変わる炎の色
彼女の鼓動が聞こえた。天空から見る事しか出来ない男は以前の彼女を見ているような感覚に陥いる。白い羽根が男の前に現れると形を象っていく。
その光景を見つめながら酔いしれる。
『彼女こそ探していた存在なのですね。あの時は器は男性と勘違いしていました。今となっては浅はかであり愚かだった』
「もう一人候補がいるだろう? 目移りしたのか?」
赤い男は彼に指摘するとハッと我に返りながら羽根の手入れをする。
『そうでしたね。あれもあれでいいのですが……どちらかと言うと彼は貴方が欲しいのではありませんか? アゴウ』
「さぁ? どうだろうな」
赤い髪を靡かせながら笑うアゴウはおどけたようにはぐらかすと大剣を置き、いつもの姿に戻っていく。
『少しは落ち着きましたが、そういう所は変わっていませんね』
生きた状態で天界と人間界を行き来する事は出来ない、本来ならば……
「昔の事を言うな」
アゴウの瞳には懐かしい思い出が広がっていた。しかし全ては思い出にしか過ぎない。過去に縋り付いていても何も変わらないのだから瞼の奥側から広がる景色を遮断するように切り離していく。今自分の目にある物事が『真実』なのだ。彼はそう呟きながらカタンと席に着いた。
『アゴウいいのですか? 今まで貴方は語り継がれてきた存在を保っていたのに急にジュビアに会って』
「……大丈夫じゃね?」
ジュビアの事を影から見ていると懐かしさが湧き上がってくる。そんな存在に出会ったのは初めてだった。だからこそ惹かれたのかもしれない。姿形は違うが彼女のもう一つの姿がジュビアなのだろうと確信する事も出来たのだから──
二つの鼓動の音。
核となる徳漱石。
そしてアゴウの能力を注ぎジュビアを貫いた『大剣』
深く考えれば考える程合致していく点。散らばっていた存在が繋がりながら線となり形へと変化していく。
「だからか……あの二人があの世界に居た理由は」
呟きは波動を生み出す。アゴウの言葉に影響されてか映像が乱れ始めた。二つの世界を繋ぐ存在達はジュビアを中心に動き出すだろう。そうやって広がりながら染まっていくのだ。
アゴウはニッと笑いながら男に囁いた。
「俺達が居た世界は元には戻らない。ならばこの世界を支配すればいいと思わないか? サイレ」
『アゴウ?』
「別に俺は勇者になりたくてなった訳じゃないからな。俺の事を知っている奴はこの世界ではリンだけだろうな。カイは俺を見た時まだ幼かったし、どうせババアに記憶消されてるだろうしな。それならリンを取り込んだらいい訳さ。昔のように、な』
黒い笑みは空間さえも支配していく。綺麗に澄んでいた空気は重みを持ち重圧を作りながら、正反対の世界を作り出そうとしている。アゴウの心の奥底で燃える炎は己の欲望の為に真っ黒に染まり始めた。
ピン──
空気の異変を感じたリンはバッと背後を振り返る。そこには誰の姿もない。
『リン?』
『……なんでもないわ。カイ行くわよ』
誰かの意思のように風が巻き付こうとしてくる。少しの変化に気付けかどうかで忍びの質が問われるのだ。今まで起こる事のなかった変化が起ころうとしている。自然はそれに察知し、こうやって意思表示をしてくる。
『嫌な予感がする……』
変化は変化でも悪い変化なのだから──