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星と月の道しるべ

 星達が道しるべとして輝きながら、何処に行くべきかを示してくれている。あたしが見ている景色は現実のものとはかけ離れている、まるでおとぎ話の世界に迷い込んだような感覚があった。自分が何をしようとしているのかを理解する余裕はない。体の奥から湧き上がる熱から逃げるようにただ高速で空中を飛んでいる。


 『ジュビア、お前は『鑑定士』として生きる事が決められている。時にはお前の奥底に眠る『月魔導士』としての力に気付く者も出てくるだろう。だが、それは出してはいけない』

 「月魔導士? あたしにはそんなものはないわ。母様と同じ『鑑定士』なのよ。そんな話、信じる訳ないでしょ」

 『そうね、貴女はまだ(・・)私のお腹にいる状態だから、まだ経験もしてない事を理解するなんて難しいわよね。でもね、ジュビア。貴女が人間として自分の人生を本当の意味(・・・・・)で生きる時に、実感出来るような事が起こる。だから、貴女が鑑定士としての立場を手に入れるまでは封印しておきます』


 母様のお腹の中で眠るあたしは、うとうとしながらその言葉を聞いていた。月魔導士と呼ばれる存在は、勇者を支える為に産まれた存在だ。全ての世界を繋げる為のカギとも言われている。何度も転生しながら、隠れながら生きていると綴られている。そんな事をどうして今、思い出しているのか分からないけれど、母様の声が響く度に、体を支配している熱は少しずつだけど、冷静になっていく。


 「お前にこの剣(・・・)を鑑定して欲しい」


 一人の男の姿が脳裏に浮かんでいる。これは誰の記憶だろうか。自分が対応しているように見えているが、あたしにはそんな記憶、覚えがない。


 「鑑定士としての君の評判を聞いて、ここに来たんだ」

 『そうですか。でも何か他にも用事があるのではないですか?』


 男はあたしがそう言うと、ハハッと笑いながら前髪を掻き上げた。背中には漆黒の大剣が何かを主張するように、揺らめいている。男は一端、距離を置くと、わざとらしく驚く。


 「なに? なに? 俺の事、見えてんの?」


 砕けた様子の男はまるで別人のように口調を砕け、楽しそうに距離を戻す。わざとらしい態度に、少しイラッとしてしまう。


 『貴方はリリアに示されて此処(・・)に来たのでしょう?』


 その名前に反応するように綻ばせていた口元が硬くなっていく。それは彼の感情の色が消えていくような、闇に染まってしまう危うさを抱えていた。


 顔が影になっていてよく見えないのに、何故だか懐かしさを感じてしまう自分がいた。何処かで会ったような、昔から知っている感覚に陥るあたしはただ無言の中で手を伸ばそうとした。


 「ライラ、君は鑑定士であり月魔導士と言う訳だね。彼女(・・)が言ったんだ。合図はきちんとあったから、それが答えなのだろう?」


 あたしと一体化していた記憶の欠片は、二つに分裂し、別の姿を創造していく。シャランと耳飾りが揺れる音が聞こえながら、一つに結えられた髪があたしの視界を溶かしていく。

 

 暗闇の中で話している会話は徐々にあたしの意識から遠くへと飛び、渦の中へと消えていく。

 

 月達が導く先には人間達の欲望と悪意に塗れた世界が待っている事も知らずに、あたしはトンッと地面に降り立つのだった……

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