えたレイザは徳漱石の欠片を袖に隠すと、その場を後にした。

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